SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.6, December. 2006

7.《ISS2006 国際超電導シンポジウム 報告 (開催地:吊古屋国際会議場 10/30~11/1)》


   第19回国際超電導シンポジウムISS2006(国際超電導産業技術研究センターISTEC主催)は、吊古屋国際会議場にて10月30日から11月1日まで22ヶ国、ここ数年では最多の715人が参加して開催された。米国、欧州そして中国、韓国などアジア太平洋地域の参加者が多く、発表件数は口頭145件ポスター390件合計535件と昨年に比べて42件増となった。高温超伝導が発見されてから19年が経過しているが、近年基礎研究(Physics & Chemistry)の発表が減少気味である反面、応用研究の発表がそれ以上に増えており、19年に亘る高温超伝導研究開発の成果が花開く実用化フェーズに入ったことを示す会議であった。

 初日の会議は、ISTEC/SRL田中昭二所長の開会挨拶に続いて、2件の特別基調講演と6件の基調講演が行われた。特別基調講演では、先ず田中所長が「日本に於ける超電導技術の現状と超電導応用の展開《と題して講演した。SRLではMulti-plume & Multi-turn法により212.6 m長テープを作製し、Ic×L値として52,087 A-mを達成している。フジクラは110 m長テープでソレノイド型マグネットを製作し、77 Kで1.2 Tの磁界発生に成功した。30 Kでは3 Tの外部磁界下においても1 Tの磁界を発生し、ソレノイド巻線による実用的な伝導冷却コイルの実現可能性を実証した。さらに現在開発中の500 m長HTSケーブル、66 kV−500 A限流器、昨年末581 km/hrを達成したMaglev、10 MVAレベルを実証したSMES、船舶用超電導モータも実用化に向けて開発が加速している。最近SFQ素子の研究も急速に進み1万個以上の接合を含むMPU回路の高速動作が報告され、40万個の接合を含むSFQ回路の設計が可能なことも示されている。SFQデバイスは、ポストシリコン素子としてルータ−、サーバーへの応用が実現しつつあると述べた。次いで、ロスアラモス国立研のPeterson博士は、「米国に於ける厚膜導体開発の概観《について講演した。第一世代Bi系線材は電力応用向けにAMSC社から1000 m級の超伝導線が年率数100 kmで供給されている。現在、LIPAプロ、Albanyプロ、Columbusプロを含む8つの送・配電Bi系ケーブルの実証プロジェクトが進行中である。第二世代Y系線材Coated Conductor(CC)については、諸大学、国立研究所の支援下でIBAD法、RABiTS法を中心に各種手法の開発が精力的に行われ、100 m長テープで1~2 MA/cm2レベルのJcと200 A/cm-w級のIcを達成している。SuperPower社はIBAD-MOCVD法で427 m長の線材を製造し、81,550 A-mを達成すると共にAlbanyプロ向けに既に12,400 m長の4 mm-wテープを貯蔵している。AMSC社もRABiTS-MOD法で4 cm幅SCテープを作製し、テープの両面にCu安定化材を積層して4 mm幅にスリットした100 m長テープで350 A/cm-wを達成したと述べた。

基調講演では最初に、秋光純教授(青山学院大学)が最近発見した2種類の新超伝導体について報告した。第1の新超伝導体Y2C3は、合成条件によりTcは10 Kから18 Kに変わる。3条件で作製した試料で超伝導特性を測定し、より高いTcの試料はより強い結合則で記述出来ると結論した。第2の新超伝導体は3元系のCaAlSiであり、MgB2類似の六方晶の結晶構造を有し、新しい鉱脈になりうると述べた。P.C.-W. Chu教授(香港科技大&ヒューストン大)はYBCO発見に至る前史をレビューした後、YBCOの発見は高温超伝導(HTS)時代を切り拓くもの、現代物理学そして量子凝集物質科学と超伝導技術に於ける最も刺激的な発展を表すものと述べた。最後に、将来世界の持続的発展に対する深刻な制約を解決する上でYBCOが有する可能性を強調して話を結んだ。J. Martinis教授(カルフォルニア大)は、ジョセフソン接合Qubitについて講演した。現在、2つのQubit間の絡み合い (entanglement)やC-NOTゲート動作が実証され、多数のQubitの結合方法とデコヒーレンス時間の改善が課題となっている。数ビット程度の量子コンピューターの実現については楽観していると述べたのが印象的であった。塩原融部長 (ISTEC/SRL)は第二世代Y系線材 (CC)の日本国プロジェクトについて現状と将来展望を報告した。高性能線材開発グループはPLD-CeO2 / IBAD-GZOバッファー基板上にPLD-YBCOを積層してテープを作製している。GdBCOを用いると、522 A/cm-wの高Ic値が得られた。245 AのIc値を持つ212.6 m長のテープ作製により52,000 Am以上のIc×L値を達成した。低コスト化を最優先するグループはTFA-MOD、MOCVD、PLD-HoBCOの3法により開発を進めている。692 A/cm-wの高Ic値がPLD-CeO2 / IBAD-GZO / Hastelloy基板上のTFA-MOD薄膜で得られたと述べた。D.U. Gubser氏(米海軍研究所)は低温エレクトロニックス付き船舶推進用超伝導モータの研究開発について報告した。AMSC社は5 MW同期モータを製作し、2004年に試験して仕様を満足する成果を得た。現在、36.5 MW機の製作が進められ、2007年の早い時期に完成が見込まれている。更にステータ−巻線も超伝導化した全超伝導機の研究についても触れた。岡徹雄教授(新潟大学)は溶融法で作製したバルク超伝導体の捕捉磁界は希土類元素置換、熱処理法及びミクロ構造の研究等によって大幅に改善したと報告した。65 mmを超える直径を持つ大サイズの単一ドメインバルクを得る作製技術が過去10年間に確立し、市場へのバルク材の安定的供給に結びつき、それがバルクマグネット、磁気分離システム、超伝導モータ等の応用を促進していると述べた。

2, 3日目の会議は、物理・化学、バルク/システム応用、線材/システム応用、薄膜・デバイスの各分科会に分かれて討論が行われた。各分科会の参加者に寄稿戴いた各報告を以下に掲載することとする。

閉会に当って田中所長は、次回の会議は2007年11月5日から11月7日まで、つくば国際会議場で開催される予定と述べた。 

                            

(SUPERCOM事務局取材)

1. Physics & Chemistry

 高温超伝導発見20周年の記念すべき年の国際超電導シンポジウム (ISS2006)は吊古屋国際会議場で開催された。個人的印象では、初期の「high-Tc フィーバー《の熱気も冷めてきて、ISSには物理化学分野からの論文投稿数が随分少なくなったと感じていたが、ISS全体では論文投稿数が年々増加の傾向にあるようで、数少ない超電導の総合コンファレンスとして年々高い評価を受けているようだ。物理化学分野では数よりも質を重視ということで、数年前より、毎回トピックスを選んで focused symposium のような形のセッションが設けられている。今年度は「超伝導体のアンドレーフ反射《がそのテーマとして選ばれた。銅酸化物超伝導体に代表される新超伝導体は、超伝導状態に従来超伝導体にはない数々の新しい側面をもっており、それらの理解こそが、高温超伝導体の最適な応用への第一歩である。そのために鍵となる概念がアンドレーフ反射であり、これら新超伝導体の超伝導状態での上純物効果、磁束量子の運動・エネルギー散逸、ジョセフソン効果など、超伝導状態でのほとんど全ての現象はアンドレーフ反射に始まり、アンドレーフ反射で終わるといっても過言ではない。これらに対して超伝導研究者が理解を共有することが、本セッションの目的であった。はじめに、高柳(NTT)がアンドレーフ反射のレビューに加えて、カーボンナノチューブで非常に高磁場まで近接効果が観測されていることを報告し、聴衆を驚かせた。異方的超伝導体でのトンネル効果の理解にアンドレーフ反射が本質的であることを指摘した先駆者の一人である柏谷(産総研)は、異方的超伝導体のトンネル効果のレビューを行い、同じく先駆者の田仲(吊大)は強磁性体がバリアにあるときなどに必須となる奇周波数クーパー対について講演した。前田(東大)は高温超伝導体の磁束量子のフロー運動では、従来超伝導体と異なり、磁束量子コアの境界でのアンドレーフ反射が支配的な役割をはたし、準粒子と超流体が渾然一体となった大きな散逸が生じてしまっていることを実験結果に基づき示した。磁束量子の運動を応用する場合は、この散逸を抑える何らかの工夫が必要であろう。この他にも、西田(東工大)はSTMを用いた磁束量子のコア観察について最新のデータを報告した。Wei (トロント大)は、逆に、アンドレーフ反射を手段として利用して、最近注目されている充填スクッテルダイト超伝導体 PrOs4Sb2 の複雑な超伝導状態の相図を決定することができることを示した。  Focused sessionと並行して、超電導エレクトロニクス分野が主催した超電導量子ビット関連のセッションがあり、多くの興味深い講演を聞くことが出来なかった(あるいは聞きにきてもらうことができなかった)のは残念でならない。今後はこのことを教訓として、プログラム編成時に、物理・化学分野と他分野との調整が必須であろう。

 Focused session 以外では、角度分解光電子分光 (ARPES) (井野(広島大)他)で最新の結果がいくつか報告されたが、ARPESのデータも、装置の進化などにより、年々、他のプローブによる結果との整合性がよくなっているという印象を受けた。あと数年すると、何が本当に重要な結果かの整理がさらに進むと期待される。高温超伝導の物理・化学で常に最重要課題とされる電子相図の理解に関しては、Dugan (テルアビブ大)が、電子超伝導体の輸送特性データに基づき、x = 0.16での量子臨界点の存在を主張した。また工藤(東北大)はSIMのデータに基づき、特殊な秩序状態の存在を示唆した。(会議では報告されなかたが)マイクロ波で超伝導ゆらぎを詳細に調べることにより、上足ドープ・最適ドープの境目に大きな変化があることを主張しており、あと数年でこれらの主張が一つの統一した描像として開花することを期待したい。物質面では、ボロンドープダイヤモンドを初めとして、いくつかの新物質関連の興味深い講演があったが、Jin (中国科学院)がキャリヤの空間分布をより秩序化させることによりSr2CuO3+ で95 K のTcを実現したというのが印象的であった。まだまだ既成のTcが上昇する可能性が示唆されたように思われる。

 また、磁束物理関係のセッションでは31件の講演があり、うち、5件がMgB2に関する講演 (Putti(ジェノバ大)、野島 (東北大)、Zhao (南西交通大)、桂 (東大)他)であった。MgB2以外では、小久保 (九大)、大熊 (東工大)らが、MoGe系で駆動された磁束格子の動的状態についての発表を行った。個人的には、今後の超電導体応用を考える場合、このような話題 (駆動された磁束格子のダイナミクス)は非常に重要な問題になると思う。奇しくも、最近アルゴンンヌ国立研究所がまとめた今後の超電導研究のロードマップのなかにも、磁束のダイナミクスは重要課題として位置づけられている。この他、メゾスコピック系での超電導研究について、神田 (筑波大)、加藤 (大阪府大)、石田 (大阪府大)らが特徴ある研究成果を発表していたように思う。

このように、高温超伝導20周年の記念すべき年に行われたISSを終えた感想として、20年たった今なお、銅酸化物高温超伝導体は現象の宝庫であり、様々な興味深い研究題材、応用の可能性を提示してくれているということを再認識した。  

                           

(東京大学:前田 京剛)

2. Bulks & Characterization

バルク高温超電導体は溶融成長結晶の塊であり、直径20~30 mm、厚さ十数ミリ程度の磁石寸法で1テスラを超える磁束密度を生成させることが可能であり、コイルに比べて強磁場を得るための寸法は小さくてすむメリットがある。一方、その磁束密度分布は中心部で高く磁場勾配が大きくなる。この磁石をどのように使いこなしてゆくかについてはいろいろなアイデアが提案されている。材料の商業化も比較的早く、すでに磁気分離装置、マグネトロンスパッタリング装置、また最近ではミキサが提案されそれぞれの実用的メリットが明らかにされている。他方、線材コイルの応用でも注目されているモータや発電機への応用についても基礎開発や検討が各所で進んでいる。ひとつの機器、システムに新しい材料を導入するにあたって求められるのは量産性、特性の均一性、信頼性、耐久性などが求められることはいうまでもない。誰でも入手できるようになったバルク磁石であるが、材料の周辺にいる側はこの磁石でなければ実現できない機器性能を求める努力とともに、投入マーケットによっては在来磁石のリプレースというイメージがぬぐえない場面もあり材料の格段の性能凌駕と品質保証が要求される。今回のISS2006でのバルクのセッションでは、発表者がそのような事柄を十分共通に意識するようになって来たという印象をもった。バルクの発表は、大別、材料合成プロセス、新しい磁石形状、機器内部で励磁できるパルス着磁技術、機器への実装応用に大別され、まず基調講演(新潟大岡)におけるバルク磁石の開発と機器応用のレビューにつづき、口頭講演セッションにおいてKrabbes (IFW)は組織構造の制御によってピーク効果などの材質の改善が必要あることを示し、200 kW、200 rpmなどのモータなどへの機器応用研究の状況をレビューした。Noudem (CRISMAT)は従前から彼らが行っているバルク前駆体に多数の穿孔によるバリウム銅酸化物の浸透や金属含浸の有効性を示した。

Iida (Cambridge大)は単一ドメインのGdバルク磁石の製造方法についてコールドシードで特性改善の報告を行った。Kim (KERI)はボールミリングで粉砕したナノ粒子BaCeO3をY系バルク体に添加して粒子捕捉のメカニズムを調べた。ナノ粒子のピン止め中心としての添加と臨界電流の向上の研究はポスターセッションにおいても発表があった。今後は、切り出し片の磁化測定から得られる臨界電流の向上だけでなくバルク磁石の寸法全体にわたる実際の着磁による有効な磁束の増加を確立してゆく必要がある。Nariki (ISTEC)は前駆体などを微細粉で生成するとクラックの導入に至りやすくプロセスに有機バインダーの有効性を報告した。磁石の新しい形状としてかとり線香状に成形したバルク磁石コイルの紹介が、Morita (新日鉄)からあった。これらの材料プロセスと磁石の開発とともに、Nakamura (理研)らにより核磁気共鳴装置への応用の報告があり、とくにメディカル分野への応用に期待をもたせた。Sakai (ISTEC)直径140 mmを超える大型バルク磁石を2枚スプリット型磁石の配置にしての磁場中冷却を行い、着磁特性を調べた。その結果65 Kで5 Tを得た。2つのバルクがスプリット型磁石として有効に機能していることを示している。

大型バルクの静磁化の評価が進む一方、実機内部での着磁を想定してパルス着磁の研究も進んでいる。Kimura (東京海洋大)は大型バルクの複数回のパルス着磁において、着磁コイルが与える磁束分布を変化させることにより磁束密度分布の成型と磁束量の制御が可能であることを示した。Fujishiro (岩手大)はパルス着磁におけるバルク磁石周辺部への磁束導入のもつ意味を明らかにしたのち、捕捉磁束の向上に対してどのような着磁磁場分布が有効であるかを示した。 

 

(東京海洋大:和泉 充)

3. Wires, Tapes & Characterization

Wires, Tapes & Characterizationのセッションでは36の口頭発表と126のポスター発表(昨年に比べ合計34件増)が行われた。以下に、線材開発と特性評価に関する主なハイライトを紹介する。

BSCCO & MgB2線材:住友電工より、高圧焼成プロセスによるBi-2223線材の特性向上について報告された。臨界電流値(Ic)は、プロセス改善に伴い上昇し続けており、現状の最高値はIc = 201 Aに達している。これは線材1 cm幅の値に換算すると493 A/cmである。昭和電線からは、Bi-2212線材の4.2 Kの優れたポテンシャルについて報告された。0.81 mm、427フィラメントの丸線において20 Tの高磁界中において2×105 A/cm2のJc値が得られている。この特性はNb3Snを凌駕するものであり、高磁界マグネット材料としての応用が期待される。

日立と物材機構のグループは、MgB2線材の開発状況について報告した。線径0.8 mm、長さ100 m級線材で短尺と同等の性能が得られており、線材化プロセスが着実に進展してきている。また、炭素化合物の添加によって、Bc2は26 T(4.2 K)まで上昇し、ピン止め特性も向上することを示した。

RE系次世代線材プロセス及びコイル化技術:

(1) TFA-MOD法:SRLのグループは、TFA-MOD法においてBa-poor組成において高特性が得られることを明らかとし、短尺においてIc= 735 A/cm, Jc= 3.2 MA/cm2の最高値を得た。長尺プロセスへの適用も開始しており、リール式による連続塗布によって得られた1 cm幅、56 m長で250 AのIc値を得ている。昭和電線は、バッチ熱処理の適用により、40 m、155 A/cmの特性を得ている。海外勢では、米国AMSC社により、安定化層を有する4.8 mm線材において、94 m長、Ic = 122 A(= 300 A/cm)が報告された。これは第一世代のBi-2223線材と同等のレベルであり、市場に投入できる特性をクリアできたと認識している旨報告された。

(2) MOCVD法:中部電力は、多段式CVD法を用いて、IBAD-Gd2Zr2O7基板上に203 m、Ic = 93 Aの特性を得た。成膜速度は50 m/hで14回の多層成膜を行っている。米国SuperPower社では、IBAD-MgO上に全長427 m、Ic = 191 Aを実現した。Ic×線材長は81,550 Amに達し、現在の世界最高値である。製造速度も45 m/hの1回成膜と、優れた値を実現している。

(3) PLD法:昨年既に200 m級線材が実証されており、現在はさらに磁界特性の向上を目指して、Y系以外の希土類系を用いた研究に展開している。中でもGd系線材は、その高Tc特性により液体窒素温度域における磁界特性に優れ、長尺化の検討が進められている。SRL-NCCCでは60 m長でIc =183Aの線材を得ている。3 Tの外部磁界中で、総ての印加角度に亘り20 A以上のIc値を保っている。

(4) 人工ピン導入・線材特性評価:バルセロナのCSICのグループより、TFA-MOD法においてBZOナノドットを導入し、磁界中の特性が著しく向上することが報告された。単結晶基板上での値ではあるが、77 K, 1 Tにおいて2.2 MA/cm2を得ている。米ORNLではIBAD-MgO上のNdBCOに対して、BZOナノドットを導入し、総ての印加角度に亘り、65 K, 3 Tにおいて220 A/cm以上のIc値を得ている。米BNLからはBaF2プロセスにおいて、3 mの厚膜の特性向上が示された。77 K, 1 Tの総ての角度域に亘り、200 A/cmの高Ic値を維持しており、異方性も殆ど見られない。磁場中のIc値としては最高の値である。ピンニングのメカニズムの詳細についてはまだ上明の様だが、モータ応用をはじめとする磁場下での応用に対し重要な進展といえる。国内では、SRL-NCCCによって、GdBCOに対するナノ構造導入の報告がなされ、厚膜においても効果的なピンとして作用することが示された。77 K, 1 Tにおいて70~150 AのIc値を得ている。吊大では、低温成長SmBCOにおいて1.2 MA/cm2, 77 K. 1 Tの特性を得ている。

ピン止めと並んで、磁場下の粒界での輸送特性は、線材の性能向上の為の重要な研究課題となる。九大では、バイクリスタル上の単一粒界を用いて、外部磁界による粒間Jcから粒内Jcへのクロスオーバの様子を可視化することに成功した。磁場中のJc制限因子解明の為の有効な評価法として期待される。 (5) コイル化技術:長尺線材の実現と共に、コイル化の検討も進んでいる。SRL-NCCCは、GdBCO線材を用いて、4.2 Kで5.7 Tの磁場発生に成功した。運転電流は895 Aであり、異方性の大きいテープ線材を用いても、単層で1 kA程度の運転が可能な事を実証した意味は大きい。また、九大-SRL-九電のグループは、交流応用を想定し、コイルの交流搊失を低減する巻線技術を実証した。今後の大型コイルへの適用が期待される。

(九州大学:木須 隆暢)

4. MgB2

本稿では、ISS会議で発表されたMgB2に関する発表について紹介させて頂く。筆者らの時間的制約や勉強上足により、有意義な研究を聞き逃している可能性があることをあらかじめお断りさせて頂く。

会議初日のPlenary Lectureでは青学大のAkimitsuから、MgB2とY2C3, そしてCa-Al-Si系の新物質1H-CA S (Tc ~7 K)の超伝導について講演があった。

Wires, Tapes and Characterizationのセッションでは、NIMSのKumakuraからPIT法によるin-situ法MgB2線材の開発状況について講演があった。線材試料の超伝導特性に及ぼす熱処理温度の影響やSiC、芳香族炭化水素の添加効果について報告があり、とくにSiCを添加し600°Cで熱処理を施した試料ではHc2(0)が40 T以上に達したことが報告された。また、ラミネート法により鉄マグネシウム合金からMgをBに拡散させる方法により高密度のMgB2線材の作製に成功したことも報告された。この他にも線材に関する研究では、JR東海のYamadaらはアークプラズマ法によるナノサイズの微細Mg作製過程で徐酸化処理を施すことにより、原料粉末中の上純物MgOの混入が抑制され、高いJc (4.2 K, 10 T) = 27.5 kA/cm2が得られたことを報告した。また、首都大のMiuraらからは仕込組成をBリッチにしたテープ線材試料でピンニング力の向上がみられたことが報告された。九大のHata、YoshidomeらからはSiCドープをしたテープ線材、及びホットプレスを施したバルク体におけるMgB2のTEM観察結果について報告があった。一方、バルク体に関する研究では、横国大のKimishimaらからは金属元素のドープ効果とフラックスジャンプに関する考察が、東大のYamamotoらからは磁気光学法によりMgB2バルク内の電流阻害因子を解析した結果が報告された。

Vortex Physicsセッションでは、Genova大のPuttiは、11MgB2バルクと高Tc薄膜(41 K)の磁場中JcおよびHc2が中性子線照射による点欠陥導入により改善することを報告した。東北大のNojimaらはAlドープMgB2単結晶のトルク測定から、Al置換がバンド性を強くしていることを報告した。また、西南交通大のZhaoらは、ナノHo2O3の添加によりMgB2粒内に析出したHoB4が上可逆磁場の改善に有効であると報告し、東大のKatsuraらは、希土類酸化物のドーピングが超伝導特性に与える影響は元素によって異なることを示した。

Films, Junctions and Electronic devicesセッションでは、MBE法による製膜結果が多く報告されたが、電子ビーム蒸着法やESSD法による合成結果も報告された。基板材料はさまざまであったが、島根大のIchizonoらはZnOおよびGaNバッファ層、岩手大のHaradaらは、Tiバッファ層の導入効果を報告した。島根大のAdachiらは、Ag-Tiバッファ層を導入したポリイミド上MgB2薄膜を実物とともに紹介した。Jcを改善する試みとしては、鹿児島大のDoiから、MgB2薄膜と薄いNi層またはB層を交互に積層した構造の作製、熊本大のHarutaからは、20 K, 10 TでJc ~ 100 Acm-2という高Jc MgB2薄膜の作製が報告された。アリゾナ大のNewmanはMgB2ジョセフソン接合におけるバリア層材料の選択指針と最近のデバイス作製分野の発展について講演した。日立のYamamotoらはAu/AlN/MgB2キャパシタを用いた1ループ共振器の作製手法について報告した。大阪市立大のNishikawaらはMgB2を用いた中性子検出器のシミュレーション、岩手大のIriudaらはMgB2から作製したSQUID素子の特性について報告した。

このほか、Large scale system applicationsでは、中国科学院のLiらより、液体Heおよび冷凍機冷却(20 K)、中心磁界1.5 TのMRI磁石の作製が報告された。

(東京大学:山本 明保、桂 ゆかり)

5. Films & Junctions / Electronic Devices

 本分野では、30件の口頭講演、75件のポスター発表が行われ、論文総数は昨年とほぼ同数であった。内訳としては、量子ビット(Qubit)関連7件、接合物理関連7件、MgB2関連がほぼ同数の9件、デバイス応用では、SQUID関連が15件、高周波デバイス・センサー関連が13件、低温SFQ及び高温SFQデバイス関連がプロセスも含めて31件と全体の約30 %を占めた。

 量子ビットに関しては、今回California大のMartinis氏によるジョセフソン接合Qubitに関する基調講演に加え、磁束Qubitに関する3件の招待講演がMooij (Delft大)、Nakamura (NEC)、Semba (NTT)の各氏により行われた。現状では、2つのQubit間の絡み合い (entanglement)やC-NOTゲート動作が実証され、より多数のQubitをどのように結合していくかが、デコヒーレンス時間の改善と共に大きな課題となっている。講演では、Qubitそのものを用いるtunableな結合方法やLC共振回路を用いる方法が示された。多ビット化の進展は以前の予測より遅いように感じられるが、Martinis氏は4-10ビット程度の量子コンピューティングの実現に関しては楽観視していると述べた。また、d波超電導体であるY系薄膜を用いた粒界接合やBi系固有接合において、マクロ量子トンネル現象の観測が報告された。node付近の準粒子がコヒーレンス維持に致命的な影響は与えていないことを示唆し、Qubit応用への期待がもてる結果ではあるが、1/f雑音のデコヒーレンスへの影響などの課題も指摘された。接合物理関連では、Twente大のHilgenkamp氏により、ランプエッジ型Nb/Au/YBCO接合に付随した位相のシフトを利用した、d波対称性へのs波対称成分混在の検証実験や、結合した半磁束量子アレイの観測、SFQトグル・フリップフロップ (T-FF)要素回路の動作などの結果が報告された。シフトを利用したSFQ回路は、同じ4 K動作のNb系SFQ回路と比べ集積度向上に難があるが、新しい概念として興味深い。

 MgB2に関しては、Tiバッファ層を用いたZnOやフレキシブル基板上への薄膜成長が岩手大や島根大グループから報告された。SISトンネル接合については、自然バリアあるいは熱酸化バリアによりギャップの2倊に相当する約4.3 mVのギャップ構造が明瞭に見える接合は得られるものの (Arizona州立大報告)、リーク電流が依然として大きく、有用な接合の作製にはまだ多くの課題があるように思える。また、NMR/MRI応用をねらいとした薄膜共振回路作製の試みが日立より報告された。

 SQUID応用では、Nb系SQUIDを用いた高度な64チャンネル心磁計測システムの報告 (韓国、KRISS)に加え、高温超電導SQUIDを用いた免疫検査装置 (日立、九大)、LSI検査装置 (NEC)、溶接部の非破壊検査技術 (豊橋技大)、NQR検査装置 (NIMS、阪大)の開発状況が報告された。SQUIDを用いた磁気的免疫検査は、従来の光学的手法に比べ2桁以上高感度という特長に加え、結合/非結合標識の分離が上必要で検査の高速化が期待できるが、センサー部に漏れ磁界があると非結合標識からの信号が雑音となる。磁気シールド構造の改善や補償コイルの使用により、結合/非結合標識の分離ありの場合に比べ1/8程度の感度にまで到達している。LSI検査装置では、90 nmノード論理回路中の断線箇所の同定ができることが示された。

高周波応用では、第4世代基地局用送信フィルタの開発に関し、Y系超電導薄膜上の誘電体層積層 (富士通)やバルク材料 (山形大)を用いることで耐電力特性が大幅に改善されることが示された。その他、ALMA計画用SISミキサの開発 (国立天文台)やテラヘルツ応用をねらいとした高感度のトンネル接合検出器開発 (理研、埼玉大他)の進展が報告された。テラヘルツ検査装置への応用では、希釈冷凍機の低コスト化が課題であろう。

 デジタル応用では、NEDOプロジェクトによる、スイッチ応用をねらいとしたNb系SFQデバイス開発及び計測器などの小規模応用をねらいとした酸化物系SFQデバイス開発の進展がSRLや吊大、横国大より報告された。Nb系では、半導体LSIと類似のトップダウン設計技術が完成し、40万個の接合を含むSFQ回路の設計が可能なことが示されると共に、1万個以上の接合を含むマイクロプロセッサ回路の高速動作が報告された。酸化物系では、プロセス技術の信頼性向上により、ほぼすべてのSFQ要素回路の動作が示された。また冷凍機を用いた実装技術の開発も進み、Nb系スイッチ回路による高速信号処理やコンパクトなサンプラー計測システムのデモンストレーションの準備が進められている。海外では、米国で軍のサポートを得て無線用ADコンバータの開発を行っているHYPRES社が、民生応用に向け、受信側だけではなく送信側のデジタル信号処理もSFQ技術で行うデジタル-RFトランシーバと呼ぶシステムの開発を開始している (現在は要素回路開発の段階)点が注目された。

(超電導工学研究所:田辺 圭一)

6. Large Scale System Applications

Large Scale System Applications分野では、オーラルセッションで5件の招待講演を含む9件、ポスターセッションで50件の発表があった。また、基調講演として1件この分野の発表があったので、それも含めて以下に紹介したい。

まず、電力ケーブル、限流器、変圧器・リアクトル、SMESなどの電力機器に関わる発表は34件あった。

住友電工のH. Takigawa からは、米国Albanyで進められている高温超電導ケーブルプロジェクトにおけるケーブル敷設と試験結果の報告があった。3心一括の34.5 kV、800 A、48 MVA、350 m長ケーブルは2006年7月20日に運転が開始され、これまで順調に運転されている。2007年夏には30 m区間をBi系線材のケーブルから2 G線材のケーブルに置き換えられ、同年秋にはその運転が開始される予定である。韓国KEPCO Gochang ケーブルプロジェクトについては3つのポスター発表があった。22.9 kV、1250 A、100 m長のケーブルはすでに現地に敷設され、試験も実施された。ポスターではそれらの結果についての報告があった。古河電工のS. Mukoyama からは、Y系線材を使用した電力ケーブル開発について報告があった。交流搊失が2 mm幅線材で、1 kA当たり0.054 W/mという結果が得られ、目標の0.1 W/mを十分クリアするものであった。次のステップとして、66/77 kV級500 A、20 m長のケーブルの製作、デモンストレーションを計画している。

M. Noe (FZK、ドイツ) からは、Y系線材を使用した超電導限流器の開発について報告があった。線材の基板と保護膜間を線材長手方向に連続的に接続することが一様なSN転移に有効であることを示した。その結果、数cmから1m程度までの長さの直線状線材でのSN転移実験で、臨界電流が場所によって最大3倊程度異なるような均一度の悪い線材特性であっても、線材にダメージを与えることなくSN転移することを実証した。

K.C. Seong (KERI、韓国) からは600 kJ高温超電導SMESシステムの開発に関する報告があった。10年計画でMJ級高温超電導SMESを開発しようとするプロジェクトの第1ステップであり、導体、コイル設計・製作、保護、電流リード、変換器等の要素技術の確立を目指している。

電力機器の他には、舶用回転機、磁気浮上・磁気軸受、磁気分離、ドラッグデリバリ、NMR、MRI等、幅広い超電導応用機器・システムの発表があった。

基調講演として、D.U. Gubser (Naval Research Laboratory、米国) は、軍事船舶用の同期モータの研究開発現状について報告した。5 MW (6,700馬力) 同期モータをAMSC社が製作し、2004年に試験して仕様を満足する成果が得られた。現在、36.5 MW機の製作が進められ、2007年の早い時期に完成が見込まれている。さらに固定子巻線も超電導化し、モータ駆動用回路も低温化して電動機に一体化した、全超電導機の研究についても報告がされた。極低温モータ駆動回路や全超電導化はまだ様々な開発要素があると思われるが、意欲的な研究開発が進められている。

H.-W. Neumueller (Siemens、ドイツ) からは、4 MVA、3,600 rpm、重量6.9トンの同期機の開発と試験結果の概要の紹介があった。効率は98.7%であり、在来機と比較して1.7%の向上であった。さらに、4 MW、120 rpm舶用回転機の計画についても紹介があった。これは低速のため重量は38トンに達するが、在来技術で製作すると53トンにもなり、それと比較すると大幅な軽量コンパクト化となる。

バルク超電導体の強力な磁石としての応用研究として、理化学研究所のT. Tanaka からは、シンクロトロン放射光源としてのアンジュレータへの応用について、大阪大学のS. Nishijima からは、目標とする患部に薬物を効果的かつ集中的に送り込む技術であるドラッグデリバリーシステムへの応用について発表があった。

以上のような発表を含む全部で60件の発表のうち、わが国の研究者からは30件の発表があり半分を占めていたが、韓国からも電力機器を中心に25件の発表があり、2001年から10年間、3期計画で進められ、第2期を迎えている超電導応用電力機器開発を中心とするDAPAS計画の成果発表が積極的に行われていた。全体として、Y系線材を利用した、あるいは想定した研究発表が増えており、Y系線材の開発の進展とともに応用への期待が大きいことと、線材開発と機器開発の並行研究による研究のスピードアップが図られていることが現れている。

(東京大学 : 大崎 博之)