SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.6, December. 2006

6.第9回誌上討論 「次世代線材開発プロジェクトの進展《総括 _超電導工学研線材研究開発部長(次世代線材開発プロジェクトリーダー 塩原 融_


  酸化物超電導材料が発見されて20年が経過した。超電導技術は送電線網に代表される電力機器のみならず、医療機器、産業応用等多様な波及効果が期待でき、21世紀のエネルギー施策、CO2低減等への貢献が期待出来る国家的に極めて重要な技術である。また、国際技術競争の中でわが国が優位に立っている重要な技術でもある。 YBCO系(RE系を含む)超電導材料を使用したY系線材は、以下の5大特長が開発の大きなモチベーションとなり、日米欧で熾烈な開発競争が繰り広げられている。

1) 銀の使用量が少なく、高臨界電流が期待出来ることから、単位臨界電流・長さ(A・m)当たりのコストの大幅な低減が将来見込める。

2) 磁場中臨界電流密度が高いことから高磁場応用が高温で可能である。

3) 機器開発の仕様として重要な機械強度の観点で、金属基板の選択の自由度があることから、高強度が期待できる。

4) 機器のコンパクト化に繋がるオーバーオール臨界電流密度(Je)の向上が見込める。

5) 超電導線材が絶縁中間層を介した薄膜積層構造を有していることから、線材作製後の細線化等の後加工により交流搊失の低減が可能である。

 表1に、Y系線材の作製プロセス、線材長さと1 cm幅での臨界電流との積、短尺線材における臨界電流密度を総括して示す。線材単長と臨界電流の向上には眼を見張る成果が世界中で報告されており、特に、日米の開発競争は毎年“抜きつ、抜かれつ”の状況にある。

 新エネルギー技術開発機構(NEDO)からの委託研究開発で進めている経済産業省管轄の第II期超電導応用基盤技術開発プロジェクト(H15~H19)において、Y系線材の開発は、現在、着実に成果が挙がっている。現状の開発の進捗及びプロジェクト終了(H19年度末)までの目標達成を目指した開発に関しては、プロジェクト参画研究機関から報告されたSUPERCOM先月号の第9回紙上討論「次世代線材開発プロジェクトの進展《を参照して頂きたい。

 実用化に向けての今後の開発課題は、長尺性能(Ic, Jc, Je, Ic-Jc-B-T-θ等)の更なる向上/均一化、結晶成長速度/線材製造速度の高速化、量産化、歩留まりの向上、交流搊失の低減、線材の接続技術の開発等が挙げられ、最終的には単位臨界電流・長さ(A・m)当たりのコスト低減に繋がる技術開発が重要となる。中でも線材製造速度に関しては、米国のSuperPower社が、中間層の層数は4層と多いものの、各層の製造速度で数十m~百m/hを報告しているとともに、オーバーオール臨界電流密度(Je)も、40 m厚の安定化層を含めて26.3 kA/cm2 (Bi系線材は約13~17 kA/cm2)を報告しており、日本の開発が後塵を拝している状況にある。今後、材料開発に留まらず、工学的観点からの更なる研究開発を加速して推進して行く所存である。

 応用基盤プロジェクトでは今年度から、Y系線材を使用した変圧器、送電ケーブル、超電導限流器、電動機(モータ)を対象とした各種機器開発の要素研究を進め、その成果からフィードバックされる各機器固有の超電導線材仕様を満足させる研究開発指針を得る計画で進めている。さらに、Y系線材機器に適応した冷凍機の開発も進め、平成20年度以降の本格的な機器開発を目指した基盤研究に取り組んでいる。

 Y系線材の研究開発は、世界的に加速されているものの、大規模な設備投資が必要なことから、研究開発のリスクが高い。今後、平成20年度以降の超電導線材開発においては、All Japan体制で進める革新的でリスクの高い研究開発と、民間が主体的に実施する量産化/歩留り向上等の線材開発を棲み分け、超電導機器開発(現行の機器要素研究から機器開発へ)と並行して進めることが肝要である。特に、これまでビスマス系超電導線材あるいはNb系低温金属超電導線材で機器開発が進められてきた機器において、線材のリプレースで可能な機器(送電ケーブル)開発とともに、Y系線材の性能を大いに発揮させるために開発が必要な機器(SMES、変圧器、限流器、電動機等のコイル応用)に対しても開発を積極的に取り組む必要がある。これらの機器開発は電力会社等のEnd-User側からの視点で研究開発を進めることが効率的である。

 超電導線材の研究開発に関しては、線材を提供し機器開発に資する民間企業は、現行の応用基盤プロジェクトの成果である高性能線材及び低コスト線材の実用化を目指し、量産化/歩留り向上等が開発課題となる。更に、実用化・事業化に対してボトルネックである極低コスト化(\1~3 / Am)に繋がる線材研究開発に関しては、現行プロジェクトで進められている極低コスト線材開発を発展させ、高速製造、長尺均一化、臨界電流の更なる向上を目標にした線材の実用化共通基盤技術を開発するとともに、SMES、 変圧器、ケーブル等の機器応用対応線材基盤技術開発を進めることを提案し、超電導産業が貢献する “美しい日本"の21世紀の革新的技術の実現を期待する。

                               


表1 世界の長尺線材作製実績と短尺での特性記録。