SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.6, December. 2006

3.Bi-2212線材の最近の進展 _昭和電線ケーブルシステム_


  Bi-2212線材はTcが80K付近であること、熱処理プロセスに溶融-凝固法を用いており、フィラメント径さえ適正に選択すれば高い超電導特性を持つ線材が得られること、その形状はテープ状のみならず膜、丸線など比較的任意に選択できるなど、他の酸化物超電導線材と比べていくつかの特徴を持っている。特に、高い臨界電流密度を持つ丸線ができることがBi-2212線材の大きな特徴となっており、また、高電流密度の特徴を生かすことができるのは10 K以下の低温領域であることから、これを利用した大容量導体やインサートコイルの開発が着実に進んでいる。

丸線での臨界電流密度の最高値はOxfordから報告されており、4.2 K自己磁界中では640 kA/cm2に達している。この構造は、数年前に昭和電線が報告したものと同じダブルスタック構造をとっており、この構造をとることでフィラメントの酸化物充填密度の向上が可能となる。また、ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅の組成比を2:2:1:2からBiリッチにずらすことで、安定して高特性が得られるようになったという。2006年のASCでもこの線材を用いた高磁界インサートマグネットを報告しており、133 m長の0.8 mmの線材を使って内径53.0 mm、外径81.9 mm、高さ73 mmのコイルを作製し、自己磁界で2.3 T、19 T中で約1 Tの磁界を発生させたことを報告している。

昭和電線では、中部電力と共同で開発した0.8 mmの丸線を用いてラザフォード型圧縮成型導体の開発に取り組んだ結果を報告している。導体用に使用した丸線は一条1,800 mで作製しており、2005年にはこれを170本製造した。これらの臨界電流密度の平均値は430 kA/cm2であり、この線材を30本圧縮成型して撚り線をすることで厚さ1.6 mm、幅13.5 mm、ピッチ長90 mmの導体に仕上げている。また、焼成後に導体に可とう性を持たせるために、撚り線の上下層の間には特殊なセラミックス紙を入れてセパレータとしており、これによって作製した導体は1%の曲げ歪量に耐えうる。作製した導体は1条200 mから220 mの長さになっており、総量で21条を作製した。導体はすべて減圧液体窒素中で全長の臨界電流値とn値の検査を行っており、21条の臨界電流値の平均値で780 A (64 K)であった。これは、4.2 K自己磁界中の臨界電流密度に換算すると12.5 kAに相当する。このような大容量の導体は用途が加速器や電力貯蔵等特殊な分野に限られているが、次世代の高磁界加速器用の導体として注目されており、すでに米国の国研での試験が検討され始めている。ブルックヘブン国立研究所では、リアクト&ワインド法を使って150 mm径のレーストラック状コイルの試作を行った結果を報告しており、4 kAのコイル臨界電流値が得られたという。また先にシアトルで開かれたASCにおいてはローレンスバークリー国立研究所がBi-2212ラザフォード導体を用いたコイルを次の高磁界コイルに使用する有力な導体として提案するなど、丸線や導体化など酸化物超電導線材としてユニークな形状に着目した用途展開は今後も着実に進んでいくものと考えられる。

昭和電線では今回の製造レベルの導体作製に関する技術確立は出来たとしているものの、今後の高磁界インサートマグネットや高エネルギー物理分野での用途展開に対して、更なる臨界電流密度の向上や耐熱絶縁技術も含めたワインド&リアクト法によるマグネット作製技術の改良が必要であるとしている。

                               


図1 ラザフォード型圧縮成型導体の外観。


図2 ラザフォード型圧縮成型導体の断面。

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