SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.5, December. 2006

8.《2006年度 第1回 新規磁場応用に関する調査研究会報告》


 低温工学協会「新規磁場応用に関する調査研究会《2006年度第1回研究会が東京大学で開催され、長岡技術科学大学の椊松敬三教授が「高磁場の利用による材料創生と周辺科学技術《という題目で講演された。椊松教授は光学顕微鏡によるセラミックスの構造評価など、オリジナリティの高い手法を通じてセラミックス材料創製に関する研究をされており、今回の講演ではアルミナ、酸化亜鉛、チタン酸ビスマス系非鉛強誘電体の粒子配向から、粒子配向に及ぼす回転磁場の影響、高配向を実現するために必要となる条件などについてまで紹介して頂いた。以下ではその概要を報告する。

 近年、磁気異方性を示す物質に対し磁場が及ぼす作用を利用して、結晶方向の制御された材料を創製する試みが注目されている。磁気異方性を持つ結晶を磁場中に置くと、磁気トルクが働き、磁化率の値が最も大きな結晶軸が磁場と平行になるように、結晶が回転する現象が見られる。微粒子を分散させたスラリーを多孔質の型に流し込んで型を取る時に(スリップキャスト)強い磁場(数T)を印加して、その後焼結することにより、非磁性体と分類されてきたアルミナなどの弱磁性体でさえも配向させることが可能となった。配向制御は材料の特性改善に有効であると考えられており、既に実用化された例として、配向-アルミナを用いた電力貯蔵用ナトリウム-硫黄電池が紹介された。配向アルミナを使用することでより高効率なイオン伝導を達成することが出来るということである。よく行われる圧延や押し出しなどの機械的配向では均一な配向を得ることが難しく、配向させる方向にも制限がある。一方、磁場配向は非接触力を利用することから、このような機械的配向の欠点を解消することが可能ではないかと期待されているとのことである。

 磁場配向は結晶軸方向の磁化率の大きさに依存するため、各軸方向の磁化率の大小により結晶の配向する向きが異なる(図1)。例えば、アルミナはc軸が磁場と平行に配向するが、酸化亜鉛はc軸が磁場と垂直に配向する。酸化亜鉛のように結晶軸が磁場と垂直に配向する場合には、ただ磁場をかけただけでは磁場と垂直な面内での自由度が残るため、完全な配向制御が上可能である。しかし、この様な場合であっても、回転磁場を用いることにより一軸配向を実現できることが知られている(図2)。この方法に関して、回転磁場の角速度を上げると配向度が増加するという実験結果が紹介された。この結果について、角速度を更に上げるとどうなるのか?といった議論が交わされた。

磁場配向を達成するための諸条件に関しては、微粒子の粒径、分散液中での濃度などに依存するという。微粒子の粒径に関しては、粒径が大きいほど、小さな磁場でも配向した成形体が得られるという結果(図3)が示された。この結果は、粒子の体積が大きいほど磁場から受けるトルクが強いため、回転し易いということから理解される。また、焼結温度と配向度の関係を示したグラフを見てみると、温度が高くなるにつれて配向度も大きくなるという結果であった。これは、焼結時には大きな結晶がその周りの小さな結晶を取り込みながら成長する、即ち磁場配向しやすい大きな結晶が優先的に成長していく結果であるとのことである。しかし、粒子の体積が大きいと焼結後の成形体の相対密度が小さくなるという欠点もあるため、粒子の体積が大きければ良いという単純なものでは無いという。また、粒子の濃度に関しては、濃度が大きいほど配向度が低くなる実験結果が紹介された。これは濃度が高いほど、粒子間の物理的接触など粒子の回転を阻害する要因が強く働くためであるということである。  また、椊松教授が研究されている光学的観測を用いた構造評価の例として、結晶軸が磁場となす角度のゆらぎ幅の計算結果 (図4) が紹介された。これは、光学的観測から求めた配向度を元にMarch-Dollase関数でfittingして計算したもので、この結果は実測値とよく一致しているということであり、非常に興味深いものであった。

 磁場配向をより実用的なものにするためには、配向条件を明らかにし、必要となる設備などの環境条件を緩和することが重要である。今回の椊松教授の講演では、粒径や磁場強度など様々な異なった条件下で行った実験結果を多く示され、その指針を考察する上で、とても有意義なものであると感じられた。今後一層の研究の進展が期待される。

 (東京大学:島田 保)

                               


図1 磁化率の大きさと配向する軸の関係。


図2 磁場の有無における微構造の比較。


図3 配向度と磁束密度の関係。


図4 光学的観測から求めた計算結果と実測の比較。