SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.5, December. 2006

7.《ASC2006会議報告 (2006年8月28日~9月4日:開催地 米国ワシントン州シアトル)》


1.金属系線材

MgB2線材

本稿では、ASC2006で発表されたMgB2に関する研究のうち、外国人の発表について紹介させて頂く。もちろん、日本からも興味深い成果や今回紹介する発表と相補的な内容の研究も報告されていたが、紙面の都合で割愛した。また、筆者自身の時間的制約や興味の偏りで、有意義な研究を聞き逃している可能性や、線材研究の報告になってしまったことを予め御理解・御容赦頂ければ幸いである。

作製関係では、上純物の添加効果に関する報告が非常に多かった。目立っていたのは、Dou (Wollongong大: 豪)のグループで、リンゴ酸、安息香酸、ポリカーボネートシリコン(CPS)、カーボンナノチューブ(CNT)など、SiCに匹敵する新たな炭化水素系化合物を報告している。個人的に興味を持ったのは、リンゴ酸の添加効果(Kim et al.)で、添加時にMgB2が棒状に成長する現象だった。添加効果に、元素置換などによる特性向上だけでなく粒の成長方向を制御する機能が加われば、今後の課題になるであろう高密度化や粒界結合性の向上に対する解決策のヒントが得られるのではないかと思った。

一方、Grasso (Columbus社: 伊)は、粒径のそろった微細なボロン粉末(~ 200 nm ?) を独自に調整して、Jc ~ 2  104 A/cm2 (10 T, 4.2 K) のEx-situ線材を報告した。Haessler (Leibniz Insit. Solid. State Mat. Res.: 独) も、ボールミルで原料粉を微細化しながらMgB2粉末を作製し、Grassoと同等になるJc ~ 5  104 A/cm2 (8 T, 4.2 K) のEx-situ線材を報告している。これらの値は、筆者やByeon (Texas A&M大: 米)の1  104 A/cm2を上回るEx-situ線材の最高Jcと思われる。線材のJcは、評価方法次第で高めに見積もられることもよくあるので(負け惜しみ?) 、粉末調整の詳細を確認したかったが、筆者にはできなかった。いずれにせよ、Ex-situ線材のJcの相場はこの付近で、In-situ線材と同等であることは間違いないだろう。

他にも、Mgをボロンに拡散させる作製手法でMgB2シリンダーや線材試料を作製したEDISON社(伊)のGiunchiのグループや、多結晶試料を作製する際に、CVD技術を利用して原料のボロン粉末にエチレンガスを吹き付ける(コーティング?) Young (Southampton: 米) 、B2O3を水素還元して原料粉末の高純度化を計ったJiang (Wisconsin: 米) など、気になる研究がいくつか報告されていた。

こうした作製研究に対し、限流器、コイル、液面計、MRIなどの開発研究で目立っていたのは、Hyper Tech社(米)で、CTFF法 + In-situ法で1~61本くらいまでの長尺多芯線を作り分けて、多くのグループに試料提供をしていた。彼等自身もコイルを作製し、3.4 T (4.2 K)の磁場発生に成功している。また、“React & Wind”でコイルを作製する試みも行っている。未確認情報では、米国エネルギー省が同社を支援しているらしい。これに対抗するのは、Columbus社とAnsaldo Supercond.社 (伊)で、PIT法 + Ex-situ法の組み合わせで、Hyper Tech社と同等レベルのコイル作製に成功している。いずれにせよ、こうした開発系の研究では、10本前後の多芯線を0.2 mm程度に加工するレベルまで細線化が進んでおり、Schlachter (Inst. Tech. Phys.: 独) らの発表でも述べられていたが、線材の均質性や特性を向上させる解決策の一つとして原料粉末の微細化が要求されている。

一方、評価研究からは、比熱測定によるTc分布の解析、熱的安定性や交流搊失などで興味深い報告があった。日本でも線材の基礎特性を多角的な視点で議論できるよう、作製分野と評価分野の研究者の連携をもっと深める必要があるのではないかと思った。

全体的な印象では、発表件数が2年前のASCより増えており、発見直後のスタートダッシュ組以外の研究者が頭角を現してきていた。内容的にも、20 Kでの実験データが増えており、利用目的や到達目標がより明確になっている印象を受けた。個人的には、熾烈な競争の中で苦戦しそうな気がして、今後は、直接的にJc向上を目指す研究だけでなく、より新規性の高い技術の開発や多角的な視点での特性評価・解析、系統的なデータの取得に努めるなど、すそ野を拡げる研究も意識することで競争力を高めていこうと思った。

 (物材機構:中根茂行)

MgB2以外の金属系線材

今回のASCでも、Nb3Sn関連の発表件数の多さが目を引く。材料セッションだけでNb3Snは40件あり、Nb3Alの6件、Nb-Ti合金の5件、V基超伝導体2件と比べて多い。Nb3Snは良くも悪くもOI-ST社の改良型内部Sn線材(RRP)を中心に行われており、RRPの評価、これを凌駕しようとする研究が進行中である。最初に紹介するのはOI-STからの報告だ。RRPは12 T, 4.2 Kでnon-Cu Jcが3000 A/mm2を越えることから次世代加速器用線材として注目されているが、分散バリア構造を採用しているため安定化材へのSn汚染によるRRRの低下、大きな有効芯径による低磁界上安定性などが問題点であった。今回、モジュール数を91まで増やす設計で、単長600 m以上、有効芯径80 m以下、RRR100以上を満足して12 T, 4.2 Kでnon-Cu Jcが確保できると報告した。ITER用途には製造コストを下げるためにTaの一括バリア構造で19モジュールとし、Nbフィラメント間隔を広げてヒステリシス搊の低減を実現した。また、耐応力特性改善のために酸化物分散強化銅を用いることが有効であると述べた。しかし、ブロンズ法やPIT法と比べてRRP法Nb3Sn線材の応力歪み感受性が高いことを、NHFMLとGeneva大の2機関はそれぞれ報告した。また、JAEA、CEA Cadarache、NFRC、東北大、岡山大、上智大、MIT、Twente大からも様々なNb3Sn線材の応力歪み特性に関する発表があった。

新しいNb3Sn線材の試みとしては、NbSn2以外のMxSny化合物をPIT法のSn拡散源にできないか検討したWisconsin大の報告が興味深かった。MxSny化合物とCuを拡散反応させるとOverallの反応厚さがCoSn2やV2Sn3で厚くなる。これらの反応層とNbとの反応を今後は調査する予定とのことであった。徳島大からはブロンズに替えてAg-Sn合金を用いる方法が、また、NIMSからはSnに富むCu-Sn化合物をSn拡散源にした新しいPIT法が提案された。このNIMSの新PIT法と全くうり二つの製法が米国ベンチャー企業SupraMagneticsからも発表されており驚かされた。Nb3Sn拡散層のSn濃度勾配が知られているが、これを反映するブロンズ法、RRP法、PIT法Nb3Sn線材のTc分布がGeneva大から報告された。比熱データから解析したTc分布は、いずれの製法でも11 Kから18 Kまで広い。Onset TcはPIT, RRP, ブロンズの順に低く、また、半値幅TcはPITが最も狭くなって、PITが良質で均質なNb3Sn層が生成しているようであった。

合金系では、2 KでのBc2改善を目指したNb-Ti-Ta合金がOhio州大から、V-Ti合金が徳島大から、伝導冷却パルスマグネット用Nb-Ti合金テープ線材が鹿児島大から報告された。V3Gaは低誘導放射化材料としてNIFSで研究が再開されたようだ。

Nb3Alに関しては加速器応用を目指した報告がNIMS、KEK、FNALから4件あったのが注目される。単長1.2 kmのCu安定化RHQTNb3Al丸線を用いて30 mの27本撚りラザフォード導体を試作し、撚り戻しして取り出した素線について超伝導性の劣化が少ないことを確認するとともに、ラザフォード導体の通電試験をCERNで実施し、小型レーストラックマグネットも試作した。また、1 km級のCu安定化平角線を用いた実規模内層コイル励磁試験結果もNIMSから報告された。RHQT法Nb3Alの実用化が間近であるとの印象を受けた。さらに、急冷後に銅管に再スタック・伸線して安定化材を複合するとフィラメントの微細化により上可逆歪みが約1%まで増加した。                      

   

     (物材機構:竹内孝夫)

2. Coated Conductor

 今回の会議では、開催に先立ちYear 2005 Superconductor Industry Person of the Year Awardeeとして塩原氏(SRL)が表彰され、今後6年間のASCボードメンバーとして田辺氏(SRL)、雨宮先生(横浜国大)が選出された。会議は、Electronics、Large Scale、Materialsの三分野に関する講演が口頭、ポスターと順次紹介されていった。ここでは、Materialsの中心的な研究となっている、RE123導体やRE123薄膜などのcoated conductorに関する発表を一部紹介する。 Coated conductorの分野は日米を中心として、さらに欧韓などの研究グループが「長尺化,高Ic化などの実用化開発を念頭に入れた研究《や「超伝導マグネットなどの応用を目的として、磁場中高特性化のためのピン止め点の導入《などの研究結果を報告していた。

Super-Power社(米)のIBAD-MgO(約20 m/h以上の製造速度)基板上YBCO-cc (IBAD-MgO/ epi-MgO/LaMnO3/HTS)は、300 m以上の長尺線技術の構築、Ic•L(臨界電流と長さの積) = 70540 A•mと世界最高の特性を達成したことを報告した。さらに超伝導層の製膜方法も低コスト線材プロセスの一種であるMOCVD法であること、現在の線材 (数百メートル程度)保有量なども示しており、製造速度および低コストプロセスのメリットを強調していた。

またGoyal(ORNL)や山田(ISTEC)などのグループは、すでにPLD法などの気相法で人工ピン(APC)としてBaZrO3ナノ析出物を用いる方法に成功し、単結晶基板以外にIBADテープ上で高い磁場中超伝導特性を示すことを報告している。低コスト製造プロセスの一種であるTFA-MOD膜に関しては、ICMAB-CSIC(スペイン)のグループが最近行われたCCA2006やM2S-HTSCなどの会議から注目を浴びていて、今回のASC2006においても単結晶基板上の超伝導薄膜であるが興味深いデータを紹介していた。気相法以外の低コストプロセスMOD法で、BaZrO3をYBCO薄膜中に導入し、Fp値が約20 GN/m3程度(B = 2 T)と吊大グループの気相法で作製したSmBCO膜(MgO上)同様の高い値を示すことを報告した。なお、BZOの導入方法などに関しては未だ詳細を述べていない。MOD法に関してはYBCO薄膜中にRE-Cu系酸化物などを混入させる方法(SRL)で、磁場中超伝導特性が改善されることが報告されているが、今回の報告のFp値ほどには至っていなかった。今後、金属基板上TFA-MOD膜のAPC導入が検討され、低コスト、磁場中特性向上といった研究目標の融合が図られると考えられる。

 さらに、2年前のASCに比べ数多くの研究グループから「人工ピン導入技術《の報告があった。吊大グループは、単結晶基板上でこれまで報告しきた低温成膜法(LTG)を用いて、IBAD上のLTG-SmBCO膜がJc = 0.24 MA/cm2(77 K, 5 T),1.1 MA/cm2(77 K, 1 T)と高い特性を示すこと、Goyal(ONRL)はRABiTS基板上にBZO導入NdBCO膜を作製し、Jc = 0.56 MA/cm2(77 K, 1 T)と向上することを報告していた。他に松本(京大)のGdBCO膜の粒界ピン、Air Forceのグループの積層技術によるピン導入、ONRLの各種酸化物ナノロッドのAPC導入、山田(SRL)らのIBADテープ上BZO導入GdBCO-ccのJc向上など、これまで以上に「REBCO《「積層《「微細組織制御《を駆使した「人工ピン導入技術《が紹介されていた。

 本報告では紹介できなかった研究内容も含めて、基礎的研究から応用を念頭にいれた研究が多くなりつつあるが、Coated conductorの長尺化技術、人工ピン導入、さらにここでは紹介しなかったが評価技術、応用機器への適応技術の観点からさらなる新規アイデアや技術の構築が研究進展には重要であると感じられた。

最終日にだれもいなくなった会場にいたとき、松尾芭蕉の「静けさや 岩にしみいる 蝉の声《という俳句を思い出した。ふと、ASC2006に参加した研究者たちが、Coated conductorの実用化、すなわち超伝導技術のエネルギー応用という戦いにむかって、また旅だっていったように感じられた。そしてその結果は2年後のASCに大きなおみやげとともに紹介されるであろう。次回のASCはシカゴで開催される。(ASC2008: August 17-22, 2008, Hyatt Regency Chicago)

会議中に、超伝導研究やASCの発展のために尽くしてこられたJ. E. Evetts 氏やDavid F. Moore氏を偲ぶシンポジゥムも行われた。最後にお二人のご冥福をお祈りしたい。       

 

   (吊古屋大学:吉田 隆)

3. エレクトロニクス

アナログ

実際に参加したセッションのみをまとめて報告する。未報告のセッションがあることをご容赦願いたい。

LTS接合作製のセッションでは、情報通信機構の王等により高品質のNbN系トンネル接合について興味深い報告がなされた。直流スパッタにより作製したNbN/AlN/NbNトンネル接合において、Rsg/Rn ~ 40と大きく、Nb系のような理論的なヒステリシスを示す特性を得ている。I-V特性は、一見して特性が向上したことがわかるものであった。

量子情報通信への利用が期待される超伝導単一光子検出器 (SSPD)の報告の増加が非常に目立った。報告の多くは、NbN超薄膜を用いた幅100 nm以下のミアンダパターンによる単一光子検出で、反射防止膜+反射膜による共振器構造を用いた量子効率の向上に関する報告、大きなカイネティックインダクタンスの影響を無くして高速応答を実現する方法に関する報告が数多く見られた。Moscow State Pedagogical大のG. Goltsman等は、将来的に量子効率90%以上で光子カウントレートが4 GHzを実現可能であると報告した。

Bi-2212の固有接合を用いたTHz波発振について2件の興味深い報告があった。1件は、韓国Pohang理工大のBae等の報告でBi-2212の発振スタックからの磁束フローによるTHz波発振を、mオーダー離れたBi-2212検出スタックで検出するという報告であった。非常に微弱ではあるが発振スタックから空間を伝搬して検出スタックでTHz波を検出した実験結果が示された。もう1件は、物質材料機構の王等による報告で、サブmサイズのBi-2212中の磁束フローによるTHz発振に関する一連の実験結果が紹介された。理論的考察から、ボルテックス格子が正方格子よりも三角格子を組みやすいために、それぞれの接合で発振するTHz波の位相がずれていることが報告された。

超伝導転移端センサー(TES)や超伝導トンネル接合素子(STJ)を用いたセンサーについて複数のセッションが設けられていた。TESについては、宇宙応用に関するセッションでTESアレーの応用例が報告された。NISTのK. Irwinは、100 mK以下で動作するTESはeVオーダーの分解能をもち、時分割多重化や周波数分割多重化により大規模アレーからの信号読み出しが可能となっていることを報告した。この技術は、X線分光 (NASA)、CMB(Cosmic Microwave Background)観測(U.C. Berkeley, JPL/Caltech), TESアレーと大きなSiやGeの結晶吸収体(1000 kg)を組み合わせたDark matter検出(Stanford大,NIST)に応用されていることなどが各研究機関から紹介された。STJについては、Yale大学のD.E.Prober教授によりサブミリ波・THz波領域において将来宇宙応用で要求されるNEP < 10-18 W/Hz1/2をNb/Al/AlOx/Al/Au構造のSTJアレーにRF SETによる周波数分割多重化による読み出しを組み合わせて実現可能であることを報告した。また、Lawrence Livemore国立研究所のS. Friedrich等は36チャンネルのSTJアレー検出器を用い、2万cpsを超える高い計数率を活かして高強度のX線源を用いたタンパク質に対するX線分光の応用例を報告した。

SQUIDの新しい応用分野として、MRI、NMR、NQRなどへの応用例が報告された。本来、これらの測定では信号が印加した磁場に比例するために強磁場を必要としてきたが、0.1 T程度の磁場で発生する微弱信号によるTオーダーの磁場をSQUIDで検出することにより弱磁場によるMRI、NMR、NQRの測定が可能となり、装置の小型化、低価格化とともにSN比の向上、空間分解能の向上などが期待されていることが報告された。

 

 (埼玉大学:明連広昭)

デジタル

 デジタルエレクトロニクス分野は、アナログデジタル信号処理では米国HYPRES社が、大規模デジタル応用では日本のSRL、NICT、吊大、横国大からなるCONNECTグループが主要な発表の大部分を占め、他を圧倒する結果となった。特に米国ではFLUXプロジェクトの終了に伴いNorthrop Grummanなどがコンピューティング応用から撤退し、現時点では軍関係の大きなファンドがHYPRESのみに落ちていることもあり、米国からの主要な発表はHYPRESの独占状態となった。一方、CONNECTグループは、SRLの高い信頼性のプロセスと安定で効率的な設計技術を背景として、多くの大規模なSFQ回路の動作実証を行ない、大規模デジタル回路技術において他を大きく引き離したと言える。

 アナログデジタルコンバータ(ADC)のセッションでは、HYPRESからの発表がセッションの半数以上を占め、ADCに関する最新の成果が報告された。Guptaらは、多チャンネルADCの開発状況について述べた。これは、アナログ信号のサンプリングをSFQ回路により高周波数で行ない、その後のデジタル信号処理により多チャンネルの信号抽出と処理を同時にかつ独立に行なうシステムである。今回、1チップ上にmodulatorとchanelizerを集積化し、20 GHzでのシステム動作実証を行なった。HYPRESのVernikらは、ローパスADCの高性能化を行ない、1 kA/cm2ジョセフソンプロセスを用いてチップを試作し、20 GHzクロック周波数、信号バンド幅5 MHzに対して、14.97 bitのENOB(有効ビット数)を得ている。これとは別にNorthrop GrummanのHerrらは2次のオーバサンプリングADCを実現する方法として、ジョセフソンチップとHBTチップからなるハイブリッドシステムを提案している。HBTの高い増幅率とSFQの高い精度を利用してフィードバックをかけることにより、高性能の2次のADCが実現できるとしている。

 大規模デジタル応用のセッションでは、CONNECTグループからパイプラインプロセッサ、非同期プロセッサ、ビットシリアル加算器などの高速回路動作実証の報告があった。特に複数のALUを持ちパイプライン処理が可能なCORE1マイクロプロセッサに関する報告があり、1万接合規模の回路において、全機能の高速動作実証に成功している。更に、CONNECTグループからは4ビットのデータ幅で加算を行なうビットシリアル加算器の25 GHz動作が報告され、半導体加算器を上回る性能が示された。SRLの亀田らは、受動線路を用いたSFQ論理回路用の自動配置配線ツールを開発し、4万接合規模のマイクロプロセッサの設計を行なった。これに対して、Chalmers大のグループは、通信用のデジタルシグナルプロセッサ(DSP)の開発を目指した一連の研究経過を報告している。プロトタイプシステムとしてMCM技術、インターフェイス技術、SFQ回路/CMOSメモリハイブリッド技術を統合したMAC(積和演算器)を提案し、HYPRESの4.5 kA/cm2プロセスを用いて要素回路の動作実証を行なっている。その他、南アフリカのStellenbosch大からはSFQ回路に基づくプログラマブルゲートアレイの提案があった。

 一方、Nbベースの集積回路プロセスについては、HYPRESから20 kA/cm2プロセスの開発に関する報告があったが、実際のHYPRES大規模回路の動作実証の主流は1 kA/cm2であり、4.5 kA/cm2で幾つかの回路の動作実証が行なわれている段階である。産総研の前沢らからは、10 kA/cm2プロセス技術とセルライブラリについての報告があり、従来の1.6 kA/cm2プロセスに対して約2倊の周波数での回路動作が示された。SRLの佐藤、永沢らは、平坦化に基づく10 kA/cm2プロセス技術の改善を行い、Nb9層を可能とした他、これらのプロセスを用いてJosephson RAMを作成し、メモリのビット誤り率を評価した。

  (横国大:吉川信行)