SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.5, December. 2006

6.第9回誌上討論 「次世代線材開発プロジェクトの進展《


Y系高温超伝導(HTS)厚膜テープは高温磁界特性が本質的に優れ、次世代線材の最有力候補と目されており、日米欧で世界的な開発競争が繰り広げられている。本厚膜テープ製造法の先鞭をつけたのは日本勢ですが、米国勢はそれを急追して高性能厚膜テープの開発に成功している。最近では、日本勢がそれを巻き返し、さらに欧州勢が加わるという展開である。当SUPERCOMでは、3年前に「次世代線材プロジェクト《(本誌Vol.12, No.5に掲載)を取り上げたが、今号ではこの間の本プロジェクトの進展を本年4月からスタートした機器要素技術開発を含めてレビューし、今後実用化に向けての展望について討論したいと思う。なお、次号では塩原融プロジェクトリーダーによる総括記事を掲載する予定である。

今回の誌上討論参加者は、本線材開発プロジェクトに参加している次の方々である。(敬称略)

斉藤 隆、飯島康裕 フジクラ 材料技術研究所主管研究員、主任研究員

上山宗譜、広瀬正幸 住友電工 エネルギー環境技術研 超電導研究部主研

三村正直、向山晋一 古河電工 メタル総研超電導グループ主研、環境エネルギー研究所主研

青木裕治 昭和電線電纜 無機・金属材料開発室超電導グループ長

鹿島直二 中部電力 電力技術研究所超電導チーム主研   長谷吉二 ジャパンM&G鈴鹿工場・技術部長

林 秀美 九州電力総研 電力貯蔵技術グループ長 菅原義弘 日本ファインセラミックスセンター主研

相良 勇 大陽日酸 開発・エンジニアリング本部超低温プロジェクト

雨宮尚之 横浜国大知的構造の創生部門教授 塚本修巳 横浜国大知的構造の創生部門教授

木須隆暢 九州大学電気電子システム工学部門助教授 石山敦士 早稲田大学電気電子情報工学科教授

塩原 融 超電導工学研線材研究開発部長(次世代線材開発プロジェクトリーダー)

山田 穣 超電導工学研主管研 吊古屋センター長 中尾公一 超電導工学研主研

和泉輝郎 超電導工学研主研 吉積正晃 超電導工学研主研

筑本知子 超電導工学研主研 掘上 徹 超電導工学研特別研究員

田中靖三 国際超電導産業技術研究センター標準部長

1.高性能長尺線材プロセス開発

Q1:①IBAD法による本研究の必要性と狙いについて、②従来の経緯と現在の到達点、③今後の課題とその対応策、④日米欧の対比と実用化に向けての展望についてお伺いしたい。

A1-0:本研究の狙い(山田)

高性能長尺線材プロセスは、本プロジェクトではIBAD-PLD法のことを指すが、この製法は他と比べて、① 日本でIBADが発明され、長尺化を含めて世界をリードしてきた。② 用いる金属基板はハステロイであり、従来の銅マトリックスのNbTi, Nb3Sn線と比べても大きな強度を持つ。YBCO線材としての引っ張り強度は1000 Mpaである。③ 非磁性であり、磁場中使用でのロスがない。④ コスト上重要な収率では、PLD法は26%の実績があり、これまで報告された中では格段に高い値である。⑤ PLD法は人工ピンなどの磁場に強い組織の導入が容易であり、今後の磁場応用で威力を発揮する、という大きな特徴を持つ。

以上のように、良好なるJcの磁場特性だけでなく、強度、ロスの点でも有利であり、機器応用の点でYBCOの応用範囲を広げる可能性がある。とは言え、いずれも作製装置は大型の真空成膜装置であるため、初期コストは高くなりやすい。しかしながら、ごく最近ではIBAD-MgOバッファ層や高速PLD法を用いて、数10 m/hの高速化が報告されてきており、先駆けていた長尺高特性と同様、コスト低減を含む商用化に明るい見通しが立ってきた。本プロジェクトでは、この有望なIBAD-PLD法をメーカーであるフジクラと公的機関であるSRL吊古屋研究所において、各々量産化技術と高特性化技術について分担しつつ効率的に開発を進めている。現在では、77 K、自己磁場下で、100 Aクラス(Jcにして1-2 MA/cm2)の線は実績ベースで1-2 km作製しており、安定して長尺製造できるようになってきた。このため、技術開発の点では、高速化と300-500 A(自己磁場下)、30-50 A(3 T)を目指した高特性化を、さらなる500 m長尺化と同時に進めている。

A1-1:フジクラの取り組み(飯島)

当社は早い時期からY系高温超伝導材料による厚膜線材の開発に着手しており、90年代初頭に開発したIBAD法配向中間層を中心に、超電導層をPLD法で積層する方法で同線材の開発を進めている。1999年度よりスタートした超電導応用基盤技術開発プロジェクトにおいては、同法による長尺化設備開発を進めるとともに、中間層材料としてYSZに代わりGd2Zr2O7(GZO)を見出し、第二期においては高性能長尺線材プロセスと位置付けて500 m級の配向中間層を開発するに至っている。しかしながらGZO等の蛍石系酸化物を用いた場合、現状でも線速は5 m/h程度であり、コスト面での改善が必要となっている。このため当社においてもMgO等の岩塩系材料を用いた極薄中間層の検討を開始しているほか、これまで取り組んできた蛍石系中間層の知見と利点を生かせる方法も探っていきたいと考えている。

超電導層についてはPLD法による制御性の良い成膜によって高特性長尺化を図るというコンセプトで進めている。現在のところ長さ217 mにて全長のIc = 88 Aというのが当社のデータの到達点であるが、メートル級の試料においては、2 m程度の膜厚とすることによってIcが300 Aを超える結果を得ており、これを長尺化するべくいくつかのアプローチを行っている。PLD法は蒸発プルームの指向性が強いため、比較的材料収率を高くできる特徴があり、一定の領域で蒸発プルームをスキャンするとともにテープを数回巻き回すことによって高速長尺合成の追求が出来るが、当社では従来実施してきた伝熱加熱で基板温度を調整する方式に加え、成膜部を電気炉のように囲んで雰囲気加熱による温度調整を行う方式を検討している。現在後者を用いて25 m/hの線速でIc = 100 Aの成膜に成功しており、高Jc化と厚膜化によるIc目標達成を目指している。さらに磁場特性向上のためGd123系膜の検討も開始している。現在これらのプロセスを用いてモータ、変圧器、限流器等の機器開発要素検討が開始されているが、現プロジェクトが終了する平成20年にはIc ~300 A級で20 km/year程度の供給を実現し、これらの機器のプロトタイプ開発を可能としたいと考えている。実用化については1 Amあたりの生産コストを数円以下とする必要があるが、現状の開発課題の克朊により達成可能と考えており、時期は平成25年頃だと考えている。

A1-2:SRLの取り組み(山田)

SRL吊古屋では、2001-2002年にフジクラからIBAD技術を導入し、その後さらに新たな技術を盛り込んだPLD長尺作製装置を導入して、強力に長尺化を推し進めてきた。具体的には、以下の技術を開発して長尺化、高特性化を図った。

① IBAD上のPLD CeO2層による高配向化:これにより、IBADバッファ層の配向度が従来の10° から4-5°に大幅に向上した。現在も長尺化はこれを使っている。② マルチプルームマルチターンによるPLDの高速化、高収率化:多数本の基板上に同時に多数のレーザービームによりYBCOを蒸着する。従来PLDでは1 m/h程度の速度であったが、現在、100 Aクラスのものは30 m/hになっている。また、収率も従来は2-3%であったものが本方法で20-26%になった。③ 人工ピン、Gdによるピンニング特性改善:磁場に強いYBCOでも、例えば3 Tの強磁場下では大幅にJcが低下する。酸化物粒子を入れた超電導層形成により磁場中でのJcを向上させる人工ピンの研究が米国から始まったが、これをさらに洗練して、BaZrO3の酸化物のコラムナー構造 (通常、その形状からバンブー構造と呼んでいる)を厚み方向に連続して作製することに成功して大幅にJcを上げることができた。また、新しいGdBCOの超電導体を採用して、人工ピンとの併用で、3 TのJcを従来の8 Aから40-60 Aに向上させることができた。ただし、この試料はまだ短尺である。

以上の技術を用いて昨年夏に世界最高の212 m×245 Aの長尺線材を作製したが、ご承知のように、今年の夏に米国Super Power社がIBAD-CVD法により300 m級での世界記録を発表した。製造速度、数10 m/hの高速化を全ての工程で行っている。これにより、IBAD法がいよいよ工業レベルとしてのポテンシャルを持つことが実証されたわけであり、当グループでは、以下の課題を設定し、一層工業化に向けた量産化技術、高特性化技術開発をスピードアップしている。

上記のように、激しい世界的な競争の中、開発の焦点はいかに工業化できるかに移っている。製造速度の向上、その安定性、歩留まり、収率、そして、今や自己磁場のIc, Jcは100-200 Aが当たり前になっており、今後は磁場中での高Ic化が一層重要になる。工業化においては、その初期段階としてNb3Snと同様な状況を考える。すると、2-3ヶ月の期間で1つの装置、コイル用線材を供給しないといけないことから、線材の必要製造速度は20-50 m/hになると考えている。このため、現在、超電導層および中間層を含めた総合的な高速化を検討中である。また、マルチプルームマルチターンの一層の効率化、安定性向上により、高収率、高歩留まり、安定長尺製造を目指している。長さ同様重要な磁場中Icでは、短尺で得ている高特性を長尺により実現するべく開発を進めている。

このように、Super Power社によりIBAD法での工業化の見通しが大幅に進展し、さらに有望なポテンシャルのある製法であることがはっきりした。他社は、AMSC社含めて長さ100 mクラス、速度数m/hクラスであるが、今後、500 mクラス、速度数10m/hクラスが目指すところとなろう。欧州勢は国家的な開発資金難から、開発が遅れており、EHTS社のIBAD-PLD法による50 mクラスが最高であり、日本勢に大幅に遅れている。

日本では、IBAD-PLD法線材はすでに一部で機器用線材として提供されており、ケーブル、モータなどのスケールモデルとして機器特性の検証がなされている。小規模ながら、信頼性と実績を積み上げている。その点で、米国勢より進んでいる。ただし、これらは現有の線材、プロセスであり、さらに高特性化を行う必要がある。そのためには、プロジェクト目標である300 A-500 m線材化、同時に磁場中(1~5 T) Ic = 30-50 Aの実現がぜひとも必要であり、さらに先述の数10 m/hの高速化を同時開発し、また、安定製造、高歩留まり、高収率化を数年行って、コスト競争力をつける必要がある。小規模、低磁場の試用は徐々に高まっていき、ここ数年で多数の機器計画への供給が進むであろう。よって、販売、商用化としての線材実用化は平成25年ごろと思われる。

2.低コスト長尺線材プロセス開発

Q2:①本研究の必要性と狙いについて、②及び従来の経緯と現在までの到達点、③今後の課題とその対応策、④各製法のコスト低減策とその見通し、⑤日米欧の対比と実用化に向けての展望についてお伺いしたい。

A2-0:必要性(和泉)

IBAD-PLD法の組合せである高特性線材は、長さと共に磁場中も含めた特性に高い実績を挙げているが、速度やコストに課題を有している。本テーマでは、低コスト化へのステップとして、IBAD-PLDの組合せに対して、超電導層形成のためのPLD法をTFA-MOD法もしくはMOCVD法に置き換えること、若しくはIBAD法による配向中間層形成を配向基板+気相中間層に置き換えることに加えてPLD法にHoBCO材料適用することにより、8円/Am以下の低コストで長尺、高特性線材を実現するプロセス開発を目的としている。これらのプロセス開発により、高性能長尺線材と同様の長さ、自己磁場中特性及び製造速度(500 m×300 A、5 m/h)の達成を目指す。

また、上記アプローチを一歩進めて、将来的に更なる低コスト化が見込めるプロセス、構造に展開し、3円/Am以下が実現可能であることの原理検証を行う。具体的には、3円/Amの条件を明確化し、構造やプロセスの基本ステップを50 m長(200 A以上)線材で実証すると共に、高特性等を必要長で実証することやスケールアップ等により必要な製造速度が見込めることを説明できるプロセス実証を行う。

A2-1:配向金属基材(三村)

古河電工では、第I期超電導応用基盤技術開発プロジェクトの中で、配向金属基板とそれを用いたYBCO線材の開発を行い、その中でSOE(Surface Oxidation Epitaxy;表面酸化エピタキシー)法を中心に進めてきた。SOE-NiOの基板上の酸化物中間層としてPLD-BaZrO3を採用することで、PLD-YBCO層のJcとして1.3 MA/cm2を超える値が得られた。

第II期超電導応用基盤技術開発プロジェクトでは「基板技術開発」を担当し、従来のNi基板の強度や磁性の課題を解決するために、Ni合金基板テープやクラッド基板テープの開発を行っている。高強度のクラッド基板の開発例としては、Ni-シース/NiMo合金-コアのクラッド基板で室温の0.2%耐力が1.1 GPaと純Niの約30倊に、77 Kの飽和磁化が0.35 Tと純Niの0.64 Tの約半分となり、高強度化と弱磁性化が図られた。また更に低磁性化を図るため、シース材のNi合金化を検討している。まず代表的なNi-W合金に着目し、配向基板の配向性、磁性、中間層の配向性、および線材化時の超電導特性を調査している。磁性評価の結果から、Ni-W合金クラッドの配向基板で飽和磁化Msを0.05 T以下にできることがわかった。線材化の一例としては、SRL東雲との共同開発によりNi-5 at%W/中間層/MOD-超電導層の線材構造でIc = 310 A/cmが達成された。

今後の課題としては低コスト線材の長尺化であり、長尺化に適した中間層の材料と製法の組み合わせが重要である。さらに極低コスト化を実現させるためには、複数の中間層の成膜にできるだけ非真空プロセスを適用していく必要あがり、他機関と連携して開発を進めているところである。

米国のORNLは基板配向型の代表的な製法であるRABiTS(Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)法を開発し、AMSC社ではこの開発成果を受けてY系線材の製造を行っている。しかし、AMSC社の線材では複数中間層をスパッタで成膜しておりコスト面で大きな課題が残っている。日本ではSRLを中心としたall-Japan体制のもと、基板、中間層、超電導層等の最適プロセス組み合わせが着実に進展しており、より高い特性を有する配向基板を用いた極低コスト線材が実現されるものと確信している。

A2-2:MOD法(青木)

 TFA-MODプロセスは国内では超電導工学研究所(SRL)と昭和電線ケーブルシステム(SWCC)の2箇所が開発を担当しており、前者は本焼プロセスにreel-to-reel方式の連続熱処理プロセスを、後者はバッチ式プロセスを選択するという違いがある。また、溶液の開発、供給という立場でADEKAが応用基盤PJの第II期より参加している。

SWCCが担当しているバッチ式プロセスはドラム状の治具に線材を巻き付けて熱処理するものであり、L = 40 m、Ic = 155 Aという値が得られている。炉に投入する線材の量や膜厚よって発生するHFガスが増減する為、HFガスの排出には十分気をつける必要がある。現在は装置上の対策と本焼条件の最適化を行う事により、100 mのパッチ試験(Ni-Wのダミー線 + IBAD基板)で平均200 A級のIcが得られており、200 m×200 Aの目標を達成の為の条件検討を行っている。仮焼プロセスは、SRLのR2R式マルチターン・マルチコーティング技術の移転と大型化により新規の仮焼炉を作製した。目標値の5m/hで線材を動かし、均一に塗布・仮焼できる事を確認している。本焼の製造速度はバッチ式プロセスにおいて線材の長さに依存せず、炉に投入できる線材長によって規定される。目標達成への課題は、高Ic特性を有する長尺線材を均一に焼成する技術を如何にして確立するかの一点にあると考えている。また低コスト化については、IBAD基板に代わるものとしてNi-W配向金属基板の開発を行っており、CeO2キャップ層(スパッタ法)/CZO(MOD法)構造の中間層上でIc = 117 A(Jc = 1.7 MA/cm2)の特性が得られた。今後は如何に長尺化を達成するのかが、高Jc化と合わせて課題となると思う。

米国ではオークリッジ国立研究所を中心にアメリカンスーパーコンダクター社(AMSC)でTFA-MODプロセスの長尺化の検討を行っており、4 cm幅のテープ上にYBCO膜を作製した後、スリット加工を加える事で製造速度の向上を図っている。長尺化では94 m×350 A/cm-widthの値を出している。またMOD中間層はサンディア国立研究所ではMOD-SrTO3を使ったAll-MODプロセスの検討が行われており、1.7 MA/cm2のJcが報告されている。磁場特性改善の検討も精力的に行われており、今後も動向を注視したい。

実用化については、開発が他のプロセスより遅く始まった為に実用化研究への線材提供という点では実績が無いが、今後機械的特性など応用機器向けのデータも蓄積して実用化研究を展開していきたい。

A2-3:SRLの取り組み(吉積)

SRL東雲では、TFA-MOD法を用いた線材作製プロセス開発、中でも基礎的な研究と共にreel to reel (R2R)式連続焼成プロセスを中心とした長尺プロセスの研究開発を行っている。R2R式プロセスは製造速度の点ではバッチ式に譲るものの、長さに関するスケールアップが容易である点、装置がコンパクトである点でメリットが大きい。我々のグループが達成すべき目標は、まず平成17年度末の中間目標である200 m長、Ic >> 200 A/cm幅(s.f.)の線材作製と共に昭和電線が実施する、平成19年度末の最終目標(500 m-300 A、5 m/h、8円/Am)達成のバックアップである。また、更なる低コストを目指した極低コスト線材として、金属基板を用いて50 m長、Ic > 200 A/cm幅の線材を3円/Amのコストを見通せる技術で作製する事である。本プロジェクトにおいてこれまでに開発した主な技術としては、非フッ化物の有機Cu塩を用いる事によるプロセスの高速化、ポアサイズ制御による高Jc化、中間熱処理による厚膜クラック抑制技術、低Ba組成溶液を用いたYBCO層作製による高Jc化等が挙げられ、これらによりIBAD中間層上の短尺試料でJc > 3 MA/cm2、Ic = 692 A、長尺試料では56 m長のend-to-end Ic = 250 Aを達成した。得られた技術を基に今年中に200 m-200 A線材を作製する予定である。

今後は昭和電線による最終目標達成のバックアップと共に極低コスト線材としてNi合金系配向金属基板を用いた線材作製を行う。低コスト化には基板変更に伴う中間層積層技術の開発に加えてIc特性の向上、プロセスの単純化、高速化が必要である。現在は、コスト低減が可能な中間層構造の検討及び高Ic化の為の厚膜化、高速化技術の開発を並行して行っている。これらのうち、厚膜化については塗布溶液の粘性調整、新溶液の開発を並行して進めており、2-2.5 m厚を達成する事を見込んでいる。高速化については原料溶液開発により塗布膜厚を増加、仮焼プロセスを高速化すると共に、多ターン化による反応炉長延伸及び垂直ガス吹きつけ方式の採用により本焼成プロセスを高速化する。海外では、長尺線材の作製はアメリカ・韓国においてR2R式によって行われており、アメリカ、AMSC社においてNi配向基板上で94 m-350 A/cm-wが達成されている。

A2-4:MOCVD法(鹿島)

中部電力では、超電導電力貯蔵装置(SMES)、電力ケーブル等、電力応用機器実用化に資する低コスト線材の開発を目的として研究を行っている。1円でも安く電気を供給する責務を有する電力事業では、性能面ではもちろんのこと、コストが重要な要素であり、既存技術に対し、十分な優位性を確立することが重要である。

低コスト化には、線材の性能向上はもとより、製造速度が重要な要素となる。当社では、開発の当初から、将来の低コスト化が見込める技術として、CVD法による長尺線材開発に取り組んできた。従来のCVD法では成し得なかった高速化・長尺化に関して、多段CVD法を確立する事により、本プロジェクトスタート時点において、製造速度10 m/h、線材長さ100 mを実現している。本研究では、当社がこれまでに自社研究として進めてきた多段CVD法による長尺線材プロセス開発を発展させ、将来の~3円/Amを目指した低コスト線材の開発を行っている。

製造速度の高速化に関しては、これまでに、50 m/hを達成している。長尺化に関しては、12段CVD装置を用い、IBAD基板上に50 m/hの基板移動速度で合計14回の積層を行い、203 m-93 Aを達成している。また、高Ic化に関しては、最適な温度制御、組成制御を行うことにより、294 Aを達成している。CVD法は、比較的熱平衡に近いプロセスであることから、YBCOの結晶成長が下地の影響を受けやすい事が分かっている。中間層を含む基板にmレベルの欠陥があると部分的にIcが低下する。これまでは、超電導層開発に注力していたが、今後は、CVD法による超電導層に最適な中間層探索を含め、開発を行っていく予定である。

3円/Amを実現するためには、製造速度の向上、高Ic化、材料コストの低減、収率の向上が鍵となる。当社では、3円/Amを実現するための要素技術として、製造速度50 m/h、Ic = 300 A、材料コスト100円/g、収率5%を想定しているが、超電導層に関しては、前述のようにほぼ、その見通しを得ている。現在、中間層に関しても、鋭意、検討を進めているところである。

海外では、米国IGC-Superpower社が、同じくCVD法を用いた線材開発を進めており、近年、著しい成果を上げている。これまでに、322 m-219A/cmを達成しており、米国においてもCVD法の優位性が実証されたと言える。

今後は、これまでの性能競争から価格競争へとフェーズを進めて開発が行われることが望まれる。日米欧で切磋琢磨する事により、近い将来、それが成し遂げられると確信している。

A2-5:HoPLD法(上山)

住友電工では、低コスト長尺線材開発をテーマとしてホルミウム系超電導薄膜線材の開発を進めている。ホルミウム系超電導体は、イットリウム系と比較して成膜スピードが速い、成膜温度の最適範囲が広い、湿気に対して劣化しにくく耐環境性に優れるという特徴を持つ。プロジェクトにおいて、中間目標:低コスト線材で線材長200 m、臨界電流値200 A/cm幅、および最終目標:極低コスト線材で線材長50 m、臨界電流値200 A/cm幅、コスト対性能比3円/A∙mへ向けた開発を現在進めている。これまでに200 m長のホルミウム系超電導薄膜線材の試作を行い、Icが低い部分が数カ所存在するため全長では臨界電流値200 A/cm幅の目標は未達となっているが、3 mで Ic = 257 A/cm幅 (Jc = 2.1 MA/cm2)、15 mでIc = 227 A/cm幅の特性が得られた。Icが低い部分は局所的な領域であり、異相や配向乱れが存在することが判明した。成膜条件を見直して長尺にわたり均一な臨界電流を持つ200 m長、臨界電流値200 A/cm幅の線材開発を行っている。

 今後のコスト低減策として、超電導層では塗布法(MOD法)、中間層では構造の単純化の開発を考えている。MOD法は非真空系プロセスの簡便な手法であり、将来の低コストプロセスとして有望である。当社では環境に優しく、フッ素処理のコストが上要で、結晶成長速度が速いフッ素フリーの溶液を用いたMOD法の開発に取り組み、Jc = 1.5 MA/cm2の高特性を得ることに成功している。これらの技術を用いてコスト対性能比3円/A∙mの見通しを得るべく、プロセス条件(Ic、Jc、製造速度など)の改良を進めている。当社は、金属基板として、基板コストの低減および中間層の製造速度アップの観点から、より低コスト化が期待できる多元素系の合金でない配向金属基板、MOD法、中間層の単純化の開発と組み合わせ、極低コスト化をすすめることにより実用化を図っていきたい。

3.長尺線材評価・可加工性技術開発

Q 3:各テーマに対して、①研究の必要性、②研究の具体的内容、③期待される研究成果についてお伺いしたい。

A3-1:Jc分布(雨宮/木須)

(雨宮) 磁気ナイフ法によるマクロスケールのJc分布を対象に回答する。

特に、プロセス技術が発展途上にある際には、線材のJc分布は必ずしも一様ではない。例えば、臨界電流が十分でない場合、それが、線材全幅にわたっての低Jcに起因するのか、線材幅方向のある部分(例えば、線材端部)の低Jcに起因するのかがわかればプロセスの改善にフィードバックできる。また、Jc分布は交流搊失にも影響を与える。これらのことが、マクロスケールのJc分布測定が必要な理由である。

磁気ナイフ法では、典型値として幅方向0.1 mm、長手方向5 mmの分解能でJc分布を測定できる。一回の測定でカバーする測定範囲は、幅方向は線材全幅、長手方向は数cm程度である。測定原理は、超電導体のJc-B特性を利用して、電流流路を絞り臨界電流を測定し、数学的変換によりJc分布を求めるというものである。各種製法による次世代線材のJc分布を測定している。

あるプロセスについて、製造条件を変えて作った線材のJc分布を測定し、その結果を製造条件の改良にフィードバックした。これが期待される研究成果(プロセスへのフィードバック)の一例である。その他、より、高精度な交流搊失評価の基礎データの獲得が期待される。

(木須) 超伝導線材の臨界電流は、四端子法による評価が広く用いられている。この手法では、均一な電界分布と電流分布が仮定したマクロスケールでの平均値を得ていることになる。一方、我々は通電特性に関する詳細な考察によって、研究の初期の段階から、高温超伝導線材では、局所的な揺らぎが臨界電流値に大きな影響を及ぼしていることを明らかとした。線材特性の向上の為には、局所的上均一性に着目した通電特性の解明が上可欠であることを指摘すると共に、そのための基礎特性評価手法の開発に取り組んできた。これまでの研究により、従来法の限界を超えるミクロンオーダーの空間スケールでの、局所電界、電流密度ならびに結晶欠陥を複合的に評価する手法を確立した。その結果、線材内の電流輸送機構についてかなり詳細に、かつ直接的に調べることが可能となってきた。その成果の一部は本誌Vol.15, No.2でも紹介されている。局所的電磁特性とピンポイントでの結晶構造との関係を明らかとする一連の評価によって、各作製プロセスにおけるJc制限因子を明らかとし、プロセス技術改善のための効果的なフィードバックを可能としている。また、最適線材膜厚や、交流搊失低減を目指したマルチフィラメントにおける最適線幅など、素線の最適構造の決定においても、局所Jc分布の評価結果が重要な情報を提供すると期待される。さらに、機器応用の際に重要となる、マクロスケールにおける輸送特性に関して、精度の高いモデルの確立にも、上可欠な知見を与えている。すなわち、局所Jc分布に関する一連の研究成果は、材料開発に直接結びつくプロセス開発と共に、機器応用の基礎として、重要な役割を担っている。

A3-2:電磁気特性(雨宮)

電磁気特性とは交流搊失特性を指すものとして回答する。

次世代線材開発プロジェクト(超電導応用基盤技術研究開発)の中の機器要素技術開発が対象とする機器が全て交流電力機器であることからもわかるように、次世代線材の第一の応用先としては交流電力機器が考えられている。交流超電導電力機器が、従来の銅を用いた電力機器に置き換わって導入されるためには、多くの場合、搊失がより小さくなければならない。従って、交流搊失を評価し低減する技術の研究の必要性は高いと言える。

次世代線材開発プロジェクトにおいて、交流搊失の研究は、「長尺線材評価・可加工性技術開発《の枠組みの他に「機器要素技術開発《の枠組みの中でも実施している。「長尺線材評価・可加工性技術開発《の枠組みの中では、未加工の線材単体の交流搊失の評価を、「機器要素技術開発《の枠組みの中では、マルチフィラメント加工等を施した線材や、ケーブルや限流器の巻き線を想定した集合導体の交流搊失の評価を行っている。

実用環境下での機器全体の交流搊失を見積もるためのデータベース構築を通して超電導機器のユーザメリットをより正確に評価できるようになると共に、さらに交流搊失を減らしユーザメリットを増す手法確立にもつながると期待される。

A3-3:伝熱特性(石山)

積層テープ構造をしているY系線材の集合導体化・コイル化のための新しい信頼性・安定性評価基準・技術を確立することを目的として、Y系線材の伝熱特性(熱的安定性)の評価を行っている。

材料・プロセスの異なる様々なY系線材試料の常電導転移・伝播(クエンチ)試験や過電流パルス通電試験等を通じて、熱的過渡特性を評価している。またこれらの熱的挙動に対する機械応力・歪の効果についても併せて評価している。並行して、数値的にY系線材の伝熱特性を解析・評価するための計算機シミュレータの開発を行っている。そして、これらの成果を順次材料開発にフィードバックしている。また、機器化に向けて、限流器、送電ケーブル、DC/パルスコイル応用などを想定した伝熱特性評価と各応用機器固有の信頼性・安定性評価基準の確立、熱・機械特性のデータベースの構築、解析・設計技術の開発を進めている。 具体的には、まず(1) 過電流通電時の常電導転移・伝播特性の把握と、各種プロセスの特性比較を行うとともに、臨界電流のばらつきや常電導転移・伝播過程を可視化する評価手法の開発を行っている。これらの成果は、例えば、S/N転移型限流器用の導体・装置の設計・特性評価のために必要となる情報・基盤技術を提供するものである。次に、(2) 過電流通電による超電導特性の劣化評価とその要因について検討するとともに、各種線材プロセスと特性劣化の関係を併せて評価している。また、MOやSEM/TEM観察を活用して特性劣化を系統的に評価している。そして、過電流通電特性の評価の成果および評価技術を、送電ケーブル、変圧器、限流器等の導体・装置の設計・評価に活用できるようにする。さらに(3) 捻り、引っ張り応力下での超電導特性や過電流通電による特性劣化の評価を実施している。これは、送電ケーブル等のケーブル導体の開発に必要なデータを提供するものである。また、曲げおよび繰り返し曲げ応力下での超電導特性および伝熱特性評価を実施している。特に、Y系線材の層構造に起因する劣化(基板、中間層、超電導層、安定化層の各間の剥離など)の有無等を調査している。これらの成果は、SMES用コイルなどの実運転環境下(繰り返し励磁)での特性を把握するための貴重な情報を提供するものである。以上の実験的評価に基づく検討と並行して、(4) Y系線材の伝熱特性を解析・評価するための計算機シミュレータの開発を行っている。

A3-4:微細組織(菅原)

RE123系超電導線材は、超電導層の2軸配向を向上させると共に、下地との反応や相互の拡散を抑制するために、配向金属基板上に酸化物中間層を介して超電導層が積層される多層構造を有している。結晶配向や拡散などを適切に制御した長尺線材を開発するためには、線材を構成するそれぞれの積層組織や積層界面の原子構造、欠陥構造などを充分理解し、超電導特性に影響を及ぼす製造プロセス上の種々の要因を最適化する必要がある。このような場合、透過電子顕微鏡を用いたナノメータレベルの評価・解析が非常に有効な手段となる。

現状の超電導特性をさらに向上させるために、種々のプロセス条件下で開発される長尺線材の微構造を比較・解析することで線材作製プロセスの最適化を図る。具体的には、超電導層や中間層の内部およびこれらの界面について、原子配列や転位構造、粒界構造、結晶方位関係、拡散層や反応層の有無などを透過電子顕微鏡により詳細に解析する。また、長尺線材の特定領域に発生する上良箇所を低減するための電子顕微鏡解析についても行う。ここでは、磁気光学効果、磁気ナイフ、レーザー顕微鏡など他の評価手法と連携して複合的な評価・解析を行うことで上良箇所を抽出し、磁場中での磁束侵入領域や局所的な電流密度分布などと微構造との相関を明らかにする。

種々のプロセス条件下で積層される超電導層や中間層の結晶成長に伴う配向メカニズム、異相界面を介した結晶形成におけるエピタキシャル性や結晶方位関係を明らかにすることで、超電導特性に及ぼす影響を明確にして、優れた超電導線材を開発するための有用な知見を得る。また、磁場中やレーザー照射によって生じる局所的な特性劣化挙動と原子構造や欠陥構造との相関を明らかにすることで、超電導特性を劣化させる部位の微構造要因を対応させて、製造プロセスに起因する種々の条件を最適化するための指針を得る。

A3-5:材料可加工性(飯島)

Y系線材が適用される機器として、変圧器や限流器などの静止器のほか、車両や船舶等に用いられるモータを含む回転機等が想定されるが、これら機器においては、安定化・絶縁等を施して導体化した線材をコイル状に巻線した状態で用いられる。機器開発にあたってはY系線材が巻線等の工程で機械的に劣化せず加工出来るかどうかを確認しながら、安定化方法や絶縁方法、巻線の固定方法などを検討する必要がある。また各機器の温度や磁界など運転環境が異なるため、機器に応じた線材/導体構造を検討する必要がある。

従来Y系線材によるパンケーキコイルの検討はなされていたものの、アスペクト比の大きなテープ線材であることからソレノイド巻線に伴うエッジワイズ歪み等が懸念されその検証は行われていなかった。当社においては、Y系線材を用いたソレノイド巻線の可能性を検証するため、機器を想定したコイル開発に先立ち10 mm幅の線材を用いて検証用コイルの開発を進め、Ic = 100 A、100 m級の線材を用いてY系ソレノイドコイルを初めて作製し液体窒素浸漬で励磁試験を行った。続いて冷凍機伝導冷却のコイルを作製して40 Kにおいて1 Tの磁場を発生し、3 Tの外部磁界下において1 Tの磁界発生に成功した(30 K)。これらのコイル作製と励磁試験を通じて、Y系線材の曲げ歪み特性と安定化材の厚さの関係、巻線時にY系線材に加わる歪み、絶縁、抜熱方法、電流リード部との接続方法等に対する知見が得られ、これが機器応用基礎検討のための舶用モータ用レーストラックモデルコイル作製に生かされ試運転を成功させている。

現在は上記により得られた知見を生かし、より機器適用性に優れた5 mm幅線材を用いて安定化・絶縁・集合等の導体化技術開発及びコイル化加工性の検証を行っている。これまでに、界磁巻線コイル等の直流用途を想定して、銅安定化層複合及びテープ巻き絶縁を施した5 mm幅導体開発に成功しており、さらに高抵抗が要求される限流器用線材の開発も進めていく予定である。低搊失が要求される交流用線材についてはY系線材の特質を生かしてさらなる低交流搊失導体の技術開発を行うことにより、各機器に応じた線材及び導体開発を通して開発が加速することが期待される。

A3-6:長尺線材評価(中尾)

現プロジェクトでは数百メートルに及ぶ長尺線材の超電導特性、特に臨界電流特性の分布を全長にわたって評価する事が行われている。このような事は低温の金属系超電導線材においては行われていなかった事である。金属系超電導線材においても、開発段階においては超電導特性の全長検査が望まれていたと推察されるが、技術的困難のため実際には行われていない。酸化物高温超電導体の場合にそれが可能であるのは、比較的扱いやすい液体窒素中での評価が可能であることが大きい。

 長尺線材の全長にわたっての臨界電流の測定法には直接的な方法と間接的な方法がある。直接的な方法は4端子法によるものである。電極は金属端子の押し付けによる。長尺線材をリールからリールに巻き取りながら約1 m毎に測定を繰り返す。測定部は液体窒素に浸かった状態である。この装置はSRL吊古屋研が開発したものである。

一方、間接的な方法としては外部磁場を印加する事によって誘導される超電導電流を測定する方法がある。実際には誘導された電流が外部空間に発生する磁場を測定する。磁場を測定する方法としてホール素子アレーや磁気光学法、交流の場合はピックアップコイルがある。これらの装置はSRLの東雲にある。

これまでのところ、基本的には自己磁場中の臨界電流を求める事が目的であるが、直接法、間接法の両方で、3-5 Tでの磁場中での評価技術開発が計画されている。

以上、長尺線材の素線状態での評価技術についてはほぼ完成しつつあるといえるが、今後は細線化した線材の高速評価(測定速度を度外視すれば現在でも磁気光学法で可能であるが)、複合導体の評価、更にはコイル化した状態での局所的評価等が課題になってくると思われる。これらについては現在の所まだ手つかずの状況である。これらが可能になれば、超電導機器の開発を大いに加速する事は間違いない。

4.高温超電導線材材料高度化技術開発

Q4:各テーマに対して、①研究の必要性、②研究の具体的な内容、③期待される研究成果についてお伺いしたい。

A4-1:線材材料特性高度化(筑本)

 線材開発の最終目標達成のためには、高温超電導体特有の物性に関する知見を生かした材料そのものの特性向上ならびにY系線材作製プロセスの各要素プロセス工程における最適条件の設定をプロセス開発と並行して行うことが必要と考える。そういう見地から、本研究開発においては、Y系を含む希土類123系超電導材料の臨界電流特性がキャリア濃度に大きく依存するという第I期応用基盤プロジェクトで得られた知見を基に酸素量の適正化を行うとともに、材料特性向上がキーファクターとなる磁場中高特性化に重点をおいた材料開発を行ってきた。以下、具体的研究開発内容及び今までの成果を述べる。

 Y系を含む希土類123系超電導材料は大きな酸素上定比性を有し、酸素量によって材料中のキャリア濃度が大きく変化する。酸素量の制御は、通常、材料作製プロセス中の酸素分圧と温度をパラメーターとして行なわれる。我々は短尺試料を用いた検討から、超電導相が過剰ドープ状態となる場合にTcが若干低下しても、Jcが最大となることを確認し、その熱処理条件を提示した。また、この酸素熱処理について、線材の作製法により過剰ドープ試料が得にくい場合があることに着目し、酸素導入の阻害要因について、原料、プロセス条件から原因抽出を行った。その結果、原料あるいは雰囲気により、高濃度の炭酸ガスが存在する場合、CuO鎖にCO3基置換がおこり、キャリアドープを阻害する場合があることを見出した。さらに、原料粉の組成ずれの影響の検証の結果、原料がわずかでもBa過剰の状態になった場合、大きなJc特性劣化を引き起こす要因となることを見出し、Ba欠乏組成を原料粉として用いることで、高Jc膜が安定して得られることを確認した。

 一方、磁場中高Jc化については、3 T(テープ面垂直方向)の磁場下での臨界電流密度Jcが自己磁場下(s.f.)のJcの10 %以上となるような特性を一つの目安として、材料開発を行っている。プロジェクト開始当初、線材作製はY系がメインに行われていたが、バルク材料等で軽希土類系において高特性が得られていることに着目し、軽希土類を中心に適切な系の選定を行い、Gd系が有望であることを提案した。現在、PLD法でのGd系成膜条件の適正化、特に高速成膜条件の抽出や人工ピン導入法の開発進めているところであり、その成果が出つつあるところである。

 これら「酸素過剰ドープ《「Ba欠乏組成《「Gd系《等の知見は、適宜線材作製プロセスにフィードバックされ、高Jc化や安定成膜条件設定に寄与してきている。今後も引き続き、我々の有するラマン分光法や磁気測定法等の物性測定技術も有効活用しながら、プロセス最適条件の提案、課題抽出及びその解決法の提案、材料特性向上手法の開発などを行い、線材作製プロセス開発の最終目標達成を促進する。

A4-2:線材間接合界面特性高度化(筑本)

 機器応用・実用化を視野に入れた時、超電導線材間の低抵抗接続が必要上可欠である。そのため実用化に繋がる低抵抗接続の開発を行う必要がある。今までBi系も含めた高温超電導線材やY系バルク材等においては、はんだを用いての接続が主流(それのみといっても過言ではない)であった。しかしながら、どうしてもはんだ材料そのものの抵抗や、はんだと母材との界面接触抵抗などが加味され、単位面積あたりの抵抗は高くなる。また、過電流が流れた場合の発熱等により、はんだが融け落ちる可能性もある。そこで、我々はY系線材に安定化層として成膜されている銀層に着目し、それを利用した拡散接合法の開発を行うことにした。本方法では、はんだ層がないため、より低い接合抵抗が期待され、かつ発熱によるリスクがほとんどない。

 拡散接合法は、一般的に加圧しながら高温で保持する過程を経るため、そのプロセスが超電導層に及ぼす影響について留意する必要がある。特にY系は、前節で述べたように高温で酸素が解離するため、接合プロセス時に超電導特性が劣化する恐れが有る。そのような背景から、本開発においては、接合部分の特性(接合抵抗、機械的強度)のみならず、超電導特性への影響の有無について確認しながら、プロセスの最適化をおこなってきた。現在のところ、Icの劣化なく、はんだ接合よりもはるかに低い接合抵抗をもつ接合形成プロセス条件はほぼ確立しており、機械強度的にも問題のないレベルであることが確認されている。

 今後は交流機器応用に用いる細線化線材の接合、安定化銅付き線材の接合、及びフィールドでの接合を可能とする装置開発について検討をおこない、実用機器に使える技術としての見通しを得る。

5.機器要素技術開発

Q5:各テーマに対して、①研究の必要性、②研究の具体的内容、③期待される研究成果についてお伺いしたい。

A5-1:超電導ケーブル(向山/広瀬)

(向山) 交流基盤プロジェクトの中で500 m超電導ケーブルのフィールド試験の成功をはじめに、米国や韓国でも長尺の超電導ケーブルの試験が開始され、超電導ケーブルの技術成立性は確実なもとになったと感じている。しかし、本格的な実用化のためには、超電導ケーブルのコストダウンと、搊失の低減によりCVケーブルより優位なケーブルになることが必須である。Y系線材がこれら問題を解決できると強く期待しており、古河電工も応用基盤プロジェクトの中で、低コスト化、低搊失化のY系線超電導ケーブルへの研究を実施中である。

Y系線材が超電導ケーブルに適した材料か、薄膜構造が優位か上利か心配していた。今回、1 cm幅テープをレーザーで2 mm幅に切断した分割線材を用いてケーブル導体を作成したところ、1 kA 0.05 W/mという低搊失の結果を出すことができ、Y系線材を志向したことに間違いがなかったと安心した。今後も低コスト・低搊失超電導ケーブルの開発が必要で、線材の性能向上を強く期待している。超電導ケーブルで必要な線材特性は、Ic = 500 A/cm級で、コストも3 \/Am以下で、現用のCVケーブルよりも経済的なケーブルにすることができる。また、1 MPa級の強度を有する線材は、ケーブル製造のハンドリングも楽で、Y系線材が最も近い材料と考えている。

電力ケーブルの事故により都市機能が麻痺することもあり、超電導ケーブルの実用には信頼性を認めてもらうため時間がかかると思う。また、その保守や事故時対応を考えると、電線メーカー1社だけの技術ソースで成立できるものではなく、今後も国レベルでの総合的な開発が必要と考える。

(廣瀬) 電力ケーブルは社会ライフラインの基幹であり、非常に高い性能安定性や高信頼性が長尺一連長で要求されるため、多大な時間をかけて信頼性評価が行われ、高信頼運用できるシステムとしての実証が重要視される。超電導ケーブルシステムとしてはBi線材を適用したプロジェクトが内外で実施されており、今後の超電導線材の高性能化、長尺化、低価格化により実用化への期待がより高まってきている。一方、実運用検討においては、実用線路としての信頼性や保守、運用の評価が今後重要になってくると考えられる。より高性能化、低価格化が期待されるY系線材を超電導ケーブルに適用する場合、Y系線材固有の特性(高電流密度、低AC搊失等)を活かすための技術の開発が重要であり、Y系線材を使用することによるメリットの実現(そのための要素技術(Y系線材導体接続、短絡性能等)の確立や、よりコンパクトで高性能な超電導ケーブルシステムの実現)が重要である。また、ここで使用されるY系線材は、安定した性能で長尺供給される製品でなくてはならない。これらの線材に関わる要素技術の開発と並行して、冷却システムを含めた超電導ケーブルシステムの高信頼性評価を行うことが早期実用化に向けて重要と考えられる。また、超電導線材の高性能化、低価格化に並行して要素技術が見直され、それが超電導システムに適宜反映されてゆくことで、超電導ケーブルシステムの適用を広げてゆくことも重要と考えられる。

A5-2:超電導変圧器(林)

超電導変圧器は油レスによる上燃性、低搊失によるCO2削減効果及び小型・軽量などの特長から、変電所やビル等の変電設備及び鉄道用等としての実用化が期待されている。その電力用の需要としては、現在、配電用変電所が約4,300箇所で、変圧器は各変電所に2台で寿命を40年とすると約220台/年が更新され、変電所増分電力の伸び率を0.5%とすると約40台/年が新設となる。また、産業用は配電用の1~2割程度である。さらに、海外の主要国の需要は国内の約8倊である。その他に鉄道、船舶及び発電用等にも変圧器は必要である。このため、九州大学や当社等では、Bi系線材の1 MVA級単相変圧器の国内初系統連系試験を行い、Super-ACEでは66 kV級絶縁技術等が開発されてきた。しかし、この線材は高磁界中での臨界電流や交流搊失低減面などの課題があった。

ここで、本プロジェクトで開発中のY系線材は臨界電流が大きく、交流搊失低減、高強度化及び将来の低コスト化が図れることから、今回、Y系線材による超電導変圧器の低搊失化、高耐電圧化及び大電流化の要素技術開発に取組んでいる。具体的には、①線材の分割加工による低交流搊失化技術を開発し、これによるコイルを試作して低交流搊失特性を検証する。②66 kV級の高電圧に耐える小型巻線技術を開発し、サブクール液体窒素中でJEC相当の電気絶縁特性を検証する。③Y系素線の多層並列構成と転位により、変圧器二次巻線相当のkA級導体によるコイルを試作し、電流分流特性など大電流化技術を検証する。これらに基づき、66 kV/20 MVA級Y系変圧器の設計検討を行なった結果、油入変圧器に対し重量は約1/2、設置面積は約2/3、効率は0.4~0.5%向上するとともに、Y系変圧器の初期コストは油入変圧器より高価だが総合コストは有利なことが判明した。また、変圧器は巻線が低温で鉄心を室温とするものに加え、超電導線を増して鉄心を削減することにより、鉄心も冷却して保冷容器に収紊する変圧器の実現も可能となる。前者は効率面等から地下式や屋内式変電所に有利であり、後者は強度面等から屋外式変電所にも有利に適用できると考えられる。以上のように、Y系変圧器はその従来実現できなかった特長を有し、多方面の用途から実現の期待が大きい。

A5-3:超電導モータ(長谷)

超電導モータは現状のモータに比べより小型・軽量化及び高効率化の可能性があることから地球環境への負荷低減への寄与が期待されている。中でも臨界電流密度が高く外部磁界の影響を受けにくいY系超電導線材を適用した超電導モータはBi系超電導線材を適用した回転機より小型で高出力が期待されており世界的にも注目されている。超電導線材をコイル化して磁界を発生させる電力機器の中で、モータは回転機械であり線材が使われる磁界強度も変圧器等よりはるかに高く、遠心力に耐える機械強度も要求されるなどモータに適した要素技術開発が必要である。

本研究開発ではこれまでの開発によって得られている成果も活用し、Y系超電導線材を用いて超電導モータを実現するために必要な要素技術開発を行う。Y系超電導線材の適用性を評価すると共に、Y系超電導線材に求められる課題を明らかにする。また超電導モータの実用化についての課題と見通しを明らかにする。その具体的な実施項目を以下に示す。

(1) 回転界磁技術:超電導回転界磁コイルを開発すると共に、常電導固定電機子と組み合わせ約10 kWの冷却も含めた超電導モータの動作を確認する。また、超電導回転界磁子実用化に向けての課題と見通しを示すと共に線材への要求仕様を明らかにする。(2) 低交流搊失化技術:分割超電導線を用いた固定電機子コイルを製作し、固定電機子コイルでの交流搊失低減技術を開発する。また、実用化に向けた交流搊失低減について課題と見通しを示すと共に、線材への要求仕様を明らかにする。(3) 電機子技術:大電流容量の固定電機子コイルを想定し、並列導体を用いたコイル化技術の検討を行い、超電導電機子製作技術を開発する。また、実用化に向けた電機子コイルの電流密度向上について課題と見通しを示すと共に線材への要求仕様を明らかにする。

 期待される研究成果は下記の通りである。(1) 回転界磁形超電導モータへのY系線材の適用性を確認し、将来の超電導モータの大容量化に向けた足がかりとなる。(2) 将来の超電導電機子コイルの交流搊失低減に向けた線材の分割効果の確認と必要分割数の提示をする。(3) 将来の大容量化に向けた並列巻線の電流分担平均化のための線材への課題を抽出する。

A5-4:高性能冷却機(相良)

現在の超電導機器に使用されている小型冷凍機は冷却能力が1 kW(at 80 K)以下であり、Y系超電導実用機の冷却には能力上足である。またその構造上摺動部を有しており、メンテナンス間隔の長期化、更に簡素化は非常に困難である。

Y系超電導実用機の実現には、空気分離プラント、ヘリウム液化機等で冷凍能力、耐久性に実績があり、さらに将来LNG冷熱利用による大幅な冷凍効率向上も可能である膨張タービン方式の冷凍機が有効であるが、このタイプの冷凍機は大型の物しか存在しない。また、Y系超電導実用機が必要とする冷却温度付近(20-77 K)に最適化された冷凍能力をもつ冷凍機も存在しない。 本プロジェクトでは、Y系超電導実用機に適した冷凍機として「適正サイズの膨張タービン方式冷凍機《の開発を目指し、現在の小型冷凍機では達成上可能な冷凍能力、冷凍効率、長寿命化を見通せる膨張タービン方式冷凍機の基盤技術開発を進め、Y系超電導機器の実用化を促進することが必要である。

本研究開発では小型膨張タービン式冷却システムの要素技術を開発し、高性能化の課題と見通しを明らかにすると共に、コスト評価についても実施する。

(1) 膨張タービン式冷却システム要素技術開発:膨張タービン及び軸受け設計、加工技術、大容量熱交換器設計技術、冷媒移送技術など、膨張タービン式冷却システムの為の要素技術を開発する。(2) 膨張タービン式冷却システム試作:膨張タービン式冷凍機、小型大容量熱交換器他の構成機器を設計し、冷却システム(冷凍能力:2kW at 70K)の試作を行う。(3) 高性能化のための基盤研究:膨張タービン式冷却システムの設計、試作、評価を通して、Y系超電導実用機器に必要な冷却能力(数kW at 50-70 K)、及び冷却効率を満たす高性能冷却システム開発にあたっての課題と開発方向、見通しを明らかにする。

Y系超電導実用機器のコスト、メンテナンス性、信頼性等の重要なファクターである冷却システムの開発見通しを明らかにすることにより、Y系超電導実用機器の開発目標がより鮮明になる。

数年後、Y系超電導実用機器を市場導入しようとする時に、冷却システムが無く導入できないという事態がなく速やかに導入でき、Y系超電導実用機器市場が問題なく立ち上がる状態になる。

6.次世代線材の応用展開について

Q6:(1) 市場:本線材の用途としてどの応用分野を狙っているのか、試用計画の実施はどのように進行しているか、必要とされるコスト水準はDOE目標と対比してどうか、中期的(5~9年)及び長期的(10~30年)市場開拓戦略をお伺いしたい。(2) コスト:本線材実用化の決め手はコスト低減と考えられるが、コスト試算例を紹介しながら、DOEコスト/性能目標(10ドル/kAm)の実現性についてどのようにお考えか、製法の代表選手として(a) PLD法 (b) MOD法の2つではどこまで行くか、特にPLD法では設備費が高価とされているが如何に解決するか、その実現時期は何時かお伺いしたい。(3) 標準化:本線材の標準化の現状、今後の課題についてお伺いしたい。

A6-1:市場(掘上)

本線材の用途としては、先程から話題になっている超電導ケーブル、変圧器、モータ及び限流器が対象となっている。また別途進められているSMESの開発も視野に入っている。これらの機器が市場に入る時期を予測することは大変難しいことではあるが、先般発表された、「超電導分野技術戦略マップ」(経済産業省及びNEDO)がある程度の参考になるだろうと考えている。

これによると、66 kV級の交流送電ケーブルや変圧器、限流器などは2015年辺りから導入・普及するのではないかと考えられている。また、10数kWhから数10 kWh級のSMESの導入・普及はもう少し早い時期になると予測されている。モータに関しては、数MW級船舶用が2010年過ぎから始まり、産業用モータがそれに続くという予測になっている。

電力応用では取り敢えずそんなところであるが、NMR等への応用に関しては少し早く普及する可能性がある。ご存知のように、NMRの世界市場の約半分を占めているBruker Biospin社(独)は金属系超電導線材(一部Bi系線材を含む)に関しては、Vacuumshmelze社の超電導部門を買収し、EAS社という吊の関係会社を作った(2003年)。更に、Bruker Biospin社は2004年にはゲッチンゲン大学のY123のCCグループを傘下におさめEHTS社を作り2006年にはEASのBi線材のグループと合体させた。これは明らかにY123線材を用いた1 GHz以上のNMR装置を開発するための策であると考えられる。このような方面からもY系線材の市場が早期に拓けるのではないかとの期待が持たれる。

話を電力応用に戻すと、来年建設・通電が予定されている、Super Power、住友電工、及びBOCが中心となって進めている米国Albanyのケーブルプロジェクトの中で全長350 m(Bi2223線材使用:既に稼動中)のうち30 mをY123に置き換えるという計画は刺激的である。この通電試験が成功裏に進められると、Y系線材の価値が世の中に広く認められることになり、その後の普及に弾みがつくと考えられる。DOEによれば、ケーブル、限流器及び変圧器は2014年に市場に導入され、2017年には普及すとの見方をしている。モータについては2016年に導入され2019年には普及するとの予測を立てている。これは先の技術戦略マップの期待とほぼ一致する。いずれにしても、次世代線材普及のためには、次世代線材を用いたデモ用機器を作り、ユーザに見せることが最も大切なことだと考えている。

A6-2:コスト(斉藤/青木)

(斉藤) IBAD/PLD法線材を含め応用基盤プロジェクトの中では線材コストはアンペア、m当たりのコストで定義されており、目標値は12円/Amおよび8円/Amである。IBAD/PLD線材は前者の目標値となっている。コストの主要因は中間層と超電導層である。コストの低減化には線材作製コストである長さあたりのコスト低減化と臨界電流の向上が直接コストに反映される。工程別にみると基材テープ、中間層、超電導層、安定化層に分けられ、工程毎にコスト試算を行った結果では中間層と超電導層がコストの大半を占める。安定化層は銀を厚く積層すると数円/Amとなるものの超電導層の表層を銀で覆い、その上を銅めっき等により安定化層を確保すれば1円/Am以下となる。中間層はIBAD法中間層とその上にCeO2等のキャップ層をPLD法等で作製する。これらはともに装置費が比較的高価であるためコストの主要因は償却費である。したがって長さあたりコスト低減のためには高速で製造することが必要である。現プロジェクト終了時においては5円/Am程度のコストが実現できよう。また、超電導層も同様で多条成膜等によって従来10%以下しか線材に蒸着していなかった超電導体を20%以上にまで向上させることによって作製速度の向上が見込まれる。これらによって線材コストとして10円/Amを下回るコストが実現可能である。さらにその先、数年間の技術開発による臨界電流の向上とさらなる製造速度の改良を見込むと3円/Am台のコストも達成されると考えられる。

 (青木) 応用基盤PJの中にコストWGという組織があり、このWGで作成したコスト算定ツールを使って種々のケースを想定してコスト試算を行っている。その結果、IBAD基板を線材の基板に使う限りPJの目標値である\8/Amは何とか達成できるが、IBAD中間層のコストが\5.814する為、DOE目標の$10/kAmには手が届かない状況にある。

\3/Amや$10/kAmに相当する\1/Amの国内のPJ目標に対しては、配向金属基板の使用を想定して、各工程のコストを引き下げる算段を行った。具体的には、基板の配向化熱処理、MOD中間層の本焼、CeO2 Cap層といった工程を複線化して同時熱処理する事によって製造効率を上げる考え方である。その結果、Ic = 500 Aを膜厚2.5 mで全長に亘って達成する事により\0.987/Amのコストが達成可能となる。この時の内訳は、基板・中間層のコストが\0.428、超電導層が\0.422、安定化層が\0.137となっている。安定化層の銀の膜厚もこのレベルではかなりシビアに利くようになっている。

このコスト試算達成の難関は、厚膜化と配向金属基板上にて如何にしてJcの向上を成し遂げるかという2点にあり、クラックフリーで如何に厚膜化を果たすかという点に集約されるのではないか。

A6-3:標準化/(田中)

標準化の目標は、本プロジェクトにおいて得られた数百メートル級の長尺次世代線材の特性試験方法についてデータベースを構築し、最終的な目標であるIEC等標準化に資することである。長尺次世代線材に求められる特性は、いうまでもなく実用超電導線材としてニーズ仕様に適正に適応できるものでなければならない。定量的の計測可能な実用特性項目として、寸法、電流容量、臨界電流値、機械的耐力、交流搊失などを挙げることができる。

本プロジェクトにおいては、長尺線に係わる研究開発が精力的に実施されており、長尺線材に係わる実用特性のデータベース構築作業が開始したばかりである。データベース構築作業は学会や論文等公表された技術資料からのデータ抽出である。具体的には、臨界電流やその分布を試験・評価する直接通電法、ホール素子法、MO法などを技術調査対象としている。また、交流搊失低減のためのプロセス技術と交流搊失試験結果の関連調査も実施している。

今後、これらの試験・評価技術の調査を継続的に実施することに加え、寸法、電流容量、機械的耐力など実用線材に上可欠な一連の特性試験技術に係わるデータベースの構築を継続し、従来の実用超電導線材であるNb-Ti超電導線材、Nb3Sn超電導線材、Bi-2223線材などとの技術関連性を精査し、IEC等標準化のための技術基盤の確立、国際標準化へ提言並びに国際的合意の構築に資する予定である。

7.次世代線材開発への期待と課題について

Q7:高温超伝導・交流応用及びマグネット応用の観点から、次世代線材への期待とその課題についてお伺いしたい。

A7-1:期待と課題(塚本)

去年の夏、日本のSRL吊古屋のグループが213 m長で端から端までの臨界電流Icが245 Aの線材の開発をし、今までの長尺線材の記録を大きく突き抜ける成果で世界を驚かした。これで当分は日本の優位は続くとも思われたが、本年の夏に米国SuperPower社が322 m長、Ic = 219 Aの線材を開発し、それもMOCVDプロセスを用い30 m/hという高生成速度で作成したことで日本をはじめ、やはり世界を驚かした。しかし、日本も近いうちにこの米国の記録を上回る線材が開発されるのは確実と思われ、応用基盤研究プロジェクトの目標である500 m長、Ic = 300 Aの達成が視野に入ってきた。プロジェクトを立ち上げた当初には、かなり挑戦的な目標であったにも関わらず、目標達成が間近であり、現在最後の胸つき八丁で大変な思いをされていると思うが、開発に携わっている関係各位には敬意を払う次第である。

 次世代線材開発に関して、欧州のグループはやや出遅れている感があるが、日米が明確な目標を設定し、互いに競争し開発してきたことが今日の成果を生んだものと考えられる。

 超電導線材はいうまでもなく機器に使われてその価値があるものである。長尺化の見通しが立ちつつある中、応用機器開発の日米の競争が本格化している。応用の視点に立つと、まず線材の低コスト化が重要である。応用基盤プロジェクトでの検討では、本格的な実用化の目安となる1~3円/A∙mのコスト実現が可能であることを予測している。米国でも同様なコスト予測を出しており、やがてこの予測は実現するであろう。また、線材を機器に適用するにあたって、線材は機器の環境下で要求される超電導性能を発揮する必要があり、さらに機器の超電導化のメリットが出なければならない。このような課題の下、実用線材、実用応用機器を早期に開発するには、応用機器開発を線材開発と並行させて行うことである。このような並行的な開発の重要性は等しく認められているが、実施するにあたっていくつかの問題点がある。開発資金をいかに調達するか、次世代線材の必要量だけ得られない中で機器開発をいかに進めるかである。これに関し、米国では超電導材料にはこだわらず、現在得られる材料でメリットが得られるような機器の開発を行い、次世代線材が導入可能になれば導入するという明確なポリシーを持って行われている。現在、米国では種々のHTS応用機器が政府と民間で等分に資金を負担するDOEのSPIプロジェクトの枠組みで行われている。これら応用機器開発は電力会社等民間や軍の明確なニーズに支えられ、SPIの枠組み(SPIプロジェクトの実質的なリーダーであるDOEのDaley博士によればSPIはもともと1980年代から90年代にかけての日本のSuper GMのような企業も資金を負担する枠組みをモデルとしたそうである)がうまく機能して、順調に進展している。現時点では、応用機器開発に関しては米国が質量とも日本よりも進んでいる。

日本においても銀シース線材を用いた電力機器開発が行われたが、超電導機器に対するニーズが上透明なこともあって現在はかつてのような勢いはない。しかし、その中で、産業界で舶用モータの独自開発が行われるようになり、また応用基盤研究の枠組みで次世代線材の機器適用性に向けた開発を目標とした実験機器の開発が始まっている。

 現実には政府資金のみで応用機器の実用化までの開発は上可能で、産業界からの多くの参入者が出てくることが期待されている。その意味で、広く産業界に超電導技術に対する関心と開発参入意欲を呼び起こす目的で、経済産業省の英断でまとめられた超電導産業技術マップが、いわば超電導分野における“ムーアの法則”として機能することが期待される。ムーアの法則は周知のように半導体関連で作られた技術予測であったが、その予測そのものが企業の開発目標の設定となり、開発をドライブし、“自己実現する予測”となったものである。