SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.5, December. 2006

5.《コラム》レーザーの進歩により2G HTS線の経済性は改善している!_Ralph Delmdahl and Ludolf Herbst(Coherent GmbH)_


前号に引き続き、Y系HTSテープのコスト問題に関してゲッチンゲン市Coherent社技術者の意見を以下に紹介したい。

                                

   (スーパーコム事務局)

パルスレーザー蒸着(PLD)は最近HTSテープ製造規模を上げるのに好ましい方法である。普通のPLD設備は、低い繰り返しレートで運転される高いパルスエネルギーレーザーと、速くあるいは遅く動く静止ターゲットから成り立っている。HTSテープの開発者共通の信念は、工程中に使用されるエキシマレーザーの購入費と運転費の故にPLDは商用HTSテープ製造用としてコストが決して安価にはなり得ないと言うものであった。然しながら、高パワー工業用エキシマレーザーの最新設計は、高レートPLDと組み合わせて、HTSテープ製造コストを低減しつつある。(Superconductor Week誌2006年6月12日号, Vol.20, No.6 )

エキシマレーザーPLDは、20 MA/cm2以上の高いJcを持つ複雑なフィルムを作製するのに優れた技術として知られている。この種のPLDに共通の波長は、248及び308 nmである。研究級のエキシマレーザーは、中庸な繰り返しレートで高いパルスエネルギーを提供する経済的な道具である。

PLDは、YBCOをアブレートするために2 J/cm2前後のターゲット・エネルギーを必要とするのでPLD研究に好ましい道具は高いパルスエネルギーを特徴とするレーザーである。そのようなレーザーは248 nmで600 mJの安定したエネルギーを供給するが、繰り返しレートは最大50 Hzに過ぎない。最終の蒸着レートは2 nm-m2 / h以下のオーダーである。しかし、研究目標として産出量は重要ではないため、この中庸なパルス蒸着レートは一般的には問題にならない。

HTSテープの量産については状況がまったく異なる。そこでは30 nm-m2/ h以上の蒸着レートが必要である。産出量を最大にするために、高いパルスエネルギーと高い繰り返しレートを提供できるレーザーが要求される。

2001年に、Hans Christen氏(オークリッジ国立研材料科学技術部門&ナノフェーズ材料科学センター)はCoherent社の技術者と一緒にコストの詳細な計算を行い、それをテープ長あたりのレーザーコストに換算した。計算は多くの独立した研究結果に基づいてなされた。その結果は、上記のレーザーのごとくエキシマレーザーは1 m厚、1 cm幅のテープをレーザーパワーkW-hr当り約37 mのレートで作製できることを示した。Christen氏は、夫々レーザーの運転コストを228ドル/kW-hrと、kW-hr当り作業員の人件費を4から8ドルの間と見積もった。加えて、機器のkW-hr当りの資本コストは、レーザーの寿命(償却期間)に応じて20から100ドルの間である。

これは、6.81ドルと9.08ドルの間のコスト範囲を与える。これら作製された線材が400 A/cm-wのIcを有すると仮定すると、レーザーコストは17から22.70ドル/kA-mになるだろう。

これらのコストは、あらゆる消耗要素の寿命を延長するレーザー設計革新によって積極的に低減されつつある。これら消耗要素には、電気、ガス、交換光学機器、交換サイラトロン(高レーザー電圧を切り替えるのに使用される)、交換レーザー管球が含まれる。

Coherent社は、クリーンルーム製造プロセスを改良することにより、レーザー管球寿命を改善した。高パワー工業用エキシマレーザーの新LAMBDA SXシリーズを持って、60億パルスに至るレーザー管球寿命と2日シフト運転における2週間に至るガス寿命が達成された。もう一つの重要な前進は、サイラトロン高電圧スイッチの削除である。Christen氏が述べているように、この高電圧スイッチの典型的な寿命は20億パルス程度である。

これは、200億パルス/年の割合で年当り1サイラトロン交換に対応する。我々の新しいレーザーでは、この技術が数年の寿命を持つメンテナンスフリーの全固体スイッチで代替されている。これは、サイラトロンの相当なコストと共に交換に関連する諸費用を削除する。部品の寿命を延長し、出力を増強することにより、2001年Christen氏によって試算された228ドル/kW-hrは今日では110ドル/kW-hrに低減できる。

レーザー技術の他の進展は、レーザー性能を改良すること、したがってPLD応用を目標にして進められてきた。これらには、実時間パルスtoパルスactive stabilization(308 nmに対して0.9から0.5% = 1 sigmaの変動部分をカットする)が含まれている。追加的革新技術には、パワーロックとタイムロック(安定なレーザー動作を突発的運転中や高速で動く目標物の上でも保証する)のような占有権をとった技術が含まれている。これは重要である、と云うのはHTSテープ1条のIcは最も低い部分のIcにしか過ぎない。理論的には、悪い部分は同定され除去できるが、厚膜導体を接続することはきわめて複雑であり、商用の場合には避ける必要がある。

今日の高パワーエキシマ・レーザーは、300 Hzのパルス繰り返しレートで1050 mJ/パルス(308 nmで安定化される)を供給できる。LAMBDA SX315Cの様なこれらのレーザーでは、LCD及びOLEDディスプレイ用の低温ポリクリスタル・シリコンの製造のために、既に24時間/日から7日/週のサイクルで運転されている。これは、アイドル時間とシステム利用に応じて、2200~2500万パルス/日または75~85億パルス/年に対応する。このような改善があったとすると、今日の400 A/cm-w HTSテープのレーザーコストは9.05と14.72セント/kA-mの間と推定できる。

YBCO厚膜導体作製のためのPLDに特徴的な改良プロセス技術は、さらにコスト低減に寄与している。ヨーロッパ高温超電導体社のA. Usoskin氏は、YBCO薄膜作製のため高能率のPLD装置(HR-PLD)を開発した。当装置は、スキャンニング・ミラー、テープ搬送メカニズム及びそれを横切ってレーザービームがスキャンされる可動式ターゲットから成り立っている。さらに、搬送メカニズムは準平衡加熱方式を採用しており、基板テープに対して±2°Cの温度制御を実現している。 この設備は、2軸配向Y安定化ZrO2バッファー層を持つステンレススチールの上にYBCOをコートするのに使用された。従来のPLDと比べると、非常に均質なYBCOの微細構造が達成された。この良好な形態の薄膜により、2.3 MAの高いJcが得られ、150 W LAMBDAエキシマレーザーを用いて、40 nm-m2/hrの蒸着レートが達成された。次いで150 Wグレードの更なる開発により、70 nm-m2/hrの蒸着レートが達成された。これゆえに、LAMBDA SX 315Cのような315 Wレーザーを用いれば、HR-PLDの処理量は上記後者の数量よりはるかに大きく出来る。

PLDは近年高電流密度を持つHTSテープの製造にとってもっとも有効な方法を代表している。315 WエキシマレーザーとHR-PLD装置の開発によってPLDはどんどん安くなっている。加えて、工業用エキシマレーザーの設計改良がエキシマレーザーを所有するトータルコストを顕著に低減せしめた。さらに、HTS薄膜製造に関して非常に高い効率を示し、且つ将来高処理量と低コストに繋がる特別な組み立てが報道されている。