SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.5, December. 2006

3.Y系線材を用いたソレノイドで1 Tを超える磁場発生に成功       _フジクラ_


   フジクラでは独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託によりIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法によるY系酸化物超電導線の開発に取り組んでいるが、今回その一環としてY系線材によるソレノイド型超電導マグネットの励磁試験を行い、実用化の目安である1 T(テスラ)を超える磁場発生に成功した。 近年100 m級のY系線材がIBAD法等の気相法を中心に一般的に製造されるようになり、ケーブルやマグネット等の実証試験が開始されている。これまでにY系線材によるパンケーキ型コイルの検討がいくつかなされているが、アスペクト比の大きなテープ線材であることからエッジワイズ歪み等が懸念されソレノイド型コイルの検証は行われていなかった。ソレノイド型巻線は一条連続の線を折返しながら巻線する方式で、中間に接続部を持たないため、機械的、熱的により実用性が高い。

 フジクラでは、Y系線材を用いた同巻線の可能性を検証するため、機器を想定したコイル開発に先立って10 mm幅の線材を用いて検証用コイルの開発をソレノイド方式で進めてきた。既に2004年において液体窒素浸漬で励磁試験を成功させ、10 mm幅の線材であっても特性の劣化なく同方式の巻線が可能なことを実証しているが、今回は小型冷凍機による伝導冷却が可能なコイルを作製し、77 Kから30 Kまでマグネットを冷却したマグネット単体の励磁試験と、LTS(金属系超電導体)マグネットと組み合わせることで外部磁界を1 Tから3 T加えた励磁試験を行った。

マグネットに使用した超電導線、マグネットの諸元を表1、マグネットの外観写真を図1に示す。77 KでIc = 100 A級の110 m長線材を用いており、マグネットを均一に冷却するため高い熱伝導特性を有する窒化アルミニウム(AlN)をヒートドレーンとして巻線の層間に挿入する等、熱的安定性向上を図っている。図2にマグネットの通電電流と、中心磁界の関係を示す。35 Kにマグネットを冷却した状態では400 Aの電流を10分間にわたって通電した。このときマグネット中心部で1.2 Tの磁場を安定して発生した。マグネット通電中において温度上昇や部分的な超電導状態から常電導状態への転移現象等は全く観測されず安定した通電が可能であった。さらに30 KではコイルをLTSマグネット中に配置した3 Tの外部磁界下においても1 Tの磁界発生に成功し、Y系線材を用いたソレノイド巻線を用いて実用的な伝導冷却磁場発生コイルが実現可能なことが検証された。

これらのコイル作製と励磁試験を通じて、Y系線材の曲げ歪み特性と安定化材の厚さの関係、巻線時にY系線材に加わる歪み、絶縁、抜熱方法、電流リード部との接続方法等に対する知見が得られ、これが機器応用基礎検討のために10 mm幅Y系線材を使用して作製されたレーストラックモデルコイルにも生かされ、同コイルを界磁コイルとして用いた小型モータの試運転を成功させている。今後は上記により得られた知見を生かし、より機器適用性に優れた5 mm幅線材を用いて安定化・絶縁等の導体化及びコイル化技術開発を行っていく予定である。これまでに、界磁巻線コイル等の直流用途を想定して、銅安定化層複合及びテープ巻き絶縁を施した5 mm幅導体開発に成功しており、今後はモータ、変圧器、限流器等、想定される各超電導機器に応じた線材及び導体開発を通して開発が加速することが期待される。                         

                               


図1 マグネットの外観写真。


図2 交流搊失測定結果。
表1 超電導マグネットの諸元

 (FJ)