SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.5, October. 2006

1.高温超電導磁気浮上マグネットを搭載したプラズマ実験装置RT-1 _東大、東芝_


  まだ目新しい建屋が並ぶ東大柏キャンパスに、プラズマ閉じ込め装置RT-1が完成した。この実験装置は、東京大学新領域創成科学研究科の吉田善章教授のグループが、先進核融合を目指して建設したもの。リング形状の導体が作り出すダイポール磁場の周囲に高速プラズマ流を閉じ込めるという原理で、ITERで採用されているトカマク方式よりも、遥かに高い効率が得られる可能性があるという。 この実験装置RT-1の核となる部分に高温超電導マグネットが使われている。本プロジェクトの目的を達成するためのポイントは、ダイポール磁場を発生されるリング導体を真空中に浮かせるということ。

  リング導体の周囲には、高温高速のプラズマが発生するため、通電用のケーブルやサポートなどが存在することは許されない。そこで考え出されたのが、リング導体を超電導マグネットにするということ。超電導マグネットを永久電流運転すれば、外部からの通電回路を切り離すことが可能である。さらに、高温超電導ならば、冷却が失われても運転温度範囲が広いので、より長い実験時間がとれるようになる。

RT-1の構成を図1に示した。運転手順はこうだ。まずは、プラズマ真空容器の下部で、循環ヘリウムガスでマグネット内部を冷却し、高温超電導コイルが20 K以下になったところで、永久電流スイッチを使って励磁し、永久電流モードにする。その後、冷却配管、励磁に用いた電流リード、計測フィードスルーをマグネットから切り離す。全てが切り離された高温超電導マグネットは昇降機でプラズマ真空容器の中心に移動され、プラズマ真空容器上部に設置された吊り上げコイル(水冷銅コイル)により、磁気浮上される。予定された8時間の実験が終了すれば、昇降機でお迎えにいって、高温超電導マグネットを再びプラズマ真空容器の下部に戻す。消磁、再冷却されて次回の試験に備える。

このような運転が可能な高温超電導マグネットを実現するために、「電流減衰が少ない高温超電導永久電流コイル、無冷却状態での温度上昇を抑制する断熱技術、高温超電導コイルの保護、電流リード着脱部の発熱低減、リークがない冷媒ガス配管の着脱部等、数々の設計・製作上のポイントがあり、それらひとつひとつを研究所と設計が力を合わせ、東大グループと協議しながら解決していった《とは高温超電導マグネットの設計を担当した東芝 電力・社会システム技術開発センターの戸坂泰造主務のコメント。高温超電導コイルの構成を図2に示した。設計のポイントのひとつとして戸坂氏曰く、「現時点で、唯一の実用線材であるBi2223銀シース線は機械的に弱いので、コイル製作時に劣化させずに、永久電流を維持できるような品質のコイルを作るのには細心の注意が必要《とのこと。したがって、巻線方法として、通常の超電導コイルに用いられるレイヤー巻ではなく、シングルパンケーキを巻線しそれら(12枚)を接続する、という永久電流高温超電導コイルでの実績がある方法が採用された。しかし、「この方法では、パンケーキコイルを接続する部分に流れる電流が誤差磁場を発生させ、プラズマ閉じ込めに影響を与えたり、超電導コイルに回転力を発生させたりしてしまう可能性があった《。磁気浮上中のマグネットは、回転を止める方法が無く、どんどん加速してしまうので、回転力は極力抑えなければならない。そこで、「接続回路の構成を工夫することで、誤差磁場を極力発生させないように、また回転力が発生しないようにした。《とのこと。詳細については、8月27日より米国シアトルで開催されたASC2006 (Applied Superconductivity Conference)で発表された。

プラズマ真空容器内に組み込まれた高温超電導マグネットは、まずは永久電流性能、断熱性能が確認された。電流減衰率は8時間あたり1%であり、良好な結果であった。一方、冷却を止めた後の温度上昇は、19.5 Kからスタートし、8時間後に31.5 Kになるというペースであった。温度上昇率は設計よりも若干大きかったが、永久電流モード運転を8時間維持することは可能であることがわかった。

ファーストプラズマを達成したのは今年の1月12日、まずは、昇降機に載せた状態であった。翌日には、吊り上げコイルで昇降機から3 cmほど高温超電導マグネットを磁気浮上させ、プラズマを発生させることに成功した。磁気浮上制御は極めて安定で、前述の誤差磁場による回転に関しても、浮上開始時に僅かに回転したものの、しばらくして静かに回転は止まった。図3は、磁気浮上させた状態でのプラズマ発生の写真である。

本装置は、昨年山梨実験線での走行試験に成功した高温超電導磁気浮上列車と同様に、アプリケーションが必要とする性能と、高温超電導が得意とする特性がうまく合致した例だと思われる。RT-1の研究の進展に期待するとともに、高温超電導の応用分野がひろがっていくことを期待したい。            

                               


図1 RT-1プラズマ閉じ込め装置の機器構成。


図2 高温超電導マグネットの構造。


図3 磁気浮上してプラズマを閉じ込めた高温超電導マグネット。

(超デン導)