SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.4, August. 2006

6.《コラム》Y系線材のコスト問題


  コスト低減はY系線材の需要開拓と拡販の為重要な課題であり、スーパーコム読者も大きな関心を持っているテーマである。最近、Superconductor Week誌上にはコスト問題に関する意見が続いて掲載されている。以下にDiboride社 Sargent氏の問題提起とそれに対するASC社Santamaria氏の反論を紹介したい。

(スーパーコム事務局)

高設備費によりY系厚膜導体は致命的に高価になる!

                

_Philip Sargent (Diboride Conductors)_

 アメリカンス−パ−コンダクター(ASC社)は、YBCO厚膜導体を商業化する為の、確固とした商業ベースのロードマップを構築中であり、同社はまた優れた技術的仕事を実行していると我々は認識している。しかしながら、我々はこのロードマップに幾つかの日付とコスト的含意を付け加えた。YBCOが素晴しい成功にならないとは主張しないが、誰もが望んでいるより長く商用化に時間が掛かると考えている。(Superconductor Week誌2006年2月13日号, Vol. 20, No. 2)

米国エネルギー省は昨年12月に、ASC社とIGCスーパーパワー社がYBCOテープ用パイロットプラントの支払いが出来るよう両社に資金供与すると発表した。ASC社社長のG. Yurek氏はまた2005年7月に、次期製造プラントは8,400 km/yの規模でコストが25~30 Mドルになるだろうと発表した。YBCOのコストが資本コストに支配され、材料及びプロセスコストは無視出来ると仮定するなら(これらはYBCOプリカーサが0.60ドル/kA-m、金属テープが0.50ドル/mと推定される)、YBCOテープの最小コストが計算可能である。  重工業では、プラントは20~30年の有効な寿命を持つが、一方ハイテクシステムでは4~8年の寿命が普通である。ASC社の決算報告では機械・設備に対して5~10年を用いているので、10年の値は資本コストの下限を与えることになろう。

ASC社のパイロットプラントは明らかに13.6 Mドルの費用を要し、2007年12月から年産300 kmの製造を行うよう計画されている。10年の寿命に対して、これは3,000 kmのテープに相当し、4.50ドル/mのコストになる。70 A"344"型テープ(同社の目標とする商用HTS線材)に対して、これは約65ドル/kA-mのコストである。この資本コスト要素は、最終の価格目標25ドル/kA-m(77K&SF)の2.6倊である。

 このパイロットプラントは、一部政府資金を受けており前商業的であるので、1~2年だけ運転されることが予想される。2年の寿命の間に600 kmを製造し、それゆえ資本コストは5倊高い22.67ドル/mまたは324ドル/kA-mになるだろう。(事実、ASC社は彼等の前パイロットプラント製YBCOテープを100ドル/m即ち1428ドル/kA-mで販売していると述べた。) これらの計算では金利コストを無視している。適切な正味現在価値の計算は、将来金額は今日の諸条件より価値が小さいので、テープコストに対する資本コストの貢献は実際にはここで計算した数値より高くなるだろう。

8,400 km/y製造プラントは、年当たり28倊のテープを製造でき、建設コストは約2倊(25~30 Mドル)とASC社によって予言されている。全てASC社に関して、これらのスケールアップは特質エンジニアリングの軽信を象徴している。12.7倊と15.2倊の間の改善は単一プラントスケールアップでは上可能では無いが、極めて異例であり、ありそうも無いことである。新プロセスに関する3倊ファクター以上のプラントスケールアップは、一般的に云って危険と考えられる。

 もしASC社の設備寿命推定の下限5年と25 Mドルを用いるとすると、合計結合資本コストは0.87ドル/m(金利費を含めて)になるだろう。若し、10年の寿命を持つ30 Mドルのプラントを仮定すると、資本コスト要素は0.77ドル/mに減少し、77 Kで70 Aのテープに対しては11ドル/kA-mと等価である。これは、このYBCOテープが液体窒素トランスを商用化する為の条件と見積もられてきた 5~10ドル/kA-mの価挌目標を満たすことが出来ないことを意味する。

 プラントに於けるファクター15の資本効率の改善は、通常3~5の中間パイロットプラントを介して達成され、1世代では無い。プラントの資本効率を増加しつつある成熟した製造工業の最も良い実例は半導体工業からやってくる。2005年の半導体ロードマップは、2006年1月に発行され、非常に重要な技術変化が尚2年毎(1998~2004)にコスト効率の倊増化を可能にすることを実証している。

18ヶ月の倊増期間は、週当たり1%の改善に対応する。発展しつつある、しかし比較的に成熟している工業、Nb-Ti超電導体は20年間に亘って年率約7%改善した。これは、我々が超電導工業で予想する基本的な改善率である。

 製造プロセス工業で嘗ってみられた最も速い発展は、容量が1000倊を超す(13ヶ月の倊増時間と等価)ここ10年間のハードディスク・ドライブのそれである。前例のないそのようなレートを取ったとしても、ファクター15のYBCOテープ生産性の改善には、8年以上を要するだろう。若し、習熟期間が2007年12月にスタートするなら、フルスケール・プラントは2016年2月に製造を始めると予想される。若し、それが10年間完全に使用されれば、YBCOテープの資本コスト要素は2026年においても11ドル/kA-mである。  ASC社は、かれらのYBCO製造はフルサイズのプラントで2,000 km/yの出荷をした時に利益が出ると表明した。これは、100ドル/mのプロトタイプ製造価格でテープを販売することを予想しており、おそらく政府がもっと資本供与を行うと予想しているからに違い無い。

25 Mドル-5年寿命のプラントがたった2,000 km/yで利益を出すのなら、それは2.50ドル/mまたは36ドル/kA-mの資本コストをカバーしなければならない。それ故販売価格は、ASC社の決算報告に基づくと本質的に36ドル/kA-mより高くせざる得ないだろう。ASC社は、4 mm幅で179 Aの電流を流せる予備的なYBCOテープ(“344”ではない)を持っている。若し、彼等がその技術を余分の資本コスト無しに使用出来れば、ファクター15の生産性改善を付け加えれば、それで資本コスト要素は2026年に11ドル/kA-mではなく単に4.30ドル/kA-mになるだろう。

DOEピーアレヴュー(2005年7月)において、日本派遣団は「日本の線材会社は2007年には高品質のIBAD YBCOテープを100ドル/kA-mで、安価なRABiTSテープを70ドル/kA-mで製造しているだろう《と予想した。

 欧州YBCOケーブルプロジェクト”スーパー3C”は、EHTSテープを148ドル/mと推定される価格で購入する。(それは、研究助成割り当てから推定されたものなので、相談料等を含んでいるかも知れず、正確なテープ価格では無い。) それは、ASC社の前パイロット段階のYBCOテープ価格100ドル/m及び2005年度ASC社製Bi2223線価格148ドル/kA-m (135 A/77 Kテープに対する20ドル/m) と比較すべきものである。

ASC社は、2007年12月に彼等のYBCO線量が彼等のビスマス系線材量を追越すだろうと、2005年7月に予言した。これは、YBCOプラントのみで300 km/yの製造が可能で、2005年度に389 kmのビスマス系線材を出荷したので、ASC社が意図的にビスマス系線材の製造を減速したことを意味する。同じ集会で、住友電工は、ビスマス系テープは少なくとも2014年までは線材市場を支配するだろうと予言した。

ASC社製造計画の経済性は健全である!  

       

_A. Santamaria(ASC社線材部)_

我々は大きな驚きと困惑を持って、ASC社のRABiTS/MODプロセスを用いてYBCOテープを製造するコストに関するPhilip Sargent氏の解析(Superconductor Week, Vol. 20, No. 2) を読んだ。

Sargent氏の解析は根本的に欠陥がある、何故ならそれは上正確な事実的仮定に基づいているからである。我々のパイロットライン用に調達した設備の多くは、実際にはパイロット製造だけに用いられるより大きな容量を持っている。さらに、この同じ設備は幅が広い条加工のスケールアップ将来計画に使用されるだろう。それは、フルスケールの製造ラインに於いて統合部分を構成し、パイロットプラントにおける投資価値を高めるものである。(Superconductor Week誌2006年3月20日号,Vol. 20, No. 5) 要するに、Sargent氏の解析は我々の展望(我々の構想が、出現しつつあるHTS線市場を満たすために低コスト、高性能及び量産可能な超伝導線製造をスケールアップする必要があり、その際に非常に実用的で、実行可能なアプローチを提供すると言う。) を何ら変えない。