SFQ回路は、現在の半導体回路より数十倊速い100 GHzで動作した場合でもゲート当たり0.1 W程度の電力しか消費せず、発熱を殆ど生じないことから、情報処理に革命的な進歩をもたらす超高速かつ大規模な回路を実現する技術として期待されている。このため超電導工学研究所では、ネットワークルータ用スイッチをターゲットとしたSFQ回路の開発を進めており、これまでに4×4 (4入力、4出力)SFQスイッチの開発や、その制御回路であるSFQスイッチスケジューラが半導体スイッチの約100倊にあたる40 GHzで動作することの実証等を行ってきた。
今回開発した装置「広帯域低温サブシステム《の外観を図1に示す。別置きのコンプレッサが必要ではあるが、冷凍機込みで36×36×90 cmのコンパクトなサイズに収まっている。この装置の上部にあるコネクタに接続することでSFQ回路に入出力を行うことができる。この装置の最も重要なパーツは、複数のSFQチップを搭載した超電導マルチチップモジュール(MCM)に32本の10 Gbps電気ケーブルを用いてデータの入出力を行う図2のプローブである。
標準的な広帯域測定装置であるパルスパターンジェネレータ(PPG)とサンプリングオシロスコープ(SO)を室温コネクタで本装置に接続し、動作実験を行った。PPGから10 GbpsのNRZ(ノン・リターン・ゼロ)信号を入力し、SFQチップ上にあるレベル信号/SFQパルス変換回路でRZ(リターン・ゼロ)の10 GbpsSFQパルスに変換した後、ジョセフソン伝送線路(JTL)と呼ばれるSFQ回路中を伝搬させた。伝搬したSFQパルスは超電導増幅器で増幅とレベル信号への変換が行われ、50 Kステージにある半導体増幅器でもう一段増幅されてからSOに表示された。この実験によって、10 Gbps電気信号がSFQ回路で処理された後正しく出力されていることが確認できた。また、ビット・エラー・レート(BER)を測定したところ、通信応用に十分な10-13台の値を得られることが確認できた。
このような装置の開発は世界で初めての試みであり、この成果によりSFQ回路を容易に使える条件が整い、ネットワークルータ用スイッチなどへの応用に向けた開発が加速されるものと期待される。一方、SFQ回路の性能を十分に引き出すには40 Gbps以上の入出力を行うことが重要である。本装置の開発において今回は電気ケーブルを用いたが、電気ケーブルでは10 Gbpsまでの信号伝送が可能だが、それ以上の伝送レートでは光ファイバを用いる必要がある。また、冷凍機冷却能力のほとんどは電気ケーブルからの熱流入対策として消費されている。これらのことから、光とSFQ回路のインターフェイス開発が今後の課題であり、これにより40 Gbps以上の入出力を実現していく予定である。
開発を担当した橋本義仁超電導工学研究所低温デバイス開発室主任研究員は、「この装置は、SFQパルスのチップ間高速伝送、極低温・広帯域・多ピンプローブ、熱流入と高周波特性を最適化した広帯域実装、SFQ回路微小出力の広帯域増幅などの最先端の技術を駆使することにより実現できた。《と述べている。また、同開発室の日高睦夫室長によれば、制御機能付きのSFQ4×4スイッチをこの装置に実装し、年内を目処にSFQスイッチの高速性を実証するデモンストレーションを行う予定とのことである。
図2 32本の10 Gbps広帯域ケーブルを実装した超電導MCM。
(都万)