SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.4, August. 2006

2.人工ピンを導入したPLD法GdBCO線材 ―磁場中での臨界電流が大幅に向上(77 K, 3 Tで59.5 A/cm幅)、従来のYBCO線材の10倊 _超電導工学研究所吊古屋高温超電導線材開発センター、ファインセラミックスセンター_


  急速に進むYBCO線材実用化

 YBCO線材の発展振りは目覚しく、長尺化および高臨界電流化は世界中で着実に進んでいる。昨年夏の超電導工学研究所吊古屋高温超電導線材開発センターの245 A(212 m線)、また、今年7月に発表されたIGC-Super Power社の219 A(322 m線)と、200 Aを超える臨界電流は複数機関から報告されるようになってきた。

  磁場中での特性はどうか?

とはいえ、上記臨界電流(Ic)はあくまで0 Tでの値である。これまで、実用化への最大の難点は長尺化であったので、無理からぬところであるが、200m級ができるようになってきたところで、開発の関心は磁場中でのIcに移っていくであろう。これは、多くの超電導機器が高磁場下で使われるためである。これまでの0 TでのIcは、言ってみれば長尺化の目安であったと思われる。我々の測定によれば、上記、長尺線の3 TでのIcは5-9 A程度である。これでもJcにすると104 A/cm2以上の値であり、Bi系線材では流れないことを考えると十分高いのであるが、実用的には数Aの電流しか使えないのでは、装置が大型になり非常に使いづらいものになってしまう。

特性改善の道は? PLD法線材

PLD(Pulsed Laser Deposition) 法はレーザー光を用いた物理的気相蒸着(PVD)法の1つであり、薄膜の特性が非常に優れていることに加え、成膜制御性も容易であることが知られている。我々は長尺化にこの手法を用いているが、また、磁場中特性改善にもPLD法が有効であることがわかってきた。常電導の酸化物の粉末を混入したターゲットを使って、超電導層内に酸化物の微細な析出物を作ることができ、これが磁場中のIc向上に効果がある。意図的に作ったという意味で、この酸化物の析出物を人工ピンと呼んでいるが、これを使った磁場中特性改善が、日米欧の様々な機関により研究されている。最近では米国オークリッジ国立研究所のKangらにより、BaZrO3添加YBCO線材で3 T, 77 Kにおいて40 A/cm幅の高臨界電流値を持つRABiTS(Rolling-Assisted Biaxially-Textured Substrate)上の線材が報告されている。また、我々もYBCO中にYSZを導入した試料で3 TでのIcが20A/ cm幅を越えるものを作製していた。さらに、超電導工学研究所ではGdBCO線材の開発も進めていたが、これは、臨界温度が高い、磁場の印か角度に対しての異方性が少ないなど、従来のYBCOに比べて多数の利点があるからである。

人工ピン入りGdBCO線材:Vortexの姿、構造に類似のバンブー組織で、10倊のIcに。

今回開発したのは、このGdBCO線材にさらに人工ピンのもととなるZrO2を添加した線材である。PLD法により、PLD-CeO2/IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)-GZO/Hastelloy基板上に人工ピン導入線材を2 m以上に厚膜化することに成功し、従来の10倊近い磁場中Icを持つ線材を作成することができた。

得られた線材のIc値は3 T(c軸に平行磁場)で59.5 A/cm幅と高特性を示した。これは、上記ピンなしのYBCO線材の値(5-9 A)の10倊近い値である。ファインセラミックスセンターによる透過型電子顕微鏡撮影により、BaZrO3の柱状組織が基板表面から、超電導体の表面まで成長していることが分かり、この組織が磁場中特性の向上に寄与していると考えられている(図2、図3)。すでにYBCO線で同様な組織を観察しているが、GdBCOの場合には、さらに効果的に作用している。直径が5 nmと非常に小さいが、長さは数100 nmから、μmオーダーまで伸びており、図のようなコラムナーな棒状組織ができている。まさに、Vortexの姿に類似しており、いかにもピンに効く形状である。我々はその姿からバンブー(竹)構造と呼んでいる。

この線材は、臨界温度も93.8 Kと高く(YBCOでは88 K)、GdBCOにZrO2の粉末を混合したターゲットを使用するのみで簡単に作製できる。また、使用したPLD-CeO2/IBAD-GZO/Hastelloy基板は機械強度が強く、PLD法で100-200 m級線材を安定して製造できる技術も確立しているので、今後は磁場中機器応用に多いに力を発揮することになると思われる。

なお、詳細は、Supercond. Sci. Technol. 19 (2006) 924–929に掲載されるとのことである。   

                               


図1  ZrO2導入GdBCO線材の磁場中臨界電流特性。


図2  ZrO2導入GdBCO線材の断面TEM写真 (ファインセラミックスセンター)。


図3  ZrO2導入GdBCO線材の平面TEM写真 (ファインセラミックスセンター)。

(TakaKazu)