SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.4, August. 2006

1.JT-60で高性能プラズマの持続記録を更新_日本原子力研究開発機構_


  日本原子力研究開発機構那珂核融合研究所の臨界プラズマ試験装置(JT-60)では核融合エネルギーのためのプラズマ(超高温の電離気体)の研究を行っている。本年、強磁性体であるフェライト鋼の効果を利用して、国際熱核融合実験炉(ITER)で必要とされる条件をほぼ満足する高閉じ込め・高圧力状態の高性能プラズマを世界最長の28.6秒間維持することに成功した。

  JT-60のようなトカマク装置では、ドーナツ状に並べたコイル(トロイダル磁場コイル)で強い磁場(トロイダル磁場)を発生させて真空容器の中にプラズマを閉じ込める(図1左)。トロイダル磁場はコイルの真下で強くその間で弱くなるため、磁力線に凹凸ができる(図1右上)。これを磁場リップルと言う。JT-60では、他の多くのトカマク装置と同様、高エネルギーの中性粒子ビームをプラズマに入射して高速のイオンを生成し、プラズマを加熱する。磁場リップルが存在すると、高速イオンの一部は磁場の強い場所で跳ね返されコイルの間を往復しながら逃げて行く(リップル搊失)。磁場を吸いよせる性質を有する強磁性材料であるフェライト鋼をコイルの下に置くと、磁場の強弱(磁場リップル)が減少し、高速イオンが良好に閉じ込められるようになる(図1右下)。この効果は旧日本原子力研究所のJFT-2Mにおいて世界で初めて確認された。

 この効果を利用するため、昨年JT-60の真空容器内の炭素製タイルの一部をフェライト鋼製のタイルに交換した。フェライト鋼タイル設置後の真空容器内の写真を図2に示す。炭素製タイルとフェライト鋼製タイルがトロイダル方向(周方向)に規則的に並んでいることが分かる。昨年12月から実験を開始し、高速イオン搊失の減少を確認した。興味深いことに、プラズマの閉じ込め性能も改善した。これは高速イオンの搊失によって生成される負の電場が減少したためと考えられる。その結果、プラズマ圧力の規格値と閉じ込め性能の規格値の積がITERで必要とされる値を満足する高性能プラズマの維持時間を28.6秒まで伸長した(図3)。これはJT-60が有していた従来の世界記録(16.5秒)の1.7倊に相当する。今回の成果によりITERの目標達成へ大きく前進した。 銅コイルを用いているJT-60を全面的に超伝導コイル採用の装置へ改造するJT-60SA計画(SAは、Super Advancedの意味)が進められている。高圧力プラズマの定常維持等についてITERを補完する研究およびITER運転シナリオの最適化等についてITERを支援する研究を主目的としている。本装置は、国際核融合実験炉ITERの幅広いアプローチの一環としても位置づけられており、日欧が主要機器の製作を分担する国際共同計画でもある。

図4に現在計画中のJT-60SA装置の全体を示す。直径約14 mの球状のクライオスタット内に、超伝導コイルやプラズマを閉じ込める真空容器などを収紊している。クライオスタットを含む主要装置の総重量は、2500トン程度と見積もられる。最大プラズマ電流は5.5 MA、プラズマ加熱入力は41 MW(100秒間)を予定している。また、超伝導コイルの特性を活かした8時間程度の連続運転の可能性も将来計画として予定している。

超伝導コイルは、すべてケーブルインコンジットタイプの強制冷却である。トロイダル磁場(TF)コイルは約41 MATの起磁力を有し、プラズマ中心3.0 mで2.7 Tの磁場を発生させる。最大経験磁場が6.4 Tであることから、NbTi導体を採用する。中心ソレノイド、ダイバータコイル(EF4)の最大経験磁場はそれぞれ10 T、7.4 Tであることから、Nb3Sn導体を採用する。ポロイダル磁場コイル系は、最大で約40Wb程度の磁束スイング能力がある。ダイバータコイルを除く平衡磁場(EF)コイルは、すべてNbTi導体である。EFコイルには、超臨界ヘリウム(SHe)の冷却パスが長くなることを考慮して、センターチャンネルを設ける予定である。  装置の建設には概ね7年間を予定している。EUがTFコイルを、日本がCSとEFコイルの製作を分担する。現在のところ、TFコイル、およびCSとEF4コイルについては、本体に据え付ける前に冷却通電試験を行い、健全性を確認する予定である。                              

                               


図1  (左)トカマク装置の概念図。(右)フェライト鋼による磁場リップルの低減の概念図。


図2 フェライト鋼装着後のJT-60真空容器内写真。


図3 JT-60のプラズマ性能の進展。2004年はフェライト鋼装着前、2006年はフェライト鋼装着後。


図4 JT-60SA装置の全体図。

(TF&MM)