SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.3, June. 2006

.《コラム》材料電磁プロセシングの世界拠点の構築 吊古屋大学:浅井 滋生


 この度、吊古屋大学から申請した「材料電磁プロセシングの世界拠点の構築《というプログラムが平成18年度アジア研究教育拠点事業に採択された。この事業は、アジア諸国の研究教育拠点機関と持続的な協力関係を確立し、世界的水準の研究拠点を構築するとともに、次世代の中核を担う若手研究者の養成を目的として、独立行政法人日本学術振興会が平成17年度より実施しているものである。18年度は全国から47件の応募があり、3件が採択されたが、その内の一つに入ることができた。 「材料電磁プロセシング《とは、工学系の人間にとっても聞き慣れない言葉と思われる方が多いと思う。これは電場・磁場の機能を活用して、新しい機能を持つ材料を創製することを目的とした新しい科学・技術分野で、我が国の材料関係の学協会の一つである日本鉄鋼協会の庇護の下、フランスのグルノーブル大学との強力な連携・協力があって育成されてきた。ここ20年間の歩みを図1に纏めてみた。

1994年、吊古屋大学で「第1回材料電磁プロセシングシンポジウム《を開催するにあたり、この言葉を「Electromagnetic Processing of Materials《と訳してみた。今日、この単語をGoogleで検索すると11,400件のヒット数に上るので、ここ12年間で、かなり世界に流布されたことになる。(ちなみに、Nagoya Universityのヒット数は1,810,000であった。) 特に、近年、超伝導技術の著しい発展に伴って強磁場が比較的容易に得られる環境が整い、この強磁場を用いることにより、磁性材料に限られていた磁化力 (磁石が鉄を引きつける力として馴染み深い) の機能を非磁性材料にも拡張することが可能 (木、プラスティク、ガラス等も磁場によって駆動可能) となっている。そして、この機能を材料の創製に活かす分野として「強磁場の材料科学《が注目を集めるようになってきた。

本プログラムは日本、中国、韓国の連携・協力の下に進める。構成としては、日本側は吊古屋大学を主幹として、東北大学、東京大学、首都大学東京、大阪大学、横浜国立大学の6大学と物質・材料研究機構、中国側は東北大学を主幹として大連理工大学、清華大学、上海大学の4大学、そして韓国側は蒲項産業科学研究院を主幹としてソウル大学、仁荷大学、大邸慶北科学技術院の2大学と2研究所となっている。交流目標として(1)世界に於ける「材料電磁プロセシング《の牽引、(2)次世代を担う若手研究者の育成を掲げており、国を跨ぐかたちで(1)結晶配向制御、(2)結晶核生成制御、(3)合理的材料製造プロセス開発、(4)固体組織制御の4研究を推進すると共に、5つの若手研究者育成事業((1)重要共同研究への参画、(2)オープンクラスター活動、(3)世界拠点セミナー、(4)夏の学校、(5)英文教科書作成)を、オープンクラスター制度(21世紀COE「自然に学ぶ材料プロセシング《で開発した若手研究者活性法。http://www.nature.coe.nagoya-u.ac.jp/open/index.html)をフルに活用して推進していく予定である。 これまで、「材料電磁プロセシング《の分野は日本とフランスが世界の牽引役を務めてきたが、近年、中国、韓国の経済発展に伴い、“ものづくり”の拠点が欧米から東アジア(日本、中国、韓国)に移行している。このような状況を踏まえて、これまでの日本―ヨーロッパの交流重点を日本―中国・韓国に移し、「強磁場の材料科学《を包含した「材料電磁プロセシング《の学術・技術の再構築と次世代を担う若手研究者の育成を図ることを目的に、本分野の世界的研究教育拠点を形成しようと考えている。皆様のお力添えをお願いする次第である。

                               


図1 「材料電磁プロセシング《、20年間の歩み