SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.3, June. 2006

6.Nb3Al線材の進展(19.5 T長尺化実証コイル)_物質・材料研究機構_


 Nb3Al線材で実用化に向けて大きな進展があった。物質・材料研究機構(NIMS)超伝導材料センター強磁場線材グループの竹内孝夫グループリーダー及び同高温線材グループの北口仁グループリーダーは、日立電線、神戸製鋼所、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジーからの技術協力も得て、急熱急冷変態法Nb3Al線材の長尺化技術(1 km級)を確立するとともに、その長尺線材性能実証を兼ねて実規模サイズのコイルを試作し、4.2 Kにおける超伝導コイル発生磁場としては世界最高の19.5 Tの磁場を発生させることに成功したと発表した。

急熱急冷変態法では、NbとAlから構成される前駆体線を~1950°Cに加熱してから室温に急冷することによって過飽和固溶体をいったん生成し、この過飽和固溶体からNb3Alを変態析出させる方法を採用している。過飽和固溶体を経由して生成するNb3Alの組成はほぼ化学量論比となり、20 T以上の強磁場領域を含む全磁場領域でブロンズ法Nb3Sn線材に比べて大幅な臨界電流密度の向上が実現できる。したがってこの急熱急冷変態法Nb3Al線材を利用することにより、従来のNb3Sn超伝導コイルによる磁場発生記録(4.2 Kでは19 T)の更新が期待されていた。なお、実用コイルの製作に必要な1 km級の長尺線材が必要となるが、これまではNb/Al前駆体複合線製造のための伸線加工装置や急熱急冷装置処理能力の制約があり、線材一本単位での長さ(単長)は370 mまでであり、長尺化技術の確立が望まれていた。

長尺化のためのビレット大型化に関しては、ビレットの大型化により予想される伸線加工性に関する課題を中型ビレットの模擬実験を行って事前に抽出し、それを反映したビレット構成部材を選択使用して解決した。NbとAlを組み込んだ大型ビレット(外径141 mm, 50 kg)は、静水圧押し出ししたのち最終線径が1.35 mmまで無断線で単長2.6 kmのNb/Al前駆体複合線に伸線加工できた。急熱急冷処理は、供給リールから送り出されたNb/Al前駆体線がCu回転電極と液体Ga電極の間で融点近くまで通電加熱され、そのまま冷媒を兼ねるGa液中に急冷されて過飽和固溶体に変換され、さらにそのまま別のリールに巻き取られる一連の動作から構成される。その際、最終的に得られる超伝導特性は急冷直前(Ga液面直上)の最高到達加熱温度に強く依存し、これを最適温度(~1950°C)で一定に保つことが急熱急冷処理の長尺化技術の鍵であった。今回、加熱電源から単位長さあたりの線に供給される電力エネルギー(これが最高到達加熱温度を決める)を一定にするため、線の移動速度、加熱電流値に加えて電極と冷媒を兼ねるGa液面高さ(急冷した線材表面にGaが付着するので急冷処理量とともに低下するのにしたがい、実効的な電極間距離が拡がる)も制御した。また、アメのように柔らかくなった加熱部をクリープ変形させない線張力の微調整を実施し、さらに突発的なゆるみから生じる弛み(実質的に加熱時間を増加させて溶断に至る)の主原因であった俵積みして巻き取った線材の崩落をなくすために精密整列巻き取り機能を付加した大型急熱急冷装置を開発した。これにより上記長尺線の半分(1.3 km)を使ってその全長に渡って最適温度を一定に保つことに成功した。その後、生成した過飽和固溶体が室温で良好な延性を有する特徴を活用して、圧延加工により急冷線材の表面に銅を安定化材として複合して(断面写真、図1)、1 km級長さの長尺化技術を確立した。

さらに長尺均一特性の実証試験として、従来のコイル線材長さと比べて約3倊長い過飽和固溶体線(764 m)で、ターン数が3倊以上(3833ターン)で巻き線内径が30 mm、巻き線外径が97 mm、巻き線高さが251 mmの実規模サイズのコイル(図2)を試作した。急熱急冷変態法の制約として、変態温度までの昇温速度が上十分な場合に最終的に生成するNb3Alの超伝導特性が劣化してしまうことが挙げられる。実規模コイルでは熱容量が大きくなるため、過飽和固溶体をNb3Alに変態させるためのコイル熱処理において、室温から均一に十分な速度(160°C / 時)で昇温するには困難がある。今回は、安定化材を複合する際に過飽和固溶体に積極的に塑性ひずみを導入することにより変態後の超伝導特性の昇温速度依存性そのものを鋭敏なものから鈊感にすることに成功した。さらに、最終的な超伝導特性に決定的に影響を及ぼすのが500~800°Cの温度区間の昇温速度である知見に基づき、500°Cでいったん昇温を止めてコイルの温度分布が一様になった後再び800°Cまで昇温させる方法を考案した。これら二つの方法を採用して、実規模コイルにおいても、特性劣化を抑制して変態熱処理することに成功した。このコイルを含浸処理した後、Nb-Ti合金/Nb3Sn・超伝導外層コイル(巻き線内径101 mm、巻き線外径409 mm)の内側に組み込んで通電試験を行った。外層コイル(4.2 Kで運転)のバックアップ磁場15 Tの中で、4.2 Kで242.3 AまでNb3Al内層コイルに通電してトレーニングなしで追加磁場4.5 T(中心磁場19.5 T)を発生した。この合計19.5 Tの中心発生磁場は、これまでの4.2 Kにおける超伝,導コイルによる中心発生磁場の最高値である19 Tを0.5 T更新している。竹内孝夫グループリーダーは「これにより急熱急冷変態法Nb3Al線材の優れた長尺・均一特性が実証できた。今後はNb3(Al,Ge)への展開も含め、臨界電流密度特性の改善に注力してゆきたい。《と抱負を述べた。

                               


図1 単長1km級Cu安定化急熱急冷変態法Nb3Al


図2 試作したNb3Al内層コイル。

(善良な変態男)