SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.3, June. 2006

5.固体窒素の冷却特性に秘策―新型ハイブリッド固体蓄冷媒を適用した低消費電力・高安定冷却法の発明_京都大学_


 京都大学大学院工学研究科電気工学専攻の中村武恒助教授、および同大学院生の東川甲平氏(日本学術振興会特別研究員)の研究グループは、新型ハイブリッド固体蓄冷媒を適用した伝導冷却高温超電導応用電力機器の低消費電力・高安定冷却法を発明し、京都大学から特許出願(5月31日)するとともに、6月1,2両日に東北大学金属材料研究所で開催された電気学会・超電導応用電力機器研究会でその内容を紹介した。固体窒素あるいは固体ネオンを超電導機器の蓄冷媒に利用する試みとしては,マサチューセッツ工科大学・Iwasa博士のグループによってNMR用マグネットを対象とした検討が行われている。しかしながら、一般に固体冷媒と冷却対象との熱伝達特性は悪く、最悪の場合は両者の熱接触が消失するドライアウト現象の危険性が存在するため、これまであまり使用されていなかった。中村助教授のグループは、固体窒素のドライアウト現象の把握とその補償法を検討してきており、固体窒素中に微量の液体ネオン(標準状態換算で固体窒素に対して重量比数%)を導入することでシステムの熱安定性が飛躍的に向上することを示していた。この時、固体窒素は蓄冷材として,また液体ネオンは冷却対象との熱交換材として機能することになる。ただし、上記混相状態は、ネオンが液体状態となる24.6 ~27.1 Kの温度範囲(飽和蒸気圧曲線上)に限定され、実用的ではなかった。

本発明では、固体窒素*液体ネオンの高熱伝達特性をフェールセーフとして利用しつつ、ネオンを積極的に固化させて冷却を行おうという発想に基づいている。即ち,例えば2段のギフォード・マクマフォン(GM)冷凍機で得られる20 K程度を初期定常運転温度とし、まず固体窒素*微量固体ネオンハイブリッド蓄冷媒を作成する。この時、上記温度領域における窒素の蒸気圧はネオンに比較して非常に低いことから、試料室内圧力はネオンの相状態を反映しており、つまりこの圧力を測定することによってネオンの液化を確認することができる。上記温度で定常状態に到達後、冷凍機の運転を停止し、ハイブリッド蓄冷媒の大きな比熱でのみ運転を行う。ハイブリッド蓄冷媒の温度が徐々に上昇し、ネオンの3重点(24.6 K)を超えたところで、冷凍機の運転を再開し、初期運転温度まで再冷却する。このサイクルを繰り返すことにより、大幅な冷却コストの低減が期待される。図1(a)、(b)には、初期定常運転温度20 Kの場合の運転サイクルの例を示す。さらには、もし超電導機器に大きな擾乱が発生して急激に温度が上昇した場合でも、固体窒素*液体ネオン状態に遷移し、その高熱伝達特性によって機器の熱安定性が暫時維持され、システムの安定性・安全性が大きく改善されると期待される。

中村助教授によると、「高温超電導応用電力機器の実用化を指向する場合、冷凍機伝導冷却方式がメインストリームになってくると予測される。その場合、「超電導機器《に常につきまとう「冷却《の課題を如何に軽減するかが極めて重要な課題の一つとなる。本発明によれば、安価に作ることのできる固体窒素中に微量のネオンを導入した高機能ハイブリッド蓄冷媒を冷凍機に付与するだけで、機器の低消費電力化・高安定化が達成可能になると期待される。Iwasa博士のグループも、固体ネオンを使用したスタンドアローン運転を提案しているが、非常に高価なネオンを多量に使用する必要があり、特殊応用を除いて実用的で無いと考えられる。また、我々の発明では、ネオンが液化しても窒素は固体構造を維持することから、高熱伝達特性とともに電磁力補償等の機械的補強効果も期待される。さらには、上記冷媒の窒素をアルゴンに、またネオンを窒素に置き換えた組み合わせとすることにより、より高温で運転する機器(高温超電導ケーブルや変圧器)に適用することも可能となる。今後は、上記ハイブリッド蓄冷媒の最適作製法や絶縁特性など、一つずつ課題をつぶしていきたい。《と話している。

                               


図1 固体窒素*微量固体ネオンハイブリッド蓄冷媒を利用した伝導冷却高温超電導機器運転法の一例。(a) 運転全体の流れ


(b) ハイブリッド蓄冷媒のみの運転サイクル

(京大TN)