SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.3, June. 2006

2.Y系線材開発急ピッチ*500 m線材長へ向けて_フジクラ_


 Y系線材は液体窒素温度以下のどの温度領域においても最も高特性が期待でき、また構造的に銀の使用量を減らせるためコスト競争力が期待できる等、超電導応用を考える上で非常に魅力的な存在であると認識され、近年各国で精力的な国家プロジェクト投資が行われてきた。現在その成果が現われつつあり、100 mを超える長さの線材が日米の研究機関で多数報告され、熾烈なデッドヒートが行われている。製法についてもなおいくつかの有力候補による競争が続いているが、全長でのIcと長さの積は現在のところIBAD法を用いて作製されたものが先行している。IBAD法は無配向の合金基板を使用するため線材の機械強度が強くハンドリングがし易いほか、金属基板の結晶粒界の影響を受けにくいこと等が期待され、単長の長い線材が先行して作製される傾向がある。一方、冶金学的な配向組織を利用するRABiTS法は真空プロセスを極力減らせることからコストダウンに有利と考えられ、米AMSC社を中心に量産技術の確立に向けて正念場の開発が進められている。

 これらの線材を使って各種の応用機器のプロトタイプの試作が日米で開始されている。米国では現在Albanyで建設中の電力ケーブルの一部にSuperPower社のIBAD法Y系線材が提供されており、日本では超電導工学研究所及びフジクラにおいて作製された線材を用いて図1に示すような舶用電動機を想定した回転機用のレーストラックコイルが製作された。本コイルは液体窒素温度において、10 mm幅で150 A程度のIcを有する線材を数十m用いて巻かれており、20~30 Kの温度において数百Aの通電が可能である。Y系線材は薄いテープ基板上に膜状に構成するという特異な形状であり、線材幅の最適化や巻線のノウハウ、安定化金属の複合方法、絶縁など、導体を構成する上で必要上可欠な技術がこうしたプロトタイプのテストと並行して開発されている。今後、Y系線材に期待される高温域での高特性、強い機械強度、交流搊の低減といった特徴の検証とともに、製法プロセスについても対象となる機器に応じた適性が明らかになってくるものと思われる。

 応用上必要とされる素線の単長は想定される機器により様々であるが、日本の超電導応用基盤技術開発プロジェクトでは、実用機器を設計し得る線材長として500 mを想定しており、現在フジクラにおいてIBAD法を用いた長尺化開発が行われている。IBAD法は従来生産速度がネックであることが知られているが、フジクラにおいては蛍石構造系の比較的作製し易く超電導膜との整合性が良い材料系の中間層を用いながら、設備の大型化を進める方向で長尺化が進められた。図2に、フジクラにおいて開発された大型IBAD装置の外観を示す。本設備はY系線材プロセス向けにイオンビーム平行性を高くするべく設計された110 cm×15 cmのビーム口径を有する大型イオンソースがアシストイオンソースとして搭載され、1 cm幅のテープを最大15レーンまで巻き回して大面積成膜を行う。図3に本設備を用いて作製された507 m長のGd2Zr2O7中間層を示す。膜厚は1.3 m、50 mおきに測定した面内配向性の半値幅(は18~19°でほぼ均一である。実効的な線速5.0 m/hであり、従来設備の5倊に相当し、10 mm幅の500 m長線材を100時間程度で作製することが出来る。同一条件で作製されたGd2Zr2O7中間層上に形成したCeO2キャップ層においては5~6°となり、5 m/hの速度で高配向中間層を作製できる見込みが得られた。IBAD法のスケールアップについては日米で異なるアプローチが行われており、米国では岩塩型酸化物であるMgOの30 nm程度の極薄膜を使って高速合成する方法を選択している。精緻な積層構造を必要とする等の課題はあるものの、SuperPower社では実効線速40 m/hで高配向膜が得られている。今後IBAD法のコストダウンのためには日本においても材料面の高速化技術開発が必要になると思われる。

500 m級のYBCO層については、フジクラにおいてPLD法、昭和電線においてMOD法の開発が並行して進められている。PLD法については設備の開発がほぼ終了し、MOD法については現在設備の設計が進められている。当面は双方とも上記IBAD中間層上に成膜することを想定している。PLD法についてはIBAD法と同様に量産性とコストダウンが課題とされているが、超電導工学研究所の最近の成果によれば、大面積を有効利用するマルチプルーム・マルチターン法に加え、YBCOに替えてGdBaCuOを採用することによって、液体窒素中で200 A以上のIcを持つ高特性線材の実効的な線速を10 m/h以上とすることが可能となりつつあり、フジクラにおいても同様のマルチターン方式を導入して500 m級線材の試作検討が開始されている。PLD法は気相法としては収率を高くし易い特徴があり、一層のコストダウンへ向けて数10 m/hの実効線速を目指した高収率な装置構成の検討も並行して進められている。                       

                               


図1 超電導工学研究所とフジクラで作製したIBAD法Y系線材を用いて開発した舶用電動機向けを想定したレーストラック界磁コイル。


図2 110 cm×15 cmのビーム口径を有する大型イオンソースを搭載したreel-to-reel IBAD連続成膜設備。


図3 大型IBAD装置によって作製された500 m級GZO中間層の外観及び長手方向面内配向性分布。

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