SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.3, June. 2006

1.LHD第9サイクル実験において入力エネルギー値の世界記録1.6 GJを達成_核融合科学研究所_


 核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)は、磁場閉じ込めのためのすべてのコイルを超伝導化したヘリカル型核融合プラズマ実験装置である。1998年3月31日のファーストプラズマ点火から8年間に9回の長期連続運転を実施し、超伝導システムの稼働率97%以上を達成して高い信頼性を実証すると共に、大学共同利用機関として安定した核融合プラズマ実験環境を研究者へ提供し続けている。プラズマ実験では、トカマク装置と肩を並べるプラズマ性能を達成するともに、ヘリカル装置の特徴である定常運転で優れた成果を上げている。2005年度に実施されたLHD第9サイクル実験では、プラズマに入力したエネルギー値が1.6 GJに達し、LHDが2004年度に達成した世界記録を更新した。

 第9サイクル実験成果のハイライトを以下に示す。 2005年2月16日に行われた高温プラズマを長時間加熱保持する実験において、放電中、プラズマに入力したエネルギー値が1.6 GJに達した。この値は、第8サイクル中の2004年12月9日にLHDが記録した世界最高値、1.3 GJを更新するものであり、他の閉じ込め方式を含めた世界最高記録である(図1参照)。実験は、プラズマをFM周波数帯域の高周波で加熱生成するイオンサイクロトロン加熱装置を主に用いて行われ、平均の加熱パワーは約490 kW、プラズマの保持時間を第8サイクルより20分以上伸ばすことに成功し、54分28秒を記録した。その時のプラズマの温度は約1200万度で、プラズマの密度は4兆個/ccであった。

ローカルアイランドダイバータ(LID)と呼ばれるプラズマの周辺部の粒子を効率良く排気する装置は、加熱パワーが周辺部で中性粒子の電離などに使われないことから、中心部に高温で高密度のプラズマを生成するものと期待されていた。第9サイクルの実験で、水素ペレットと呼ばれる水素の氷の粒を連続的に中心部に打ち込む粒子補給装置と組み合わせることにより、中心部に超高密度プラズマを生成することに成功した。LIDを稼動させて水素ペレットを入射させると、中心部から周辺部への移動を防止すると考えられる障壁が形成され、その結果、中心部に密度が500兆個/ccを超える超高密度プラズマが生成、保持されることが明らかになった。

プラズマの持つ圧力と、これを閉じ込めるために用いた磁場の圧力の比をベータ値といい、LHDでは高いベータ値を実現するための研究を進めている。将来の核融合炉では、経済的観点から5%程度以上のベータ値が求められている。第9サイクルでは、プラズマを加熱するための中性粒子入射装置の加熱パワーを15 MWまで増強したこと、高ベータ値を実現するための磁場最適化の成果により、4.5 %のベータ値を実現した。この時のプラズマの温度は中心で約460万度、密度は27兆個/cc、磁場の強さは0.425 Tであった。

第9サイクルの運転は、2005年8月4日の真空排気から始まり、8月31日からの約1ヶ月の超伝導コイルの冷却と励磁試験を経て、10月4日から翌2006年2月16日までプラズマ実験が実施された。第9サイクルにおける運転は順調に進み、2006年3月17日には室温までの加温が終了した(図2参照)。第9サイクルでの超伝導コイルを極低温に保った定常運転時間は3,470時間、 LHD低温システムの圧縮機起動から停止までは5,035時間の安定な連続運転を行った。1998年の実験開始から、 第9サイクル終了までのLHD低温システムの積算運転時間は41,788時間、超伝導状態を維持した定常運転の時間は28,501時間、コイル励磁回数は985回、プラズマショット数は66,053回に達しており、LHD超伝導システムの高い信頼性を実証している。

                               


図1 主要な核融合実験装置における入力エネルギー値とプラズマ生成保持時間。


図2 LHD第9サイクル運転経過

(TM)