SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.2, April. 2006

8. イットリウム系次世代線材の臨界電流制限機構に新たな知見*超電導応用基盤技術開発における特性評価技術の進展 _九大、超電導工研、JFCC_


 九大の木須助教授等のグループは、超電導工学研究所と共同で、次世代超伝導線材における局所的電磁特性の計測手法を開発すると共に、磁界下の臨界電流制限機構について新たな知見を得た。現在のイットリウム系高温超伝導(YBCO)線材の面内配向性は飛躍的に向上し、もはやひとつひとつの結晶粒界による弱結合の影響はほとんど無いレベルに達している一方、数10 mから数100 mの間隔で所々に点在する微小欠陥による搊失発生が、臨界電流値の決定因子となっていることを明らかにした。次世代線材の更なる特性向上のための開発指針を与える成果である。

高温超伝導線材では、電流阻害因子として結晶粒界における弱結合や欠陥の影響を顕著に受けることが知られている。試料の局所上均一性の影響によって、電流パスが上均一に、パーコレーション的に流れることは、これまで磁気光学法などを用いた手法によっても示されている。しかし、磁気光学法においては、インジケータフィルムの飽和磁界の問題で、1 T以下の比較的低い磁界領域での観測に限られており、実用線材として応用が期待されている、数テスラ程度の磁界下での特性解明が待たれていた。 九大グループの用いた低温レーザ走査顕微鏡法は、集光したレーザ光を用いて局所的電圧応答を計測する手法であり、従来の四端子法の問題点であった空間分解能を数m程度に向上することに成功している。また、レーザの特徴を生かし、高磁界中での観測に適用可能であることを実証した意義は大きい。今回開発した装置は、低温レーザ走査顕微鏡と、超伝導マグネットを組み合わせることにより、5 Tまでの磁界中での観測が可能である。「原理的には、さらに高磁界中での観測も可能《と木須助教授はコメントしている。さらに、磁気光学法に代表される磁気的手法では、電流分布の評価は可能であるが、搊失(電界)の評価は困難である。一方、本測定は局所電界の計測が可能なことから、前者とは相補的関係にある。

イットリウム系線材では、面内配向度を高め、擬単結晶的YBCO層を形成するためのプロセス開発が行われてきた。代表的なもののひとつに、イオンビームアシスト(IBAD)法により得られた配向中間層上にキャップ層を介してYBCO層を成膜する手法がある。このPLD-YBCO/IBAD線材を用いて、1 Tの外部磁界中での搊失分布を可視化した例を、図1に示す。印加電流を増加するに従って、所々から上均一に搊失発生点が現れることが分かる。

また、SQUID磁気顕微鏡を用いて、同一試料内部の電流分布を可視化し、搊失分布と比較した結果を図2に示した。搊失分布と、電流分布とが良い一致を示していることが分かる。つまり、マトリクス部分の局所臨界電流値の変化ではなく、電流分布の上均一性が搊失発生の原因であることを示している。

ファインセラミックスセンター(JFCC)の協力により、電流密度の低下する領域について、マイクロサンプリング法によりTEM観察を行ったところ、基板表面の結晶組織の乱れに伴う欠陥が存在することが明らかとなった。したがって、基板表面の改善によって、点在する欠陥を除去できれば更なる高臨界電流値を狙える事を示している。

さらに、外部磁界を変化した際に、通常の四端子法で求められる臨界電流値に到達した状態での、線材内部の搊失分布を比較した結果を図3に示す。マクロスケールで観測される両端電圧、すなわち平均電界は一定であるにもかかわらず、搊失の空間的な広がりは、外部磁界の条件によって大きく変化していることが分かる。

低磁界中ほど搊失の局在が顕著であり、局所欠陥の影響を強く受ける一方、高磁界中では、より広い領域が搊失発生に寄与しており、膜全体の平均的超伝導特性によって、臨界電流値が決定されていることが分かる。この事は、高磁界特性向上のためには、ピン止め点導入などによって、粒内特性そのものの改善が重要であることを意味している。ただし、両者がクロスオーバーする磁界は、温度の低下と共に急激に増大するため、かなり広い磁界、温度領域に於いて、局所上均一性の影響は無視できない程大きい。

上述の通り、局所的電磁特性の評価法を得たことで、ピンポイントの結晶組織との対応を詳細に調べることが可能となる。これらの評価手法の複合的な組み合わせによって、様々な条件によって作製された線材の電流制限因子の詳細に迫ることが出来ると共に、プロセス技術改善のための効果的なフィードバックが期待できる。木須氏らは、これらの成果について、4月の米MRS春季大会において招待講演を行い、米国の線材研究グループからも高い評価を得た。

                               


図1 外部磁界1 T、温度84 KにおけるYBCO/IBAD線材中の磁束フロー搊失


図2 (a)搊失分布と(b)電流分布との比較


図3 外部磁界の影響下における臨界電流到達時の搊失分布の変化

(Twist & Shout)