SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.2, April. 2006

7. 《コラム②》磁気分離応用*展開の仕方について 大阪大学:西嶋 茂宏


 21世紀の社会システムとして循環型で永続性のある社会システムを構築することは重要な課題であり、そのひとつとして水問題がある。21世紀の水処理に求められる条件には「環境への負荷の少ない技術であること《や「処理水が再利用の対象になり得ること《が挙げられているが、今まさに超伝導磁気分離技術がそのひとつのソルーションと成ろうとしている。大阪大学大学院工学研究科環境エネルギー工学専攻の西嶋茂宏教授らの研究グループが最近開発した超伝導磁気分離技術は、古紙再生過程で発生する浮遊物質(SS)、染料、凝集剤などCODを上昇させる原因となっている上純物を含んでいる廃水を高速・高効率に処理し、再使用可能な水として回収する廃水処理システムとして現在工場内で稼動し実用化の段階にまで到達した。その後、様々な分野からの要望と新たな水処理技術としての期待から、この技術が大きく発展しようといる。そこで、このような要望に応えるかたちで「磁気分離工業技術組合(仮称)《設立に向けての活動が始まっている。

元々、大阪大学大学院工学研究科環境エネルギー工学専攻の筆者らの研究グループでは磁気分離の基礎研究を1997年頃より行ってきたが、NEDOの支援による製紙廃水処理設備の実用化を契機に経済効果の大きいシステムとして環境展等での展示やMT-19での発表を通して日本国内だけでなく、アジアやヨーロッパ地域からも注目される技術として知られるようになってきた。そこで、「磁気分離工業技術組合(仮称)《を設立し、磁気分離技術に関する情報交換やシステム理論や技術情報を発信するだけに留まらず、さらにこれら活動をより発展させることを目的として、これまでに問い合わせのあった企業群とコラボレーション可能な共同技術開発機構を目指すこととなった。

具体的な活動としては、小規模なパイロットプラントを共有し、磁気分離の実用化の可能性を検討する。大学では机上のビーカーレベルの実験は可能であるが、その結果を基に実規模のプラントの成否を判断することは困難であることが背景にある。実際の磁気分離のプラントを製作するためにはパイロットプラントが必須である。この認識がパイロットプラントの共有の考えを支持した。また、磁気分離システムを製作するためには、超伝導機器メーカーのみならず、クライオスタットメーカー、システムメーカーが共同でシステム・アップしていく必要がある。各コンポーネントを販売する会社はあっても、磁気分離システムとして販売する会社は少なく、価格が高いものになっている。そこで、複数の会社で標準品を用意し、価格を低く抑えることができるかどうかの検討も目的の一つである。さらには、市場調査をも実施し一つの産業として充実させることが目的である。この他にも、技術検討会の開催、磁気分離データベースの構築、実施例の紹介等も視野に入っているそうである。

現在、組合の母体をどのような組織にするのかを検討している段階ではあるが、案としては、協会、組合、会社等が検討されている。今後の経緯が楽しみである。