SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.2, April. 2006

1. ITER計画の最新情報 _原子力研究開発機構_


 国際熱核融合実験炉ITER計画では、2005年6月にモスクワで開催された第2回6極(日本、中国、欧州、韓国、ロシア連邦、米国)閣僚級会合において、ITER本体施設のカダラシュへ(仏)への設置が正式に決定された。さらに11月にウィーンで開催された次官級会合では、ITER機構長予定者に池田要氏(当時のクロアチア大使)が、本年4月に東京で開催された同会合では、主席副機構長予定者にノルベルト・ホルトカンプ氏(欧州)が、それぞれ指吊された。これらの決定により、ITERはその実現に向けて、新たな、そして大きな一歩を踏み出した。以下にITER計画に関するこれら最近の動向について述べる。

   ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor、図1)とは、1985年11月の米ソ首脳会談が発端となり構想された国際共同プロジェクトで、環境への負荷が少なく人類の恒久的なエネルギー源の一つとして期待される核融合エネルギーの科学的、技術的な実現可能性の実証を目的として実験炉を建設・運用するものである。1988年から2001年にかけて、日本、欧州、米国、ロシア(当時はソ連)の4極で概念設計活動と工学設計活動を実施し、2003年には中国、韓国を新たに加え、6極体制が構築された。2005年には、建設サイトをカダラッシュ(仏)に決定するとともに、機構長予定者として池田要氏(図2)を選出した。さらにインドの参加を承認し、ここに7極体制が整い、ITER計画は国別人口の1位から3位の国(中国、インド、米国)を取り込んだ前例のない大型プロジェクトとなった。また、この4月にはノルベルト・ホルトカンプ氏が主席副機構長予定者に指吊され、今後設立されるITER機構の中核となるチームが発足したことになる。

ITER本体建設費は約5,000億、約10年間にわたる建設期の運営費は合計約700億円。運転期間は約20年を予定し、年間約300億円の運転、運営費が見込まれる。建設サイトについては、数年に渡り日本が推薦する六ヶ所村と欧州が推薦するカダラッシュとの間で激しい誘致合戦が展開されたことは記憶に新しいが、最終的にカダラッシュに決定された。このときの日・欧間の合意として、日本は「準ホスト極《として、次のように、ITER計画推進に重要な役割を果たすことになった[1]。

1) 日本が推薦するITER機構長を欧州が支持する、

2) 欧州から10%分の機器受注枠の譲渡をする、

3) 欧州から10%分の職員枠を譲渡する、

4) ITER機構の本部機能を日・欧で分担する、

更に、核融合エネルギー研究開発を加速するために、ITERと並行し補完する「幅広い核融合研究のアプローチ《を日・欧の共同出資(それぞれ460億円)で行うことも合意され、その際、日本が選択する関連施設を日本に建設し、他極にも門戸を開いて国際研究協力の拠点とすることになった。これらの具体的実現に関して、現在、日・欧の専門家を交えて詳細を詰めている。また、「幅広いアプローチ《の候補に関しては、有馬元文部大臣・科学技術庁長官を座長とする「ITER計画推進検討会《が開かれ、専門家の意見を聴取しつつ平成17年9月に報告書を作成した。その中で、日本の候補として、材料照射装置の工学設計・工学試験、サテライトトカマク(JT-60の超伝導化)、国際核融合エネルギーセンターなどが挙げられている。現在、ITERの協定書や関連規則などを作成中で、本年春の閣僚級会合において仮署吊を行い、各極の批准手続きに入る。2007年には「ITER国際核融合エネルギー機構《が設立され、正式に建設活動が開始されることになる。

昨年12月の政府間協議では、ITER本体の機器調達に関する各極の分担枠も決定された。超伝導コイル・システムは、トロイダル磁場(TF)コイル18個、中心ソレノイド(CS)1組、ポロイダル磁場(PF)コイル6個、補正コイル、フィーダー等で構成され、総重量は約10,000トンとなる。本システムを日本、EU、米国、ロシア、韓国、中国の6極で、以下のような分担で調達することになった。

Nb3Sn素線、CS及びTF導体: CS及びTFコイルで使用されるNb3Sn素線は、総重量が約540トンに及ぶ。TFコイル用Nb3Sn素線の製作と導体化(ケーブル・イン・コンジット導体)は6極で分担し、CS用Nb3Sn素線製作と導体化は日本が全量分担する。 NbTi素線及び導体: NbTi素線はPFコイルと補正コイルで使用され、全体で約250トン必要となり、中国、ロシア、EUが分担して製作する。

CS: CSの巻線製作は全量、米国が行う。

TFコイル: TFコイル巻線製作は、日本とEUがほぼ半分ずつ分担する。コイル容

器などの構造材は、ほとんどすべてを日本が分担する。 PFコイル: PFコイルについては、カダラッシュ・サイトの輸送上の制限から現地での製作となるため、EUがその大部分の調達を分担する。ただし、一番内側の小口径のPFコイル(上下で計2個)については、輸送が可能なため、ロシアが2個のうちの1個を調達する。

補正コイル等: 補正コイル及びフィーダー(クライオスタット内の超伝導フィーダーや電流リード)は中国が担当する。 このように、日本はNb3Sn導体及びTFコイルの相当部分を分担することになり、超伝導コイル調達への貢献度は7極中で一番となった。このような国際的な期待に応え、ITER計画を滞りなく進めるため、日本原子力研究開発機構(原子力機構)では調達に向けた技術準備活動を強力に推進している。本活動では、実規模での要素試作による製作プロセスや品質保証技術の確立、量産技術の実証などを産業界と協力して実施しており、これらを通じて設計の合理化や製作時のリスク低減などを図っている[2]。1989年の概念設計活動から17年以上の歳月をかけてようやくITERの建設が始まることになり、原子力機構ITER超伝導磁石開発グループの奥野リーダーは、「建設の正式開始までの残された期間を有効に活用して、可能な限り技術的な詰めを行うとともに、産業界を有機的に結びつける効率的な調達体制を整えたい。《と決意を述べた。 

                     

  [1] 文部科学省ホームページ、http://www.mext.go.jp/

  [2] 超電導コミュニケーションズ、Vol. 14 No. 3 June 2005

 

                               


図1 ITERの外観。核融合出力50万kWを予定


図2 池田要ITER機構長予定者 (ITER公式サイトより:http://www.iter.org)

(テンガム)