「お互いに全く違う知識を合わせての開発で、最初は困難を極めました。《とイムラ材研の伊藤佳孝主任研究員はコメントした。「最初はバルク装置の表面に出来る円錐形の磁場分布を利用した新規のイメージングを考えていましたが、磁場勾配が大きすぎたのと磁場強度が低かったためにNMR信号が検出できませんでした。《そこで考え方を改め、すでに実用化された仕様の明確な高分解能NMR用磁石としての開発に方向を変えた。高分解能NMRの仕様は磁場の安定性と磁場の均一性(0.5 ppm/mm)で、バルク磁石では求められたことのなかった高精度の磁場の均一性が求められる。分析用の高分解NMRは、例えば4.7 T(200 MHz)の装置でも試料空間が2.35 μT以内という微弱な磁場勾配にしなければならないため、普通は上可能と考えるだろう。ブレークスルーは均一性を出すためにバルク体の表面磁場を使うのでなく、バルク試料に穴をあけてその穴の中に均一な磁場空間を求めたことと(図1参照)、NMR用の超電導磁石を用いた静磁場着磁である。イムラ材研の吉川雅章研究員は「皆が普通はダメではないかと思うところを越えてみたかった。そのための後押しを理研がしてくれました。《とコメントした。理研には産業界連携制度という制度があり、理研の技術シーズについて、産業界と協力することにより研究成果の技術移転が促進されると判断される課題提案について、理研の研究開発分担に要する研究開発費を支給してくれる。理研側でNMRを担当した仲村高志先任技師は「この制度なしでは、バルク磁石の開発は出来なかったでしょう。おかげで安定性については、すでに仕様を満足しており、磁場均一性はあと一桁で実用化の域に入ります。NMRはいまだに新しい技術革新のある非常に面白い分析手法です。ただ、磁石についての自由度は完成された低温超電導磁石があるゆえに大きくなかった。また、液体ヘリウムや液体窒素といった冷媒が必要です。冷凍機で超電導状態を保持する我々のバルク装置は、コンパクトで卓上にも乗るほどで、いままでにない設計の自由度があります(図2)。完成すれば今までになかった用途の拡大があると思われます。また、設置場所を選ばないので品質管理やメタボノミクスを用いた診断にも使っていただきたい。また、単独のバルクでは17 T(直径26 mm)という強磁場の記録(超電導工学研究所、鉄道総合技術研究所)もあり、高磁場も充分望めます。高温超電導体の新しい応用形態であるバルクの産業化の推進役に成れればと思います。《とコメントしている。
超電導とNMRは古くからの良き関係だがバルクという新しい形態を得て、ますます発展してゆくのではないだろうか。
図2 大きさの比較(左:従来の超電導磁石右:バルク高温超電導磁石)
(藁蕊)