SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.1, Feburary. 2006

5. 食品内金属異物検査装置の製品化 _豊橋技科大、アドバンスフードテック、住友電工ハイテックス_


  豊橋技術科学大学はアドバンスフードテック、住友電工ハイテックスと共同で、高温超伝導SQUIDを用いた本格的な食品内金属異物検査装置“マイクロディテクター”(図1)を開発した。これは、平成14*16年度文科省 都市エリア産学官連携促進事業(豊橋エリア)の助成を受けて推進されたもので、平成17年度からは発展型事業として、さらに優れた検査装置開発を目指して継続されている。ドイツ、オーストラリアなど世界規模で同様の研究開発が進められているが、その中でも実用機の開発は世界初である。

食品工場では細心の注意を払って食品を製造しているが、希に食品に異物が混入することは避けられない。大手食品メーカーにおいて、事故が発生した場合、その搊失は、製品回収費用や逸失利益(事故がなかった場合に得られたと予想される利益)を含めると、数十億から数百億円になることが知られており、事故防止は企業にとって大きな関心事となっていた。開発者の一人、住友電工ハイテックスの参事 永石竜起 博士は「現行の検出法には渦流方式、X線方式などがあるが、これらの方式では感度が上十分なため、加工工程で用いられているストレーナ(フィルタ)のステンレスメッシュ素線(0.3~0.5 mmφ)など、小さな異物を検出することが難しいとされていた。超高感度のSQUIDセンサを用いる方式はこれを可能とするもので、当社が長年取り組んできた高温超伝導SQUIDの応用には最適《という。この方式では被検査物を磁石で磁化し、その残留磁化を高感度磁気センサで計測するという非常にシンプルな方法であるが、水分や温度の影響を受けず、アルミ包装の影響もないという特徴がある。また、放射線(X線)によるイオン化の問題が全くないため、特に天然・自然志向の食品メーカーから注目されている。アドバンスフードテックの鈴木周一社長は「自然派志向で安全な食品の提供をモットーとするよつ葉乳業株式会社殿に同型機の大型タイプ1号機を購入いただきました。食の安全意識の高まりと共に、消費者は安全性をよりどころに商品を購入する傾向にあるため、今後、益々需要が生まれてくると考えている。《という。

今回の実用機開発における技術課題について豊橋技科大の田中三郎教授に聞いてみた。「最も重要なポイントはシールド性能の改善であった。これが上十分であると、環境からの磁気ノイズや携帯電話などの電磁波の影響を受けやすく、誤動作の原因となる。試作の段階では磁気シールドは3層構造で形状は逆T型であったが、いろいろとシミュレーションを繰り返すうちに、シールド形状は突起部分があるよりも、むしろできるだけ球体に近いほうが、性能が高くなることがわかってきた。《という。最終的には試作段階で必要とされていた3層のシールド層数が、実は2層で十分であることがわかり、さらにシールドの長さも短くでき、設置スペースやコストの低減に結びついた。「これまで、シミュレーションといえば、実験の後付と思っていたが、今回ばかりはシミュレーションのありがたさを実感した。《という(同、田中氏)。実用機の開発前に実は2回、試作機が作られており、「200社以上のユーザからサンプルをもらい、問題点を抽出し解決した。様々なサンプルの評価は現在も続けて、装置の改良を行っており、ユーザの意見は貴重な情報。《という(同、鈴木氏)。今回開発したものはベルトコンベアを用いる方式であるが、果肉ジュースやミンチ肉など、粘度が高くストレーナによるフィルタリングが困難な食品に対応できる製品開発の要望が多くあることが、ユーザ情報からわかり、現在、その開発に取り組んでいるという。

仕様は以下の通り:

・ 実測磁気減衰率:0.14% (1/732) (DC、鉛直方向)

・ 装置サイズ:1500 mmL×477 mmW×1445 mmH

・ 実効開口部寸法:200 mmW×80 mmH

・ コンベア速度:1~25 m/分

・ 外装:オールステンレス (HACCP対応)

・ 窒素自動供給装置付き

・ センサ数:3 高温超伝導SQUID

・ センサ駆動回路:変調型FLL方式

・ 検出性能(参考値) 30~50 mm離れた0.3 mmφのステンレスあるいは鋼球を検出

                               


図1 装置概観図

  (馬到成功)