SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.1, Feburary. 2006

4. 誘導か同期か?―高温超電導かご型誘導モータの特異な回転特性_京都大学_


  京都大学大学院工学研究科電気工学専攻の中村武恒助教授、および大学院生の三宅央倫氏・小蒲義夫氏の研究グループは、ビスマス系高温超電導テープ材を適用したかご型誘導モータを試作・試験し、従来型(常電導)誘導モータでは得られない特異な回転特性を観測することに成功した。同モータについては、唯一韓国・Soonchunhyang大学のグループが基礎研究を行っており、同期回転特性を報告しているが、理論解析や詳細な特性評価・検討は行われていなかった。京都大学のグループは、これまで非線形等価回路解析に基づく理論的検討を行っており、超電導誘導モータの詳細かつ定量的な特性予測を行っていた。今回、図1のようにBi-2223/Agテープ材を適用したかご型回転子と市販の常電導固定子(3相、4極)を改良してモータを試作し、液化窒素浸漬冷却下で各種試験を行った(図2に試験システム概略図を示す)。その結果、一例として図3のような従来型モータでは有り得ない興味深い特性を得た。同図は、入力電圧を準静的に上昇後、再度下げた場合の無負荷回転数を異なる温度に対して測定したものである。尚、運転温度65 Kはクライオスタット中の液化窒素を真空ポンプで減圧して得ている。

同図中77.3 Kの結果を見ると、試作したモータは入力電圧がある閾値(28.3 V)に達したところで始動し、49.0 Vで見事に同期回転数(1800 rpm)に引き入れられている。上記閾値電圧は、かご型巻線ループの超電導状態を破って磁束フロー状態に移行させる電圧値に対応しており、理論予測とほぼ一致することを確認している。一方、入力電圧を下げた場合には、35.8 Vに到達するまで同期回転数を維持し、その後同期外れを起こしてすべりモードに移行している。つまり、無負荷特性は履歴を示しており、同期回転中の超電導かご型巻線ループに磁束が捕捉されている証拠と考えられる。さらに、運転温度を65 Kへ下げることによって磁束ピン止め特性が向上し、同期引き入れ電圧が66. 2 Vに上昇していることも明らかになった。このことは、かご型巻線に使用している超電導線材の特性がモータの機器特性と直接結びついた知見であり、大変興味深い。同グループは、現在実負荷試験に向けた検討を行っているところである。

中村助教授によると、「かご型誘導モータは、構造が簡単で堅固・安価などの理由によって従来から多くの分野で使用されており、モータの代吊詞的存在である。本成果は、かご型誘導モータの上記メリットを生かしつつ、2次側かご型巻線を超電導化するとともに若干の工夫を施すことで大きな高性能化・高機能化が期待されることを示している。特に、誘導電動機でありながら同期運転可能であることは大変興味深く、駆動原理に基づく従来型モータの分類に一石を投じる可能性を秘めている。今後、モータ構造や使用する線材の仕様を最適化することにより、例えば極低温環境下における応用展開が期待される。《と話している。         

                               


図1 試作した高温超電導かご型回転子


図2 試験システム概略図


図3 無負荷回転特性の測定結果

  (京大TN)