SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.1, Feburary. 2006

3. 高性能ビスマス2223系高温超電導線材を開発 *192 AのIcを達成、実用線材として200 Aの時代に入る _住友電気工業_


 電気科学技術奨励会は、本年度電気科学技術奨励賞(以下オーム技術賞)に住友電工の「加圧焼成法によるビスマス系高温超電導線の開発《を選定し、11月16日に学士会館(東京都千代田区)において挙行された贈呈式で同賞を贈呈した。オーム技術賞は、昭和27年よりわが国の電気科学技術に貢献した功労者を顕彰しており、今回が53回目。住友電工は、本年度同賞を受賞した29件中の第2位に相当する電気科学技術奨励賞審査委員会特別賞も合わせて受賞した。高性能な線材の工業生産を可能にしたことにより、電気科学技術分野での大きな波及効果が評価された。

   臨界電流値は、超電導状態で流すことができる最大の電流値であり、超電導線の最重要性能である。今回、実験室レベルではなく、工業生産プロセスにより達成した臨界電流値192 Aは、ビスマス2223系高温超電導線の標準サイズである幅約4 mmで、液体窒素、自己磁場中において達成した値であり、次世代線材と呼ばれるイットリウム系やホルミウム系の薄膜線材の評価に用いられる臨界電流値の定義では、約500 A/cm幅に相当する。

今回達成した臨界電流192 Aは、ビスマス2223系高温超電導線の大きな応用製品分野であるマグネット用途の、主たる運転条件である20 K、数Tの磁場中で、Je = 40,000 A/cm2をクリアしており、4.2 K運転のNbTiマグネットよりも高いコイル運転電流密度を実現できる。これにより、磁気共鳴診断装置(MRI)や、たんぱく質の解析などに用いられる核磁気共鳴分析装置(NMR)、リニアモーターカーなど様々な分野において、マグネット用途での超電導線市場の拡大が期待できる。

 また、臨界電流値の大幅向上と、後述する加圧焼成法の採用による高い生産歩留りの効果と合わせて、メリット係数(線材1 mにおける、電流あたりの線材価格 (価格/電流・m))が大幅に低減されることになる。これによって、応用製品に必要な超電導線のトータルコストを削減できるため、超電導マグネットは勿論、超電導ケーブル、液体窒素運転モータ等の製品価格競争力が向上。マグネット用途以外での応用製品の拡大も期待される。

住友電工のビスマス2223系高温超電導線は、大きく粉末工程、加工工程、熱処理工程の大きく分けて3工程により製造されるが、製造工程の全てにわたって均一化、無欠陥化などの改善を進めた結果、今回の大幅な性能向上を達成した。特に、熱処理工程では住友電工が独自に開発した加圧焼成(CT-OPTM、Controlled Over Pressure Sintering)法により、従来のビスマス系超電導線では上可能であった超電導材料の密度100%化を実現し、高臨界電流、高強度、長尺化、高耐久性等の世界最高の実用性能を達成している。

同社では、ビスマス系超電導線の今後約10年間の開発ロードマップを公開しており(図1。詳細はhttp://www.sei.co.jp/super/hts/road.htmlを参照)、今回の成果はその第1マイルストーンを実現したことになる。 今回の開発に携わった同社電力・エネルギー研究所超電導開発室の綾井直樹主席は、「ビスマス2223系高温超電導線の製造プロセスは、基本的にはPowder-in-Tube法であるが、焼成工程に加圧焼成を導入して以来、短期間に着実に特性が向上してきた。今回の200 A級の臨界電流の実現は、焼成工程だけでなく、粉末工程、加工工程を含めてプロセスを総合的に見直して実現した。我々のロードマップの次のマイルストーンは臨界電流300 Aであるが、この値も夢物語ではなく現実味を帯びた値となってきた。まずは200 A級線材の長尺、工業生産体制を整備しながら、更なる性能向上に取り組んでいきたい。多くのユーザの方々に我々の線材を試していただき、応用開発が更に広がっていくことを期待している。《と、本格的実用化に向けての抱負を述べている。

                               


図1 住友電工のDI-BSCCOの開発ロードマップ

 (ビス子)