SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.1, Feburary. 2006

11. 新規磁場応用に関する第1回調査研究会報告


   低温工学協会「新規磁場応用に関する調査研究会《2005年度第1回研究会が東京大学で開催され、富士ゼロックスの中山信行博士が「電子写真画像形成プロセスにおける電磁粒子のダイナミクス《という題目で講演した。中山氏は磁性粒子のチェーン構造の形成過程の解析などに関する研究をされており、今回の講演では電子写真プロセスや電磁粒子の挙動についての基礎的な説明から、電子写真画像形成プロセスの本質である、磁界中の磁性粒子チェーン特性、電界中のトナー運動などに関するシミュレーションや実験など最近の研究成果を紹介して頂いた。以下ではその概要を紹介する。

電子写真は電磁気力を応用した画像形成技術であり、そのプロセスは帯電・露光・現像・転写の4つに大きく 分けられる。現像プロセスにはインクの役割を担うトナーのみを使用する1成分方式と、トナーとキャリアを使用する2成分方式の2つがある。2成分方式では磁性導電性を持つキャリアが、非磁性絶縁性であるトナーをキャリア自身に付着させることによってトナーを運ぶ。そして、キャリアは磁場に起因するキャリア間の相互作用により、筆の役割を果たす磁気ブラシを形成し、摩擦で帯電したトナーに働く静電気力を利用して、感光体に帯 電、露光させて形成した静電潜像にトナーを付着させる。キャリアやトナーのダイナミクスを明らかにし、粒子の挙動を制御することは、中抜け現象の改善など画質向上には重要なことであるが、粒子

の挙動を直接観測することは困難であるため、シミュレーションを用いた解析が行われている。

図1は磁性粒子チェーンの形成過程における二次元シミュレーションの結果として紹介されたものである。シミュレーションには運動方程式を粒子個々について解く個別要素法が用いられており、この結果は実験で実際に見られる磁性粒子チェーンの形成過程とよく一致しているという。また、シミュレーションではチェーンの形成過程が進むにつれて、系のポテンシャルエネルギーが小さくなるという結果も紹介された。このことから、系の 全ポテンシャルエネルギーが最小になるようにチェーンは形成されているということである。更に、チェーンの長さには各コイル電流値に対して最安定長さが存在し、その長さは粒子数と磁場が大きくなるほど長くなるという計算結果(図2)も紹介された。チェーンの形状に関して実験と数値計算の結果を比較してみると、実験では数値計算の結果よりもチェーンは長くなり、傾斜角は大きい結果になるという。中山氏によると、これらの結果の違いは、数値計算において粒子の回転により生じる粒子間での摩擦を無視したことが原因であるということである。また、中山氏は現在、三次元でのシミュレーションの研究もしており、その途中段階の結果も紹介して頂いた。次元を拡張することにより、より精度の高い計算結果が期待できるということである。また、レーザープリンターで用いられているマグネットローラの磁場の大きさは通常0.1 T程度であるが、実験により更に強い磁場とチェーンの長さの関係を調べた結果(図3)を講演の最後に紹介して頂いた。チェーンの長さは0.1 T程度で最大値となり、それ以降は磁場が大きくなるにつれて短くなるという。

また、実験で用いた粉体は表面積が大きいことから粒子間の摩擦による影響が大きいと考えられ、その影響を小さくするために油中で行った実験結果も見させて頂いたが、やはり0.1 T付近でチェーンの長さが最大になるというものであった。磁場を大きくしていくと、ある段階から一転してチェーンの長さが短くなるという結果は非常に興味深いものであり、出席者からは驚きの声が上がった。今回の講演は、既に実用化され広く普及しているプロセスにさえも、未だ物理的に解明されていないことが存在することを印象付けるものであった。これは翻せば、磁場の用途拡大の余地を示唆するものであると言え、今後の磁気科学の発展が期待される。

                               


図1 シュミレーッションと実験の対比


図2 チェーン長さ計算結果


図3 チェーン長さ (空気中)


図4 チェーンの長さ

  (東京大学:島田 保)