SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.1, Feburary. 2006

10. HyperTech社が複数本の1 km長MgB2線材を製造!


  HyperTech リサーチ社は、オハイオ州立大とウーロンゴン大(オーストラリア)の協力のもと、単長1 km以上、複数本の0.8 mm多芯MgB2線を開発した。連続チューブ形成及び充填(CTFF)プロセスを援用して、HyperTech社は2005年の第4四半期に9本の1 km長19芯丸線を製造した。同社は、現在諸プロジェクト向けの機器開発者に所定量の1 km長線材を供給している。

 HyperTech社はまた、740 m長の多芯MgB2線を用いてマグネットを製作した。当コイルが発生した磁界は、種々の温度で測定され、4, 15, 20, 25, 30 Kでそれぞれ3.9, 3.0, 2.4, 1.8, 0.9 Tの磁界値が得られた。

 HyperTech社社長のM. Tomsic氏は、「これらの成果に基づいて、大量の線材を製造するべく製造設備のスケールアップ進めており、2006年度中に5 kmの線材を製造できると期待している《とコメントした。MRIマグネット応用に自社線材の需要があるとTomsic氏は考えており、「近い将来の応用は特別なマグネット即ち15~25 Kの領域で動作する開放型MRIないしは小型密閉型MRI装置である。典型的には4 Kシステムが要求されるが、それに較べてこのより高い動作温度により、安いクライオスタットと安い動作コストが可能となる《と語った.

 HyperTech社は、2006年の実証プロジェクト向けに数社のMRI製作者にMgB2線を供給していると報道されている。しかしながら、商業的MRI機器の製作には、マグネットが永久電流モードで即ち電流の搊失無しに運転出来る様にする為には、永久電流接続の開発が必要となろう。これは、使用者が要求する超安定な磁界を維持する為に本質的に重要である。

Tomsic氏によれば、多数のグループがMgB2線のために永久電流接続技術を開発中である。しかしながら、ある専門家によればBi系線材と同じくMgB2線のための永久電流接続技術の開発は遅れており、研究資金の大半は永久電流接続が要らない電力応用に向けられている。

若し、MgB2がMRI製作者にアピールするのであれば、単に永久電流接続並びに長尺線が大量に開発されるだけでなく、この線材は安価なNb-Ti線と同等の価格である必要がある。Tomsic氏は、HyperTech社が比較的安価なMgB2線をマグネット開発者に次の2~3年以内に供給出来るようになると信じている。そしてTomsic氏は、「2007年に始まる我々の商業的価格目標は、約4ドル/mであり、2008年及び2009年には夫々2ドル/m及び1ドル/mに低減する。この価格は、低磁界(0.1~0.2 T at 20 K)で約500 Aあるいは1~2 T at 20 Kで約200 Aを輸送する0.8 mmの典型的な丸線に基づいている。 Tomsic氏によれば、これらの特性は20 Kで稼動するトランスのような低磁界応用向けの線材として、約2ドル/kA-mの価格に対応する。同様に、MRI、限流器、Maglev等のような1~2 Tマグネット応用向けの線材としては5ドル/kA-m以下の価格に相当する。「これらの数値は保守的と思う、何故ならこの数値は現在長尺線で達成中の線材性能に基づいているからである。MgB2薄膜のJcが長尺線のそれより1桁高いと云う事実に基いて、多数の研究者はMgB2線材の性能を今日の状態から劇的に改善出来ると予言している。如何なる特性の改善も皆MgB2線材の経済性を高めることになろう《とTomsic氏はコメントしている。 Tomsic氏は、MgB2線材は最終的にはNb3Sn及びNb-Ti線材と競合できると考えている。MgB2の密度は、Nb-Tiの3分の1であり、同じ重さの原料から3倊の長さの線材が得られる。低コストと高性能のこの組み合せは、MgB2線材が4~30 Kの温度領域に於けるマグネット応用に向けて真の勝利者になりうる事を示唆している。また、MgB2の上部臨界磁界(Bc2)が4 Kに於けるNb3SnのBc2より高いと報道されているので、MgB2は最終的に4 K、高磁場応用に於いてNb3Snと競合しうる長期の潜在的可能性を持っている。 HyperTech Research社:当社はオハイオ州、コロンバス市に在住するMgB2及びNb3Sn線材の開発者である。MRIマグネット向けMgB2線材の研究に加えて、同社はAirforce, Navy, NASA, DOE, NIHを含む政府機関向けのSBIR(戦略的事業革新研究)プロジェクトを推進してきており、今尚続行している。これらのSBIRsにはトランスフォーマ−コイル、MHDマグネット、ジャイロトロン、モーターローター&ステータ−、断熱的減磁式冷凍機(ADR)用マグネット等が含まれる。                        

                               

  (高麗山)