SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.15, No.1, Feburary. 2006

1. 磁気浮上用Bi系高温超電導磁石を開発―山梨実験線で車両に搭載、553.9 km/h走行に成功 _東海旅客鉄道_


 JR東海は、超電導磁気浮上式鉄道のリニアモータ推進・案内・浮上に兼用する高温超電導磁石をBi2223系銀シース線を用いて開発した。この高温超電導磁石は、超電導磁気浮上式鉄道山梨実験線の3両編成列車の先頭車両に搭載され(図1)、2005年11月22日~12月9日に実施した走行試験において安定した励磁性能を発揮し、高温超電導磁石を搭載した車両の最高速度553.9 km/hを達成した。

   超電導磁気浮上式鉄道のコストダウンおよび信頼性のさらなる向上のため、JR東海では1999年頃からBi2223系銀シース線を用いた磁気浮上用高温超電導磁石の開発を進めている。開発当初からの基本コンセプトとして、現用のNbTi超電導磁石と外形寸法、起磁力、極配置、耐振性、冷凍機消費電力などを同一とし、高温超電導のメリットとして冷却温度を20 Kレベルに設定し伝導冷却による磁石構造の簡素化を図ってきた。そして2004年3月には永久電流モードにおける電流減衰が0.44%/dayとBi2223系銀シース線を用いたものとしては世界最高性能のコイルの開発・製作に成功した。これは、現在の山梨実験線で運用されているNbTi線を用いた低温超電導コイルと、大きさ、起磁力、耐振性などを同様にしたものであり、コイルのレベルで磁気浮上用としての実現性が見出だされたものであった。この次の開発のステップとして、2005年3月に、山梨実験線の低温超電導磁石と置き換えが可能な、4個のコイルを内蔵し2台の冷凍機で伝導冷却する構成の磁気浮上用Bi系高温超電導磁石を開発した(図2)。

 開発した高温超電導磁石のコイルは、Bi2223系銀シース線4本と絶縁テープを束ねたものをレーストラック形状にパンケーキ巻きし、それを12枚積層してステンレス製のコイルケースに組み込んだものである。設計・製作に際しては、製作の各段階および完成後の使用条件において超電導線に加わる歪を想定し、Icに悪影響を及ぼさない大きさとなるような構造設計と製作方法上の工夫をこらしている。この高温超電導磁石の4個のコイルにはそれぞれYBCO薄膜を用いた高温超電導熱式永久電流スイッチを取り付けている。電流リードとしては低温側にYBCOバルク高温超電導電流リード、高温側に超音波モータ駆動の着脱式電流リードを設置し侵入熱の軽減を図っている。冷凍機は2段GM型パルス管冷凍機であり、コイルを20 Kレベル以下に冷却する。図3には、励磁電流536 A(起磁力750 kA、超電導磁石の蓄積エネルギー1.44 MJ)で8時間の永久電流モードにおける磁場減衰特性、温度、電源出力が示されている。4個のコイルの磁場減衰率すなわち電流減衰率は、いずれも0.4~0.7 %/dayの範囲内となっている。

磁気浮上用Bi系高温超電導磁石の山梨実験線での車両への搭載箇所は3両編成列車の先頭台車とされ、その左右両側面に取り付けられていた2台の低温超電導磁石の片方と今回開発した高温超電導磁石が置き換えられた。その際に、高温超電導磁石用として新たに追加となった高温超電導熱式永久電流スイッチや着脱式電流リードなどの制御システムについては、停電などの各種異常発生も考慮して構成された。その制御システム用の装置類の取り付け、高温超電導磁石との組み合わせ総合調整を行った後、高温超電導磁石を搭載した車両の走行試験が実施された。そして、11月22日の走行試験開始初日に走行速度501 km/hを達成、8日目には高温超電導磁石搭載車両の最高速度553.9 km/hを記録した。コイルの温度は、励消磁の電流掃引中に数Kの上昇がみられたが、走行時の電磁加振力が加わる際の内部発熱は小さく、冷凍機により温度20 K以下のレベルに十分冷却できていた。その結果、今回の走行試験終了日12月9日までに、超電導磁石の安定な励磁状態を確保し、延べ4111 kmを走破するという走行試験となった。 走行試験の結果について、JR東海リニア開発本部の中川本部長は 「今回の走行試験では延べ4000 km余りを走行し、時速約553 km/hという最高速度をマークしましたが、高温超電導磁石の振動特性や温度特性などに特段の問題はありませんでした。高温超電導現象は1986年に発見されて以来、この画期的な技術の早期の実用化が期待されていますが、今回初めて目に見える形で実証できたということで、内外から高い評価を得ており、非常に大きな意義があったと考えています。今回の試験に使用した高温超電導磁石は、定置試験によってさらに詳細な特性データを取得し、今後の改良に反映させていく計画です《 と話している。

                               


図1 山梨実験線の車両に搭載した高温超電導磁石


図2 高温超電導磁石の構成


図3 励磁時の磁界、コイル部温度、および励磁電源出力

(すぐそこに磁気浮上)