Nb3Snの高磁界特性の改善のために近年ブロンズの高Sn濃度化の研究が活発に行われている。長谷(JASTEC)らは16 wt%SnブロンズNb3Sn線材についてフィラメント径の適正化と二段階熱処理を行った。これによりnon-Cu Jcだけでなくn値も向上することに成功し、従来材料である15 wt%Snブロンズより実質的に1Tの高磁場側にnon-Cu Jcをシフトできると報告した。未反応Nb芯を残る程度にフィラメント径を大きくした方が結局はn値が大きくなる。一方、岩城(日立電線)らは17 wt%Snまでの高Sn濃度化に挑戦した。Cu-Sn系金属間化合物が析出しブロンズの加工性を阻害してしまう課題を静水圧押出しの適用により解決した。ただし、期待されていたnon-Cu Jcの改善は約1割であり、今後の最適化が望まれる。そのほか、Ta繊維強化型Nb3Sn(上智大)、Snの拡散シミュレーションを行った内部拡散法Nb3Sn(KEK)、Sn-Ta系Nb3Sn(東海大)、放射状フィラメント配置した内部拡散法Nb3Sn(三菱電機)の発表があった。
Nb3Alについては、岡本(上智大・KEK)が次世代加速器用Nb3Al超伝導線材に求められている高Jc化と銅安定化材複合化の試みについて発表した。Non-Cu Jc (4.2 K)の最大値は10 Tで2156 A/mm2, 15 Tで1021A/mm2である。Ni下地メッキした後にCuの厚メッキをいずれも電解メッキで行う。この報告も含めて、急冷でいったん生成させたNb-Al過飽和固溶体を塑性変形させる手法により、その後のA15相への変態が促進しJcが改善する報告が3件あった。飯嶋(NIMS)らは、急冷熱処理後に与える断面減少の影響を詳細に調べ、急冷時に最適なプラトー領域からはずれてA15相や部分溶融が生成してしまうと、その後の断面減少時にソーセージングが起こり、Jcが本来の最適な値に達する前に低下を始めてしまうと述べた。伴野(NIMS)は、過飽和固溶体からA15相への変態挙動をDTAと高温X線回折により調べ、塑性変形量を大きくすると変態温度が低下すること、従来よりも若干低い750°Cで変態を完了させた後800°Cで規則化のための熱処理を行うと1割程度Jcが改善すると報告した。菊池(NIMS)は、イオンプレーティングで複合したCu薄膜の上に電解メッキにより厚メッキする方法で、Nb丸線表面との界面抵抗を低減したCu複合技術について報告した。イオンプレーティングの前に陽極酸化して断面減少を行っている。伸線後に再度酸洗いしており、RRRは200程度まで改善する。
今後、1000 mを越える長尺化を実施予定である。竹内(NIMS)らは、NMR用途に開発を進めているCuクラッド安定化平角線の長尺化とコイル試験について報告した。従来よりも薄く絶縁被覆した437 m長さの線材で巻いたコイルは脱バインダ処理されており、15 Tバイアス磁場中で2 Tの追加磁場を発生させた。今後5 Tの追加磁場発生を計画している。超伝導接続技術は線材の種類に依らずあまり学会で公表されることはない。今回、福崎(理研)らはNb3AlとNb-Tiの超伝導接続技術に関する新提案を報告した。Nb3AlとNb-Tiの間にNb3Snを生成させることが特徴で、半田の成分を段階毎に変えることを特徴とするNb-TiとNb3Snの接続技術(米国特許や数少ない論文で公表)を利用する。接続部がゼロ磁場の場合でも100 A以上の電流を流すことはまだ実現していないようだが、今後の展開を楽しみにしたい。安藤(原子力機構)は拡散法Nb3Al CIC導体Jcの歪み依存性について報告した。
(物質・材料研究機構:竹内 孝夫)