SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.6, December. 2005

7. 国際超電導シンポジウム(ISS2005)会議開催される ―つくば国際会議場にて


 第18回国際超電導シンポジウムISS2005(国際超電導産業技術研究センターISTEC主催)は、つくば国際会議場(エポカルつくば)にて10月24日から10月26日まで16ヶ国、595人が参加して開催された。米国、欧州そして中国、韓国などアジア太平洋地域からの参加者が多く、発表件数は口頭132件ポスター361件合計493件とほぼ昨年と同様になった。高温超伝導が発見されてから18年が経過しているが、近年応用研究の発表が増えており18年に亘る高温超伝導研究開発の成果を実感させる有意義な会議であった。

 初日の会議は、ISTEC/SRL田中昭二所長の開会挨拶に続いて、2件の特別基調講演と6件の基調講演が行われた。特別基調講演では、正田英介教授(東京理科大)が「持続可能なエネルギーの将来と超電導応用《と題して講演した。2100年時点に於ける持続可能な社会のエネルギー、環境及び経済に関するモデルを仮定し、そこから逆行的に現在に至るエネルギーと必要な技術状態を想定して、技術開発のロードマップを作成した。そこでの重要問題は、1)原子力問題 2)再生可能エネルギー源3)エネルギーの更なる効率的使用であり、3番目の問題の解決には超電導応用が本質的に重要である。具体的に云えば、現在開発中の500 m長HTSケーブル、66 kV-500 A限流器、昨年末581 km/hrを達成したMaglev等が2015~2020頃実用化が期待され、10 MVAレベルを実証したSMES,船舶用超電導モータも実用化に向けて開発が加速されようと述べた。次いで、G. J. Yurek氏(ASC社)は、「高温超伝導体の電力応用《について講演した。第一世代Bi系線材は世界20ヶ国で製造され、1000 m級の長尺線が供給されている。最近の応用状況については、8つの送・配電Bi系ケーブルの実証プロジェクトが進行中である。例えばLIPAプロでは138 kV×2.4 kA、600 m×3の仕様が設定されている。8 MVAシンクロナスコンデンサーが1年近く米国の送電系統中で運転を続けており、最初の商用機の出荷が2006年夏に期待され、船舶推進モータへの最初の注文は次年度中に予想される。第二世代Y系線材CoatedConductor(CC)については、諸大学、国立研究所の支援下でIBAD法、RABiTS法を中心に各種手法の開発が精力的に行われ、高特性を達成している。SuperPower社はMOCVD法で206 m長の線材を製造して22 kA-mを達成し、ASC社も85 m長で14.1 k A-mを達成したと述べた。

基調講演では最初に、室町主席研究官(物質材料研究機構)が新超伝導体と関連材料に関して、最新の研究開発を総括的に報告した。取り上げられた材料には、高温銅酸化物、パイロクロア酸化物、NaCo酸化物水酸化物、heavy-dopedダイアモンド等が含まれており、高圧合成、ソフト化学プロセスを適用して作製したものである。D. A. Cardwell教授(ケンブリッジ大)は、単結晶粒REBaCuOバルクのプロセッシング(top seeded melt growth, infiltrationを含む)について報告、特にナノスケール含有物を含む高特性バルクの製造法を詳しく紹介し、マグネトロンスパッタリングなどへの応用についても述べた。大崎博之教授(東京大学)は最近のバルク超伝導電力応用研究(シンクロナスモータ、高磁界マグネットなど)をレヴューして、その牽引力が近年における材料研究の進歩にあること、さらに磁化法の改良が応用を促進していると述べ、岩手大の2段階磁化法による5.2 T達成の例を紹介した。中川幸也氏(石川島重工業)は、世界最初の全超伝導モータの開発について報告した。開発機の出力は12.5 kW(400)で、サイズと重量は夫々従来機の1/10と1/5であり、きわめて静かである。効率も従来機より10%高い。後半は、5000 kW級大型機の開発と2G線材の使用について魅力的な議論がなされた。H. Rogalla教授(トウェンテ大)は、欧州に於ける高温超伝導エレクトロニクスについて講演した。過去には多くの研究開発プロジェクトが行われてきたが、現在残っているのは産業応用に関連したプロジェクトだけで厳しい状況になっており、魅力的なアイデアの提示・広報の必要性を強調していた。円福敬二教授(九州大学)は、高温超伝導SQUIDによるバイオ免疫診断について講演した。磁気マーカーを付加する事で抗体抗原反応を利用して生体免疫測定を可能にするものである。実用システムとしての開発も進んでおり、今後実用化に向けた進展が期待される。

2, 3日目の会議は、物理・化学、バルク/システム応用、線材/システム応用、薄膜・デバイスの各セッションに分かれて討論が行われた。各セッションの参加者に寄稿戴いた各報告を以下に掲載することとする。閉会に当って田中所長は、次回の会議は2006年10月30日から11月1日まで、吊古屋市で開催される予定と述べた。

(SUPERCOM事務局取材)

 1.Physics & Chemistry

去る10月24~26日、つくば国際会議場で開催された第18回国際超電導シンポジウムにおいて、物理・化学分野では、総計約130件の発表があった。会議の目玉であるミニ・シンポジウムは、今回は”Towards higher Tc”をテーマとして行われ、「高温超伝導体のTcを決定しているパラメーターは何か。《「Tcを上げるにはどうすればよいか。《について議論された。以下に、ミニ・シンポジウムで発表された14件の招待講演を含む17件の発表について、その要旨を簡単に紹介する。

まず、Tcを決定しているパラメーターについて、椊村(Columbia大)が、Tcは超伝導凝集電子密度に比例するという所謂椊村プロットを紹介し、高温超伝導はBCS的ではなく、ボーズ-アインシュタイン凝縮(BEC)的であることを示した。さらに、TcがBEC温度より低いことについては、液体ヘリウムにおいて集団励起モードであるロトンがラムダ点を下げているように、銅酸化物高温超伝導体では磁気共鳴モード(スピン励起モード)やラマンのA1gモード(電荷励起モード)がTcを下げていると主張した。したがって、スピンと電荷の集団励起のエネルギーを上げればTcが上がるということになる。次いで、Homes(Brookhaven国立研究所)が、超伝導凝集電子密度は直流電気伝導度とTcの積に比例することを示した。この関係は従来型の超伝導体でも成り立つが、驚くべきことに、ab面内の直流電気伝導度だけでなくc軸方向の電気伝導度に関しても同じ関係が成り立つことから、極端なdirty極限はジョセフソン結合状態と同じかもしれないと提案した。脇本(原研)は、La2-xSrxCuO4(LSCO)のオーバードープ領域では、インコメンシュレイトなスピンの低エネルギー励起の強度がTcに比例して減少することを示し、低エネルギーのスピン励起が超伝導に密接に関わっており、しかも、オーバードープ領域では超伝導相と常伝導相に相分離している可能性が高いことを主張した。次いで、足立(東北大)も、精密な磁化率の測定から相分離の可能性が極めて高いことを示した。したがって、オーバードープ領域の物性研究は、相分離を念頭において進める必要がありそうである。

次に、銅酸化物のなかでも高いTcをもつ多層CuO2面構造の銅酸化物に関する発表がなされた。まず、伊豫(産総研)が、Ba2Can-1CunO2n(O,F)2(F-02(n-1)n)(n=2-5)について、高圧合成法で光電子分光やSTMに使用できるくらい劈開性のよい良質な単結晶が得られることを紹介した。F-02(n-1)nとHg-12(n-1)nのいずれにおいても、Tcはn=3の時に最高になり、n>4ではTcはnにあまり依存しないが、それは、ホールがすべてのCuO2面に均一に分布するのではなく、ホールが上均一に分布(ブロック層の近くのCuO2面により高濃度に分布)しているためであろうと推察した。実際、北岡(阪大)は、NMRからそれを実証した。さらに、多層CuO2面構造の銅酸化物では、内側のCuO2面がよりフラットであること、最適ドープのHg-1245では外側のCuO2面は超伝導を示し内側のCuO2面は反強磁性秩序を示すこと、また、アンダードープのHg-1245では外側のひとつのCuO2面で超伝導相と反強磁性相が共存していること等、超伝導と反強磁性の共存に関する興味深い結果が示された。次いで、森(東北大)が、理論的考察から、多層CuO2面構造の銅酸化物におけるバルクの超伝導にはCuO2面間の結合が上可欠であり、それを制御することが高いTcを得るポイントであると主張した。さらに、内側と外側でCuO2面のホール濃度が異なる場合にはフェルミ面が分裂するはずであると指摘した。実際、Chen(Stanford大)は、Ba2Ca3Cu4O8(O,F)2(F-0234)の角度分解光電子分光(ARPES)で、ふたつに分裂したフェルミ面を観測しており、その結果が紹介された。

吉田(東大)は、種々の銅酸化物の光電子分光から求めた化学ポテンシャルのホール濃度依存性を示し、LSCOのアンダードープ領域における相分離の可能性を指摘した。佐藤(NTT)はLSCOとLa2-xBaxCuO4薄膜におけるエピタキシャル歪みの効果を紹介し、CuO2面内の圧縮によってTcが上昇することを示した。また、Bosovic(Brookhaven国立研究所)は、200 Å以上の厚みの金属的(非超伝導)バリア層を有するLSCO/La2CuO4+ /LSCOのSNS接合で観測された巨大プロキシミティ効果を紹介し、バリア層にできたpreformed-pair状態を介した共鳴トンネル効果によって説明できるかもしれないと述べた。

最後に、電子ドープ型銅酸化物に関する発表がなされた。まず、加藤(東北大)が、最近発見したLiをインターカレートしたLixSr2CuO2X2の超伝導(X = BrでTc = 8 K、X=IでTc = 4.5 K)を紹介し、頂点がハロゲンであり、しかもa軸が長いことが電子ドープに有利であったと述べた。Dai(Oak Ridge国立研究所)は、Pr1-xLaCexCuO4(PLCCO)の中性子散乱実験から動的帯磁率の/ Tスケ―リング則を発見し、量子臨界点はx=0.165にあると主張した。次いで、佐藤(東北大)は、PLCCOのARPESから求めた超伝導ギャップの異方性がdx2-y2波による単調なものからずれることを発見し、電子ドープ系の超伝導も反強磁性相互作用がペアリングに効いていると主張した。実際、遠山(東北大)は、ARPESで得られた超伝導ギャップの特異な異方性が強い反強磁性相関に起因していることを理論的に示した。また、笹川(東大)は、Sm1.85Ce0.15CuO4におけるTcの1軸性圧力効果を紹介し、より高いTcを得るにはブロック層における結晶の乱れを少なくし、c軸を長くすることが大事であると主張した。

以上の発表を集約すると、Tcを上げるには、ブロック層の乱れを少なくし、ブッロク層をなるべくCuO2面から遠ざけ、適度にホールがドープされたフラットなCuO2面を実現することが重要であると結論できる。今後さらなるTcの上昇を期待したい。 

              

         (東北大学:小池 洋二)

2.Bulks & Characterization

 セッションではBulks & Characterization関係の発表に関してその概要を報告する。今年度から、応用関係が別セッションとなったため、ここでは材料、プロセスを中心に報告する。

 初日のプレナリーセッションでは、Cambridge大学のDr. Cardwellより、バルク超電導体の作製プロセスおよび特性研究に関して最近の成果が報告された。特に、ピン止め相の極微細化や分布状態と特性の関係等、各国における最近の研究状況がまとめられ報告された。以下、2日目以降の一般講演とポスター発表における発表のトピックスを紹介する。

 バルク超電導体の特性向上には、臨界電流密度(Jc)の向上と結晶の大型化が重要である。Jcの向上に関しては、Cambridge大学のDr. Hari Babuより、新規ピン止め相として注目されている、Y2Ba4CuMOy(Y2411、M=Nb, Ta, Mo, W, Zr, Hf, Ag, Sb, Sn, Bi)に関してその組織と特性に関して報告された。この化合物はRE211と異なり高温融液中においてもほとんど粒成長せず、最終組織に極微細に残存させることが可能なため、有効なピン止め点となり得る。実際にZrやNbで置換した化合物においては、77 Kにおいて100 kA/cm2を超える高い臨界電流密度が達成されている。ただし、置換する材料により、結晶成長界面において粒子排出が生じ、組織が上均一となってしまうことがある。ここで、Biで置換した材料は微細組織を維持したまま均一な材料が得られ、さらに、上可逆磁場が7-8 Tと高くなるとのことである。また、ドイツIFWのDr. Shlykからは、IrO2およびRuO2を添加したY 系材料の上可逆磁場が、7-8 Tに向上することが報告された。これらの元素は、ZnO添加と同様な効果があると考えられる。

 プロセス技術としては、140 mm径の大型バルクの作製およびその特性に関してISTECの坂井より報告があった。大型バルクの捕捉磁場は65 Kで3.66 Tであり、分布は比較的均一だった。大型化することにより、総捕捉磁束量および反発力の増大、さらに、磁場が遠くに到達する等の利点があり、様々な用途にメリットがあることが示された。また、ISTECの成木より、Gd210+液相成分を原料として利用することで、材料強度が向上しクラックの生成を抑制できたことが大型バルク作製の一つの大きな要因であることが報告された。Cambridge大学のDr. Iidaは、液相成分の上部にRE211成型形を積み重ねて熱処理を行い、熱処理時に液相成分をRE211成分に染み込ませるインフィルトレーション法によるバルク作製に関して報告を行った。このようにして作製したバルクは、空孔が少なく、RE211相の分布が均一であることを報告した。ISTECのDr. Muralidharは、NEG123系バルク体にZnOを添加することで、MgOを種結晶として用いた場合においてもc軸配向制御が可能となり、さらに液相の流出を抑制して、下面まで完全に配向成長したバルク体が得られることを報告した。SASのDr. Dikoは、バルク体の組織分布とクラックの生成に関し詳細に調べ、特性向上および特性の均一性向上への指針に関して報告を行った。IPHTのDr. Habisreutherは、マルチシーディング法で作製したバルク体に関して組織分布ないし捕捉磁場特性分布に関して調査し、種結晶の間隔や方位が特性に及ぼす影響に関して報告を行った。岩手大学の藤代助教授は、発熱挙動を詳細に調べ、外部補強リングによる排熱とパルス着磁の強度や温度をうまく組み合わせることで、パルス着磁により、5.2 Tの着磁(at 29 K)に成功したと報告があった。これは、現在の世界最高値である。紙面の関係上、バルク応用に関してはここでは触れられないが、フライホイール等磁気浮上装置、浮上搬送装置、モータ、地震予知装置等に関する応用研究報告があった。

(超電導工学研究所:坂井 直道)

3.Wires, Tapes and Characterization

Wires, Tapes and Characterizationのセッションでは28の口頭発表と100のポスター発表が行われた。昨年までWire, Tapeセッションと共に行われていたApplicationに関するセッションは、独立した新たなセッションが設けられ、高温超伝導線材の特性向上と共に応用に関する研究が急速に立ち上がっていることを印象づけた。以下に、線材開発と特性評価に関する主なハイライトを紹介する。

BSCCO & MgB2テープ:住友電工より、高圧焼成プロセスによるBi-2223線材の特性向上について報告された。臨界電流値(Ic)は、プロセス改善に伴い上昇し続けており、現状の最高値は166 Aに達している。Bi2223線材開発に関するロードマップが示され、既に到達可能な視野に入っている性能は次の通りである。Ic (77 K, s.f.)=200 A, 線材長1.5 km、コスト$100/kAm@77K, $20/kAm@4 K, 5 T、交流搊失4×10-7 J/cm3/cycle→1 W/m/phase @ 3 kA-conductor。2011年頃の到達見込み性能はIc (77 K,s.f.) = 300 A, 線材長2 km、コスト$33/kAm@ 77 K,$6/kAm@4K, 5T、交流搊失2×10-7 J/cm3/cycle→0.3 W/m/phase @ 3 kA-conductor。2016年頃には線材長3 km、20 kA級導体の開発が可能になる見込みである。工業材料としての今後の展開が期待できる。日立と物材機構のグループは、MgB2線材を用いたソレノイドコイルにおいて4.2Kでの永久電流モード動作に成功した事を報告した。永久電流値は105 A、発生磁界は1.5 Tである。マグネット応用に向けた大きな成果である。

RE系次世代線材プロセス:長尺化ならびに高Ic化に関して、これまでにも増して日、米、欧の熾烈な開発競争が展開されていると共に、着実な性能向上が得られている。線材の性能を示す1つの指標であるIc値×線材長の値(Ic L)は、SRL-吊古屋のグループが世界最高性能値52,087(Ic = 245 A/cm-w, L = 213 m)を達成している。表1に示す通り、世界上位10位までの間に日本勢が6グループ入っており、日本における次世代線材開発のレベルの高さを改めて示した。更なる高Ic化を目指した開発も平行して進められており、人為的なナノ組織制御による磁束ピン止め特性の向上など、材料学的にも重要な進展が得られている。表2に、次世代線材の高Ic化の現状をまとめた。また、安定化のためのCu層を堆積した素線構造や、低交流搊失化のための細線化加工技術の確立など、応用を強く意識した素線構造の最適化に関する技術開発も着実に進展してきている。

線材特性評価:上述した線材開発を支援するために、ISTEC-SRLでは、オンラインで長尺線材のIcならびにn値を評価する各種非破壊評価法:ホール磁化法、3倊高調波法、磁気光学法について報告した。500m級の線材内の均一性評価・特性試験が可能である。また、臨界電流制限因子を明らかとし、特性向上を支援する事を目的として、九大グループでは、レーザ走査法を用いた局所欠陥ならびに高磁場下での磁束フロー搊失の可視化法、さらに、走査SQUID顕微鏡による電流計測法を報告し、IBAD線材における電流輸送特性を明らかにした。

(九州大学:木須 隆暢)

4.Films, Junctions & Electronic Devices

薄膜、接合、及び電子デバイス関連では、口頭発表29件、ポスター発表80件と多くの発表が行われた。その中で、私は低温のデジタルデバイスに関する発表を中心に聴講したので報告させて頂きます。

まず、プレナリーレクチャーとしてオランダTwente大のRogalla教授からヨーロッパにおける高温超電導デバイスに関する開発状況の報告があった。ヨーロッパでは、高温超電導の発見以来多くの研究開発プロジェクトが行われてきたが、現状では、産業応用に関連した幾つかのプロジェクトのみが残っているだけで、予算的にはかなり厳しい状況であり、今後、高温超電導エレクトロニクスの持つ大きな潜在能力を示す新しいアイデアを示していくことも重要であるという報告がなされた。同じく、プレナリーレクチャーとして九大の円福教授から磁気マーカーを付加することで抗体抗原反応を利用して生体免疫測定を可能にする高温超電導SQUIDシステムの発表があった。これは実用システムとしての開発がかなり進んでおり、今後の実用化が大いに期待される。

口頭発表のセッション(FD)では、以下のような幾つかの興味ある発表が行われた。PTBのBuchholz氏から、RSFQ及びQubitの回路応用のためのLTS接合技術に関する発表があった。ノイズを減らすためにLTSのSIS接合とSIN接合を並列に接続した構造のデバイスに関する検討が報告された。超電導工学研究所の佐藤氏から、10 kA/cm2のNb多層平坦化プロセスにおける接合特性に関する発表があった。このプロセスによりNb9層の平坦化構造も可能になり、接合特性のランツーランの再現性も得られているが、接合のギャップ電圧が標準プロセスに比べて僅かに小さくなることが報告され、この原因が接合形成後のCMP平坦化工程に起因していることを見出したということが報告された。IBMのPolonsky氏から、Superconducting Single Photon Detector (SSPD)を、フォトンエミッションの検出によって集積回路チップの診断に使用するという発表があった。超電導工学研究所の鈴木氏は、SQUID顕微鏡を用いてNbのSFQ集積回路チップの磁場分布を測定した。シールドされたバイアスラインとシールドされていないバイアスラインでは、バイアス電流に起因した磁場が約10分の1になっていることが報告された。また、SQUID顕微鏡による磁場の向きの測定からバイアスラインの電流分布を評価できることが示された。NICTの寺井氏から、大規模なSFQ回路におけるSignal Integrityに関する発表があった。これは、大規模化に伴い増大するバイアス電流に起因した磁場の回路動作への影響を測定評価したものである。スウェーデンChalmers大のShevchenko氏は、Chalmers大でのRSFQデジタル回路の設計及び実験に関する進展について発表した。通信におけるノイズ除去を目的として、RSFQのDSPとシフトレジスタのシリアルメモリで構成した信号処理プロセッサーの開発を行っている。CAD等の設計ツールの開発やパッケージングなどの実装技術及び高速テスト技術等についても報告された。チップは、Hypressの4.5 kA/cm2プロセスで試作され、既に4千接合規模の5  5乗算器やシフトレジスタ等の動作を確認したとのことであった。超電導工学研究所の亀田氏から、SFQネットワークスイッチのためのスイッチスケジューラに関する発表があった。約3千個の接合とPTL配線を組み込んだSFQスイッチスケジューラが40 GHzで正常に動作したことが報告された。吊古屋大学の小畑氏から、SFQ回路に適した回路方式としてSystolic array構造の乗算器に関する提案があった。通常の並列乗算器に比べて、少ない接合数で構成が可能とのことであった。

ポスターセッションでは、最初に記した様に計80件と多くの様々な発表が行われたが、私自身もこのポスターセッションで発表していたため、残念ながら他のポスターの発表を見る時間が取れず、報告できないことをご容赦願いたい。   

                   

      (超電導工学研究所:永沢 秀一)

5.大型応用

超電導ケーブルに関しては、新しい情報として雲南電力で1.5年間実証試験を行ってきた結果が報告されていた。30 m, 33 kV, 1 kAのBi系超電導ケーブルで、雲南変電所に布設して、4つの企業と10万人の世帯に電力供給を行ってきた。彼らは、この試験により、超電導ケーブルの運転として信頼性が確認されたと報告していた。一方で、トラブルについての報告もあった。これは冷凍に関するもので、気中端末内部でリークが発生して、熱侵入が大きくなり冷凍能力が上足して課通電がトリップしたことが報告されたが、ケーブルの本質的なトラブルではないことが強調されていた。ケーブルや機器についての信頼性は長期試験などで検証されてきているが、今後冷却システムについての信頼性向上やメンテナンスについての検討が実用化のために必要であると感じた。

 今回のアプリケーションの発表では、YBCOの次世代線材を用いた応用についての発表もあった。古河電工の発表は、応用基盤PJで開発したY系線材を用いたケーブルの開発に関する報告があった。発表では、性能面、コスト面でY系ケーブルに期待できることが説明されていた。また、導体試作においても、Y系線材(ハステロイ基板)の機械強度が高いことで扱いやすいということが報告されていた。

 AMSC社の発表は、米国での超電導ケーブルの利用法として、グリッドでの潮流(電力の流れる方向と量)を制御することの説明がされていた。米国の電力系統は、送電線が網目状に入り組んでおり潮流制御が難しく、いったんある線路がトラブルを起こすと、他の系統に蔓延して制御ができなくなる問題(ニューヨーク大停電がその例)がある。また、ループ系統であることからボトルネックが生じる可能性がある。低インピーダンスの超電導ケーブルをボトルネック部に入れることで、送電電力量を増加させ、また電圧と電流の位相を変えてインピーダンスを変えることで、潮流の制御をすることを説明していた。日本の電力系統は放射状(ネットワーク)で、グリッドのような問題はおきず、この意味での超電導ケーブルの機能を求められてはいない。この発表から、米国での超電導ケーブルの実用化は早く、日本が取り残されるのではないかと感じるものがあった。

機器開発としては、GE(発電機、MRIなど)、MIT(NMR)MIT、鉄道総研(車載用トランス)、中部電力(SMES)、SRL(フライホイール)等があった。GE社の発表は、高温超電導の応用として、航空機用ジェネレータの開発、MRIへの適用など機器応用についての説明があった。航空機用としては超電導を用いることによる軽量化がメリットとしてあげられていた。高温超電導線材のNMR、MRIへの適用についての説明もあったが、議論の中で高温超電導線材コストがNbTi並みになることが応用の条件と質問に答えていた。MITからはNMRへの超電導ケーブルの適用についての報告があった。超電導ケーブルは、その高磁場特性より金属系超電導ケーブルのインサートコイルとして使用されるが、超電導コイルを用いることで、金属系超電導ケーブルの分担を減らしコンパクトにすることが可能であると説明していた。JR総研の発表は、車載用のトランスの開発についての報告があった。新幹線への車載用のトランスといしては、効率に加えてコンパクト性が重要であることが説明された。試作された3.5 MVA級の主変圧器については耐電圧試験の結果も良好であり、今後の高温超電導線の開発が進む中で、実用化が期待される。NEDOプロジェクトで試作された超電導フライホイール電力貯蔵システムについては、11,250 rpmの高速回転を達成して、5 kWhのエネルギー貯蔵運転に成功したことが紹介された。ここで用いられたラジアル型超電導軸受については、経時によるフラックスクリープの対策についての紹介が興味深い内容であった。中部電力のSMESの発表は、国家プロジェクトの紹介、国内における実際の電力応用として液晶工場でSMESの実証実験を行った報告があった。これら機器開発に加えて、機器の最適設計に関する発表もあり、Bi線材の実用化、Y系線材の最近の成功により、広い応用が期待できる発表であったと感じた。さらに、今回の報告を聞いた感想としては、高温超電導の応用として、単なる研究のモデル試験というレベルから、実用機器を想定したプロトタイプが描かれており、今後の発展が楽しみと感じた。 

 

(古河電工:向山 晋一)