今回オーム技術賞を受賞したビスマス系高温超電導線材(Bi2223銀被覆線材)は、線材製作プロセスのうち超電導特性を決定する最後の重要工程である熱処理工程に、同社が独自に開発した「加圧焼成法《を用いて製造したもの。「加圧焼成法《を用いることで、ビスマス系超電導材料の密度が従来の85%から100%へと向上すると共に、長尺線材の歩留りが従来の20%から90%に増加し、無欠陥で1,000~1,500 m級の長尺線材の量産が可能となった。2004年春の開発当初の臨界電流Ic (77 K, 0 T)は、標準4.3 mm幅の長尺線材で110 A、短尺の最高値で130 A程度であったが、その後改良が進み、現在では長尺線材で最高166 Aに到達し、150 Aクラスの長尺線材が工業的に生産可能になっている。同社では、臨界電流特性を重視した高臨界電流型線材の他、機械特性を重視して銀比を高めた高強度型線材の2種類を標準仕様として開発しているが、高強度型についても臨界電流110 Aの長尺線材が工業的に生産可能になっている。高臨界電流型と高強度型の特性例を図1、図2に示す。
加圧焼成法により製造されたビスマス系線材は、米国Albanyケーブルプロジェクト、韓国KEPRI向けケーブルシステムで使用されたのを初め、最近では船舶推進用モータ、鉄道車両用超電導主変圧器などの開発にも使用され始めるなど、応用分野が広がっている。
今回の受賞者の一人である同社電力・エネルギー研究所超電導開発室の加藤武志プロジェクトリーダーは、「以前実施していた大気圧焼成法では、臨界電流特性改善の歩みが遅々として進まない時期もあったが、加圧焼成法に転換して以来、短期間に着実に特性が向上してきた。結晶配向性などまだまだ改善の余地があるので、200~300 Aの臨界電流を実現することも夢ではないと考えている。また、単なるチャンピオンデータではなく、工業生産可能な製品として世界中のユーザに提供可能になっており、更なる性能向上と相まって、ユーザサイドでの応用開発が更に広がっていくことを期待している。《と、本格的実用化に向けての抱負を述べている。
図2 高強度型線材の特性例
(全長Ic = 110 A、全長n値 = 21)
(ビス子)