SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.6, December. 2005

2. Ex-situ PIT法で作製するMgB2線材の高磁場Jcが大幅に向上 *アルミニウムとMgB2で軽量・低放射化線材の作製が可能に      _物質・材料研究機構_


  物質・材料研究機構のグループが、非加熱法で作製するMgB2線材の高磁場中でのJcを大幅に向上させ、熱処理が必要な手法で作製した線材と同等の特性を得ることに成功した。同グループは、同じ技術を用いることで、アルミニウムだけをシース材とするMgB2線材のJcを向上させることにも成功した。アルミニウムは非磁性で電気伝導性や熱伝導性が高いだけでなく、低コスト、軽量、低放射化などの利点があり、MgB2の特徴を十分に活かすことができるシース材として期待できる。非加熱法の可能性を高めた一連の実験結果は、実用を視野に入れたMgB2線材の開発研究の追い風となる成果であり、研究の更なる進展が期待される。

 MgB2線材は、一般的にパウダー・イン・チューブ(PIT)法で作製される。PIT法には、MgB2粉末を金属管に詰めて伸線・圧延加工を施し、非加熱で線材化するex-situ法と、Mg源とB源の粉末を混合し、金属管に詰めて加工・線材化した後、熱処理を施してMgB2を焼成するin-situ法の2種類の技法がある。これまでの研究では、in-situ法の方が高磁場特性の優れたMgB2線材が得られると一般的に考えられていた。これに対し、物質・材料研究機構のグループは、in-situ線材の超伝導層と同等の特性を有するMgB2粉末を使ってex-situ線材を作製する研究を行った。その結果、高磁場中でin-situ線材とex-situ線材が同等のJcを示すことを明らかにした。図1はその結果で、in-situ線材とex-situ線材のJcは、10 Tで共に3500 A/cm2程度の値を示している。ex-situ線材のJcは、600°Cの熱処理で更に向上し、最高で6100 A/cm2が得られている。

 ex-situ線材の特性が向上した理由は、出発原料となるMgB2の作製方法をin-situ線材と同様にしたことにある。このMgB2粉末は、in-situ線材のシース材(Fe)を機械的に剥ぎ取って取り出したMgB2コアを集め、粉砕・混合して得た粉末で、通常のMgB2粉末に比べると、Tc(36 K程度)や結晶性が低いことが特徴である。この粉末から作製したMgB2線材は、市販のMgB2粉末から作製したex-situ線材より、MgB2コアの上可逆磁場特性と粒界結合性が優れている。線材の一桁以上の大幅な特性向上はこれに起因するものと考えられる。一方、in-situ線材とex-situ線材を比較した場合、両者のJc-B特性の傾きが異なることに気付く。この結果は、ex-situ法とin-situ法が線材の特性に及ぼす効果は同じではなく、主要なピンニングセンターあるいはピンニング機構、粒界結合性、密度、配向度、粒度などに差異があることを示唆しており、詳細について更なる研究が必要である。研究を行った中根茂行研究員は「今回の研究で、ex-situ法でも高特性のMgB2線材を作製できることが実証できたと思う。ex-situ法はin-situ法よりも実用的な利点が多く、研究にも、作製技術の改良による高Jc化だけでなく、MgB2粉体の作製指針の確立や大量生産技術の開発、臨界電流特性の機構の解明などいろいろな課題がある。今回の結果が、これらの研究の進展のきっかけになればと考えています。《とコメントしている。

 同グループは更に、上述の技術を応用し、アルミニウムだけをシース材とするMgB2線材のJcを向上させることにも成功した。アルミニウムは非磁性で電気伝導性や熱伝導性が高いだけでなく、低コスト、軽量、低放射化などの利点があり、MgB2の特徴を十分に活かすシース材として期待することができる。共同研究者の北口仁主席研究員は「MgB2の特有の特徴を線材で十分に活かすには、研究の成果を、軽量線材や低放射化線材の開発につなげていくことも重要である。現時点では更なる高性能化が必要であるが、アルミニウムシースMgB2線材を実用レベルに近づけることができれば、軽量な搭載用マグネット(宇宙用や交通機器用)や将来の核融合炉用材料等、MgB2線材にMgB2ならではの応用を期待できるようになる。《とコメントしている。

 近年は、高性能化が容易であることからin-situ法の研究報告が非常に多いが、MgB2の超伝導現象の発見当初は、ex-situ法の方が主流だった。今回の結果を顧みると、過去の成果に、近年の知見をフィードバックさせれば、MgB2線材の研究に、もっと大きな可能性が見えてくるのではないかと思える。もう一度、新しい視点でex-situ法を見直してみるのも良いのではないだろうか。                  

                                 


図1 MgB2線材のJc-B特性(4.2 K)

(森の熊さん)