SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.5, October. 2005

7. <EUCAS2005 会議報告 : 2005. 9.12-15 Wien>


 1 Bi系導体関係

Siemens のHussennetherは、回転機用に5社から入手した7種類の市販Bi2223線材の25 K, 4 TにおけるIcを評価した。77K自己磁場Icで規格化したScaling Factorはメーカーによって、または、同じメーカーでもサンプルによってかなりの差があることを示した。さらにIcの温度、磁界特性を弱磁界で切れるweak link pathと、強磁界まで維持されるstrong ling pathの寄与に分けて解析。同様の解析は以前から報告されているが、5社のサンプルを同時に比較しているところが興味深い。この解析によると77K自己磁場中でIcが最高になる試料は、weak link pathの寄与が他より大きいとしている。

住友電工のAyaiは、加圧焼結を適用した1100 m長Bi2223線材の全長で152 AのIcが得られたことを報告した。また、同社の最近の長尺線材のIcは平均値で150 A、最高値で163 Aに到達しており、2004年の実績に対して約30 Aの改善があったことを示した。同じく加圧焼結関連の研究で、九州工大のKiuchiは単芯銀シース線のJc分布をCambell法で評価し、加圧焼結によってJc分布が均一になることを示した。

University of Geneva、Tsinghua UniversityのQuは二次焼結後Ic = 76 A、Jc =30 kA/cm2の61芯テープに対して、770℃から800℃、8.5 %O2×10 hのポストアニールを実施し、Pb3(Sr2.5Bi0.5)Ca2CuOx (3321)の析出量が最も多くなる795℃で、最高19 %の Ic向上率が得られたことを報告した。粒界amorphousが3321として析出されることによってgrain connectivityの改善に寄与しているのではないかと考えているが、本当のところは未だよく分からないとのことであった。また、磁界中の通電特性も77 Kと4.2 Kで測定しており、ポストアニールによるpinning propertyに変化はないとしている。本発表はAbstractではEffect of HIP Treatment on Jc of Bi2223/Ag Tapes というタイトルで登録されていたが、実験が未だ上手くいっていないため内容を変更したとのこと。今後の報告を待ちたい。

Tsinghua UniversityのHanは、Plenaryで中国の電力需要、超電導パワー応用研究の状況を紹介。この中でBi2223のコストはapplicationが求めるレベル以下に下がるとの見解を示した。

Kebangsaan UniversityのAbd-Shukorは銀パイプ充填前に50×200 nm2のγ-Fe2O3柱状粒子を0.01重量%添加したBSCCO2223銀シース30芯線を作製している。焼成後の組織においてナノ粒子が77K、自己磁場中におけるJcは、ナノ粉末を添加していない試料と比べて一割程度改善されているが8 kA/cm2以下。磁界中のJcも評価されていたが、ピンニング特性の顕著な変化を示す結果は得られていなかった。

University of SouthamptonのAl-MosawiはHTS generator開発の一環で、BSCCO2223銀シースの機械的特性を評価。試料はAMSC社製のStainless tape補強3-Plyを使用。77 Kで350 MPaの引張応力までIcの低下がないことを示した。

Nexans SuperconductorsのRikel は組成比を変えたパウダーを用いた、Agシース2212線を作製し、Ag-sheath のそれぞれについて溶融温度、Quenchした試料に見られる各相の組成比を評価した。2212定比組成の場合、他のBi-rich組成よりも溶融温度が低く、溶融開始から終了までの温度範囲が狭くなることを示した。また、液相の組成比はSr rich組成では2201に、Cu rich 組成では2212に、それぞれ近づくことを示した。

Center for Advanced Power Systems のMbarukuはAgMgシース2212テープに室温で引張応力を加えてから、4.2 KでIcを測定。Weibull関数に当てはめて、応力に対する信頼度を評価。各サンプルの初期Icで規格化して応力に対する信頼度を見ると、100MPaまではほぼ100 %で、そこから140 MPaにかけて急激に信頼度が落ちるのに対して、一定の歪下のIc絶対値で見ると100 Aから500 Aまで信頼度が緩やかに落ちている。歪を加える前の初期Icのばらつきが影響しているとの見解を示した。   

      

(住友電工:綾井 直樹)

2 RE123 coated conductor

  PACRIM会議(ハワイ)と会期が重なったためかCoated Conductor関連では、日米の参加者が少ない感がいがめない今回のEUCASであったが、それでもOral、Poster含めおよそ130件の発表があり、活発な議論が展開された。以下に会議で報告された主なトピックスについて記述する。

  日本では、長尺IBAD基板と自己配向CeO2技術の進展により、各種YBCO成膜法による長尺線材開発が進んでいる。PLD-YBCO法に関してSRL吊古屋では、マルチプルーム・マルチターンによる長尺YBCO層成膜装置により、これまでの米国IGC-Superpower社の206.7 m-106.7 A (Ic x L = 22,030 Am)を大きく上回る212 m-245 A(Ic x L = 51,940 Am)を達成したと報告した。また、フジクラでは、IBAD基板開発に関しては、長さ255 mを達成し、YBCO層に関しては、短尺線材でIc = 360 A(Jc = 2 MA/cm2)、長尺では、104 m-153 Aを達成したと報告した。一方、低コストプロセス関連では、中部電力から、多段CVD法による長尺線材開発に関する研究成果、短尺Ic = 227 A (Jc = 2.3 MA/cm2)、長尺線材92m-96Aに関して報告した。また、TFA-MOD法関連では、SRL東京が、短尺線材でIc = 431 A、長尺化に関しては、Reel to Reel システムを用いて25 m-100 Aを達成したと報告した。バッチ式TFA-MOD法による長尺線材開発を行っている昭和電線では、短尺サンプルでJc = 約2 MA/cm2、20m長の線材で平均Ic = 62 A/cm-w (Jc = 1.2 MA/cm2)を達成したと報告した。

  米国では、RABiTS、IBAD基板での長尺線材開発が進められている。AMSC社では、RABiTS基板上にReactive Sputter法による中間層、TFA-MOD法によるYBCO層を形成し、更には、安定化材としてCuをラミネートする構造の線材(344超電導線材)開発を進めている。これまでに長さ85 m、平均Ic = 73 A (166 A/ cm-w)を達成したと報告した。また、LANLでは、IBAD基板上にYBCO層とCeO2層を交互に積層することにより1,400 A/cm-wという高Icを実現したと報告した。高Ic化の手法として今後の進展が期待される。 欧州では、EHTS社が、SS/IBAD-YSZ/CeO2/YBCO構造のY系線材を開発しており、超電導層は、HR(High-Rate)-PLDと呼ばれる手法を用いている。これまでに、長さ40 mの線材を作製し、Icは84.5 A (235 A/cm-w)であったと報告した。Theva社では、 ISD中間層を用いた線材開発を行っている。これまでに10 m長のサンプルで平均Ic = 332 A、40 mのサンプルで158 Aを達成している。イタリアのEdison社では、低コスト化の観点からNi/CeO2/YBCOといたってシンプルな構造での線材開発を進めている。2年前の前回の会議では、世界で始めてこの線材構成でJc = 1 MA/cm2超を達成し話題となった。今回は、長さ1.85 m、幅6 mmのNi基板上にCeO2、YBCOを成膜し、Ic = 72 A(Ic = 120 A/cm-w)、Jc = 2 MA/cm2を達成したと報告した。

  また、機器応用を想定した線材開発も盛んに行われている。フランスのLAIMAN-ESIAのグループでは、基板の非磁性化、低コスト化の観点から、Cu-Ni合金基板の開発を行っている。これまでにCu55Ni45、Cu70Ni30の2種類の合金組成に対して実験を行っており、前者では、⊿ω= 4.3°、⊿φ = 7.8°、後者では、⊿ω = 6.9°、⊿φ = 7.5°を得たと報告した。まだ本基板上での超電導特性の報告はないが、今後の研究の進展が期待される。ドイツのKarlsruhe研究所のグループは、YBCO線材の大電流化、低交流搊失化の観点から、YBCO線材をミアンダ上にカットし導体化するというRACC(Roebel Assembled Coated Conductor)の開発を行っている。これまでに16本のDyBCO線材を撚り合わせた35 cm長の導体を作製し、Ic = 500 A (0.1 μV/cm定義)を達成したと報告した。

  今回の会議では、性能面(長さ、臨界電流値)のみで考えれば、日本での成果を筆頭として、Y系線材が機器応用R&Dには十分な長さ・性能で提供でき得る事を明確に示した会議であったと言える。今後は、いわゆるIc x L 競争の段階から一歩踏み出し、コスト面を含めたY系線材の真の実力が示されることが期待される。

 

(中部電力:鹿島 直二)

3 MgB2関係

  EUCAS2005は今回、オーストリア、ウィーンで開催された。全体の報告でもあったと思うが、約800人程度の参加者があり、ヨーロッパでの会議にもかかわらず、日本から非常に多くの発表があった。常に開催国の参加者よりはるかに多い参加者数であり、日本における超伝導研究の活発さを表している会議でもあろう。さて、2001年に青山学院で発見されたMgB2超伝導体であるが、会議全体の日本からの発表数から考えると圧倒的に欧米の研究数が多いのが実情であり、日本で発見されたにもかかわらず、欧米ほどの活況を呈していないのが非常に残念である。その要因の一つとして基調講演においてMuller教授が言うように限られた用途しかないため、応用の中心はHigh-Tc超伝導体に取られてしまう。EUCASはそんな中でもヨーロッパを中心に多くの研究者が興味を持って研究を続けており、総発表件数749件中MgB2に関する発表が90件もあったことからもうかがい知れる。ただし、かなりの数のWithdrawがあったのも確かである。さて、その中で、やはり、MgB2の応用から考えると牽引役でもある線材、コイルに注目が集まり、日米欧からJR東海(日立,NIMS)、Hypertech, Colombus, INFMの中心的な3社からの報告がある。JRからは100m級の線材でのコイルにおいて20 K, 3 Tの外部磁場中で1Tの磁場発生に成功したという報告があり、HyperTech社においても多芯線で何もドープしない線材で10 T, 7000 A/cm2程度の高い特性が得られている。来年にはSiC添加も試みることからさらなる特性向上が得られると予想される。さらに、HyperTech社は多くの研究機関からの委託により、長尺線材を供給し、ソレノイドコイル、レーストラックコイル等幅広い試作コイルを完成させている。残念ながら、この点ではアメリカがかなり優位に立っているのではないだろうか。

  一方、応用を考える上で、最も重要な点は今のところJcであろう。それに対して多くの研究者が共通認識を持ち始めたと考えられる。その中心的な発表はウィスコンシン大学Larbalestier教授の招待講演を中心として結晶粒間の結合性の報告があり、東京大学をはじめとして、すでにその改善のための努力がなされている。この点に関しては多くの研究者が当初から取り組んできてはいたが、未だに改善されていない点である。さらにJcを上げるにはピン留め点の導入が必要であるが、多くの研究者から、様々なピン留め点導入を目指した上純物添加の報告があった。現在の所、Jcに寄与するのは残念ながらSiC©, C, Alに限られている。以上はバルク、線材を中心としているが、薄膜もまたJc特性の向上が見られている。その中で電子蒸着法によって作製した日立からのJcは非常に高いもので注目すべき値であろう。高いHc2、Tcを示しているペンステートの薄膜であるが、照射による影響やSTMによる分析等が報告されていた。興味深い研究としてはロンドンのインペリアルカレッジの研究があった。MgB2のHc2の挙動はσバンドとπバンドの2ギャップのバンドに影響されることが理論的、実験的にも報告されているが、彼らは2バンドのDiffusivityを測定することに成功しており、今後の研究に期待したい。最後に材料部門からの優秀発表賞はMgB2中への様々な添加物の効果、特にSiCの分布の観察と特性の評価を行ったオハイオ大学のBathiaらが受賞した。以上のようにMgB2はまだ十分注目されている分野であり、今回の会議において解決すべき問題点が徐々に明確となり、早期の実用化に向けた研究も着実に進行しつつあることがわかった。  

  

                      (物材機構:松本 明善)

4 エレクトロニクス関係

   エレクトロニクス分野では、デジタルエレクトロニクス、SQUID、マイクロ波応用、超電導放射線検出器など合計204件の講演が行われた。

  デジタルエレクトロニクスでは、日本のNEDOプロジェクト関係の発表が圧倒的な存在感を示していた。ニオブ系では平坦化構造を用いたニオブ9層プロセス、高臨界電流密度接合による120GHz SFQ (単一磁束量子)シフトレジスタ動作、SFQパルスのチップ間117 Gbps伝送実験など質の高い成果が相次いで発表された。プレナリー講演で吊大の藤巻教授が示した、数十GHz以上の高速動作においてSFQゲートは半導体ゲートより6桁消費電力が小さい、というデータは聴衆に大きなインパクトを与えたものと思われる。また、酸化物系では、酸化物超電導体の4層構造やサンプラー回路向けのプロセス改善が報告された。

  日本の活動に刺激されてかヨーロッパでもSFQ回路に対する関心が高まっている。スウェーデンのChalmers大は、回路設計、測定方法、実装など幅広い研究を行っている。いずれも日本の後追いの感はあるが、アメリカのHypres社のプロセスを使って4350接合の5×5マルチプライヤを動かすなど着実に成果を上げてきている。ドイツのIlmenau工科大はPTBのニオブ系プロセスを利用して初歩的なSFQ回路の動作に成功している。他にもドイツのIPHTオランダのTwente大、フランスのCEAなどがSFQ回路に強い関心を持っている。十分な予算が付いていないので、彼らは規模の大きな回路の開発はできていないが、熱ノイズや昇圧回路などの個別の問題に取り組んでおり、その物理的理解は一般に深いと感じられた。アメリカはHypres社のデジタルレシーバシステムがかなり進捗していると聞いているが、残念ながら彼らの発表はキャンセルされており詳細を聞くことはできなかった。

  超電導量子ビットの研究も非常に盛んであった。超電導量子ビットはコヒーレンス時間の延長と多ビット化が課題であり、多くの研究機関でこれらの解決に向けた研究が行われている。IPHTがフラックス量子ビットを用いて4ビットの結合に成功したと述べていたのが目を引いた。量子ビットへの入出力やフィードバックにSFQ回路を使用する試みが検討されている。現在は、SFQ回路の発熱やノイズ特性が調べられている段階でまだ量子ビットとの結合はなされていない。

  ヨーロッパではPi-shiftのプロジェクトが走っているとのことで、Pi接合や超電導ループを用いたPi-shiftをSFQ回路に適用し、回路面積やバイアス電流を削減することが試みられている。Pi接合はYBCOを用いてTwente大で試作されている。物理としては面白いが、YBCOとニオブのハイブリッド構造となるため、大きな回路を動かすことは難しいと思われる。接合関係では、磁性バリアを含む接合やナノ接合がいくつか発表されていたのが今回の一つの特徴であったと思われる。

   SQUID応用に関しては、SQUID-NDE, 走査型SQUID顕微鏡、MEGシステム, MCGシステム、抗原抗体反応を利用した生体検査、資源探査、低磁界MRIなどに関する発表があり、全く新規な応用についての発表は無かったが、各々着実な進展が見られた。高温超電導SQUIDの開発に関する発表のなかで、JJ作製技術の改良と多層膜磁束トランス、RFフィルタの組み合わせによって、10Hzで3.5 fT/Hz1/2、1Hzでも7 fT/Hz1/2とLTS-SQUIDに匹敵する非常に高い性能のものが発表された。MgB2でのJJ作製の報告もあったが、ようやくJJが出来たところで性能の向上については今後多くの課題が残されているようであった。システム開発においては、Low TcからHigh Tc SQUIDへ、magnetometerからgradiometerへと、手頃な値段で手軽に取り扱えるシステムへの流れがより明らかになってきた。低磁界MRIシステムでは、100 mT程度の磁界で人の腕のMR画像がきれいに撮像できている。この手法は従来の高磁界MRIシステムと異なり体内埋め込み金属が存在する場合にも撮像可能であるというメリットを持つ。

   マイクロ波応用においては、中国で第3世代携帯電話の基地局用超電導フィルタシステムを導入するために現在フィールド試験が実施されている、という発表が大きな注目を集めた。「良好な結果を得て、今後の実用化が期待できる《と精華大学と共同実施しているドイツCryoelectra社は述べていた。また、送信用超電導フィルタの可能性を探る歪特性(IP3)の結果をNTT Docomoが発表し、注目された。超電導バンドパスフィルタの新たの応用の可能性として、雑音除去用超電導フィルタシステムの発表が数件有り、その中で英国Birmingham大の市中ノイズを低減し電波天文の感度を上げるための超電導バンドパスフィルタシステムの提案と、レーダーの受信感度向上を目的とした中国Institute of Physics Chinese Academyの超電導バンドパスフィルタシステムが注目された。特に、Birmingham大のグループは超電導フィルタ研究に大きな実績があり、そこから新たな応用の可能性が提案されたことに意義がある。また、九大からコプレナーウエイブガイドを用いたインピーダンスマッチング法、近畿大からセラミック板をメカニカル機構で独自に移動させるフィルタのチューニング法の発表があった。超電導フィルタシステムは米国で一部実用化されているが、まだまだ世界的に実用化の広がりを見せていない。マーケッティングを広げるための研究が今も続けられていることに改めて強い印象を受けた。

  超電導を利用した放射線検出器の分野では、量子光通信での利用を目指したホットエレクトロン検出器の発表が目立った。これは従来の極低温で動作するSTJ検出器やカロリメータとは異なり、検出効率が低いが液体ヘリウム程度の温度で動作し、半導体のAPDと比較しても非常に高速に読み出せるという利点がある。NISTは従来型の極低温検出器の分野で世界をリードしているが、ホットエレクトロン検出器の研究にも積極的で、今回はロシアとの共同開発による検出器の最新の開発状況を発表した。

   本報告の執筆に当たって、SQUID分野では産総研の葛西直子氏、マイクロ波分野では山形大学の大嶋重利教授、超電導放射線検出器分野ではJSTの宮崎利行氏の御協力を頂いた。

 

(超電導工学研究所:日高 睦夫)