PFM法は超伝導バルクを30~50 Kに冷却し、1~10 ms程度の強いパルス磁場を印加することで、超伝導バルクに磁束を捕捉し強力な磁石にする方法である。しかしPFM法はバルク内での磁束の急激な運動による大きな温度上昇のために、FCM法より捕捉磁場BTが小さいという欠点があった。そこで同研究グループでは、2002年よりPFM法におけるバルク表面の複数点での温度と磁場の測定を詳細に行い、温度上昇Tおよび発熱量Qを解析し、PFM法による着磁メカニズムの検討を行ってきた。これまでの研究から、バルク温度Tsの低温化と、複数回の同一強度のパルス磁場印加によるTの低減が、BTを向上させる重要な点であることが明らかになり、バルク温度Tsと印加磁場Bexを最適化した2段階着磁法(MMPSC法)を新しく考案した[1]。この方法を用いて2005年2月に、30 Kに冷却した直径45 mm、厚さ15 mm のGdBaCuO系バルク表面でBT = 4.47 T (テスラ)の磁場捕捉に成功した[2]。さらに2005年7月に、BT = 5.20 Tを達成し、現在、6 Tを目指した研究開発を行っている(室温空間では2.5 Tの磁場を活用できる)。今回の結果は、これまでの温度測定の研究成果から考案されたMMPSC法の有効性が示されたものであるが、市販のバルクの性能が向上したことも大きな要因である。直径45 mm程度のバルクをFCM法で着磁する場合には、機械的強度の問題から約7 Tが捕捉限界であるようだ。従って、今回の成果は、PFM法による捕捉磁場が一段とFCM法に近づいたと言える。
パルス着磁によるバルク超伝導体への磁場捕捉の向上は、吊古屋大学の水谷宇一郎吊誉教授のグループの先駆的な検討があり、一定温度でパルス磁場強度を変化させて複数回のパルス磁場を印加する逐次パルス磁場印加法(IMRA法)が提案され、30 KのSmBaCuO系バルクに3.80 Tが捕捉したことが報告されていた(図1)。また、複数回の同一強度のパルス磁場をバルクの温度を段階的に冷却しながら印加するステップクール法(MPSC法)が提案されている。今回提案されたMMPSC法は、まずHe冷凍機を用いて比較的高温(Ts = 45 K)にバルクを冷却して、比較的弱いパルス磁場(Bex = 4.5 T)を2回印加して、バルク中心に約1 Tの磁場を捕捉させる。次にバルクを低温(Ts = 29 K)に冷却し、最適な強いパルス磁場(Bex = 6.6 T)を2回印加する。このような2段階のパルス着磁法が、高い磁場を捕捉する有効な方法であることが明らかになった。
また、藤代助教授の研究グループは、複数のバルクを平面上に配列しPFM法で着磁を行う新しいタイプのバルク磁石の開発も行っている。
安価で簡便なPFM法で5 Tを超える捕捉磁場を実現したことは、バルク超伝導体の産業応用を大きく進展させると考えられる。現在、磁性を帯びた材料に有害物質などを付着させ磁気力を用いて分離する「環境浄化用磁気分離《や、リニアモーターカーなどの「磁気浮上《への応用などを目指して研究を行っている。
参考文献
[1] 「バルク超伝導体のパルス着磁方法及び超伝導磁石装置《特願2005-156956
[2] H. Fujishiro, M. Kaneyama, T. Tateiwa and T. Oka, “A Record High Trapped Field by Pulse Field Magnetization Using GdBaCuO Bulk Superconductor”, Jpn. J. Appl. Phys. 44, No.39 (2005) pp. L1221-L1224.
図2 BT = 5.20 Tを捕捉した時の局所磁場の時間変化。
図3 種々のマルチパルス着磁法の比較
(山頭火)