SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.4, August. 2005

5. 無冷媒型15 T超電導マグネット 2機種を完成 _ジャパン スーパーコンダクタ テクノロジー_


 ジャパン スーパーコンダクタ テクノロジー(略称JASTEC)は,無冷媒型としては最高磁場クラスとなる15 Tマグネット 2機種を完成した。

第1の機種は,一般ユーザーへの普及をねらった最高磁場機種と位置づけられる52 mm ボアマグネットである。無冷媒マグネットは寒剤を使用しないため,極低温機器の取扱に慣れていない研究者や技術者に手軽に高磁場を得られる機器として急速に普及してきた。しかし,13 Tを越えるような高磁場では,運転温度が高くなることによる臨界電流密度の低下が著しく,マグネットの設計が困難であった。これを解決するため,複数の冷凍機を用いる,冷凍能力の高いGM-JT冷凍機を用いる,複数の電源を用いて内層コイルと外層コイルの運転電流を変える,などの工夫がなされてきた。しかしそのことにより,無冷媒マグネット本来の特徴である取扱の簡便さが搊なわれ,十分普及するに至っていない。これらの問題点を省み,本来の無冷媒マグネットの簡便さを維持したままで高磁場化を目指すことをコンセプトに,15 T, 52 mm ボア無冷媒マグネットを開発した。冷凍出力1 W (4.2 K)のGM冷凍機1台で冷却するもので,出力125 A x 9 Vの電源1台により30分で励磁できる。

コイルはNb3Sn 1体,NbTi 1体からなる。マグネットの小型化と冷凍機の冷却能力を最適化して,15 Tにおける臨界温度を5.2 Kに設定した。マグネットは約80 hrで最終到達温度3.7 Kに冷却できた。まず60 min / 15 Tの速度で励磁したところ,14.5-14.8 Tで3回のトレーニングクエンチの後15 Tに到達した。その後,30 min / 15 Tの速度でクエンチすることなく15 Tに到達した。この時のマグネット温度は5.1 Kであった。さらにマグネット温度が下がるのを待って励磁を続けた結果,電源の上限である 125 A, 15.5 Tまでクエンチすることなく励磁できた。

本マグネットの設計を担当したJASTEC商品設計部の糸木温子氏は、「本マグネットは冷凍機1台、電源1台で運転でき,30分で15 Tを安定して出せるという手軽さが最大のPRポイント。その後電源を変えてテストした結果16 Tの励磁にも成功した。今後も,より高磁場,小型化,アクティブシールド型などへの展開をはかりたい。《と語っている。

第2の機種は,超電導線材評価用として受注開発した高磁場と大口径磁場空間を兼ね備えた170 mm ボアマグネットである。設計においては液体ヘリウム冷却型高磁場マグネットの開発の成果である高性能超電導線材やクエンチ保護手法を適用し,安定した性能の無冷媒マグネットを完成した。線材は,高磁場NMRマグネット用に開発した矩形断面の高臨界電流密度Nb3Sn線および高耐力Nb3Sn線を使用した。

コイルはNb3Sn 2体,NbTi 1体からなる。安定した性能を得るため,運転温度を5.2 K, 15 Tにおける臨界温度を5.5 Kに設定した。励磁時の熱負荷は,総計3.1 W であり,冷凍出力1 W (4.2 K)の GM冷凍機4台で冷却する。全蓄積エネルギーが約5 MJと大きいため,全体を8セクションに分割し,セクションごとに保護ダイオードを並列に接続した保護回路を用いた。このメカニズムによって,クエンチ時のエネルギーはマグネット全体で緩やかに消費されるためマグネットは健全に保護される。シミュレーションによれば,コイルにかかる最大応力(BJR)は約270 MPaであり,この部分に高耐力Nb3Sn超電導線を用いていることにより特性劣化を生ずることはない。伝熱板に設けた銅パイプに液体窒素を流して予冷することで初期冷却時間は160 hr以下に短縮でき最終到達温度3.5 Kに冷却できた。この状態から90 min / 15 Tの速度で15 Tに到達し,この時のマグネット温度は最大5.3 Kであった。

本マグネットの設計を担当したJASTEC商品設計部の宮田斉氏は,「励磁時の熱負荷に対する効率の良い熱設計と冷却時間のバランスが課題だったが,当社が培ってきた多くの技術と経験を基にこれらの課題をクリアすることが出来た。今後も,より一層ユーザーに満足いただけるよう当社の独自性を生かした無冷媒超電導マグネットの商品化をめざしたい。《と語っている。        

                   今回開発されたマグネットの諸元は次頁の通りである。

15T 52mm bore magnet

Central field (guaranteed) 15.0 T

(maximum) 16.0 T

Ramp time 30 min/15 T

Operating current 121 A/15 T

Field uniformity <0.1%/10 mmDSV

Initial cool down time 80 hr

0.5mT Stray field Axial 4.2 m

Radial 3.3 m

R.T. bore size 52 mm

Overall size (excluding cooler etc.)

820 mm dia. X 680 mm height

GM cryocooler 1.0W@4.2K/50W@43K 1 unit

15T 170mm bore magnet

Central field 15.0 T

Ramp time 90 min/15 T

Operating current 280 A/15 T

Inductance 128 H

Stored energy 5.0 MJ/15 T

Field uniformity <0.1%/10 mmDSV

Initial cool down time <160 hr

(Including LN2 pre-cool)

0.5mT Stray field Axial 7.5 m

Radial 6.0 m

R.T. bore size 171 mm

Overall size (excluding cooler etc.)

980 mm dia. X 1015 mm height

GM cryocooler 1.0W@4.2K/50W@43K 4 units                    

                               



(Occo)