SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.4, August. 2005

2. 推進用バルク高温超電導モータの高出力化にめど _北野精機、東京海洋大、福井大など_


 北野精機株式会社(東京都大田区)、東京海洋大学海洋工学部、福井大学工学部などのグループ(富士電機システムズ、日立金属、かもめプロペラ、新日本製鐵、芝浦工業大学工学部、財団法人国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所、国立高等専門学校機構広島商船高専が協力)は、Y系高温超電導体と同系のGd系超電導体を溶融成長させた結晶の塊であるバルク磁石を、液体窒素(77 K =*196°C)で冷却して多層回転界磁極とするアキシャルギャップ型の同期モータの設計、試作を行ってきたが、このほど大容量化・高出力化をめざした実証機を製作して初期回転試験に成功した。

 これまでにグループは、渦巻き型電機子コイルによるパルス着磁法を提案(本誌Vol.12, No.1)、昨年3月末に発表した試作機(本誌Vol. 13, No. 2)では、8個のバルク磁石から回転界磁1層が構成されていた(http://www.istec.or.jp/Web21/PDF/05_5/all.pdf)。今回は回転界磁を2層実装して複層界磁とした(図1)。モータ内部の回転子上の合計16個の実装バルク磁石を固定子の電機子コイルによってパルス着磁した後、初期回転試験に成功した。バルク磁石の磁場を0.5テスラに着磁した時に15 kW、720 rpmの出力が得られることが明らかにされた。試作機では、バルク磁石に1.0テスラ以上の磁場をパルス着磁できることが実証されている。冷媒の過冷却等によってバルク磁石を66*70 Kに保持させて捕捉磁場を向上させれば、回転界磁が2層のときに60 kWの設計仕様を、また、回転界磁が3層のときに90 kW(いずれも720 rpm)の設計仕様を実現できるとグループではみている。100 kW級が実現すれば現用永久磁石同期機比で3分の1以上の減容が可能となる。

 このモータは次の特徴をもっている:

(1) 直径60 mm、厚さ20 mmのバルク磁石8個を界磁極として1枚の回転子円板上に8個配置して円板の多層化により高トルク化。

(2) 出力軸と一体となった回転子内部に外部からロータリージョイント(図1)を通じて回転子円板内部に冷媒を循環させてバルク磁石を冷却するクライオメカを確立。回転子と電機子の間は真空で風搊はなくブラシレスであり鉄心も使用しない。

(3) 回転子を挟む固定電機子の巻き線に瞬間的にパルス電流を印加することによって、回転子のバルク磁石に瞬間的に磁場を加える。バルク磁石内部に磁場を捕捉(着磁)させた後、磁石の両面を界磁として有効利用する。

(4) 回転界磁内部のバルク磁石だけでなく電機子コイルも循環冷媒で冷却している。

(5) 機械的な衝撃なく必要に応じて何度でも着磁ができる。

モータの体格はトルクで決まるが故に、従来の低速多極機は大きな体格になっていた。これは磁束(磁気装荷)が小さく体格の寸法でトルクをかせいでいたからである。今回の成果から超電導バルク磁石を冷却して回転させる高温超電導モータにおける基本的な技術課題が殆ど解決され、高トルク小型推進用モータとして本格的な特性を調べて製品化研究をする段階にきた。グループでは液体窒素以外の冷媒や小型冷凍機を用いた、より取り扱いの容易な冷却システムも研究しているという。

高温超電導バルク磁石が、その寸法の領域に、永久磁石では実現上可能な強磁場を生成保持できる性能を示すことは大きな特徴である。超電導線材コイルや鉄心つき界磁巻き線では、1テスラを生成するためにも相応のコイル寸法と励磁電流を必要とする。永久磁石同期機を凌ぐ小型軽量化、高トルク化が実現すれば次世代の多様な移動体の推進モータや発電機として急速な普及展開が期待できる。

また、財団法人国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所バルク研究開発室が、直径140 mmに至るGd系バルク磁石の作製に成功している(本誌Vol. 13, No. 6)。グループでは、「このような大型バルク磁石が実用化されれば、回転機のさらなる高出力化をもたらす。また実際の製品では多層回転界磁にバルク磁石と永久磁石を含んだハイブリッド型も考えられる《としてモータの完成をめざすという。また、かもめプロペラ株式会社の石野清常務は「100 kWクラスが実現すれば、船舶用スラスターの駆動源がこのクラス前後からであり、実用のレンジにはいってくる《と語っている。

                                             


図1-1【上図】高出力型多層界磁バルク高温超電導モータ内部横断面概観図 (回転界磁が4層の場合)


図1-2【下図】3層界磁3層バルク高温超電導モータの概念図


図2 複層界磁型バルク高温超電導モータ回転試験写真


図 発表グループによるバルク高温超電導モータ開発の流れ

(深川越中島)