SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.4, August. 2005

11. 書評:入門磁気活用技術


 能登宏七 監修 工業調査会発行 本体価格2800円 ISBN4-7693-1240-7 C3055 A5判 232頁

   磁場は人類にとって身近な存在であるが、それを産業プロセスに応用しようという試みはごく最近まで行われてこなかった。これは、多くの物質が常磁性あるいは反磁性体であるため、磁化すなわち磁気力が非常に弱く、その影響が顕著に現れなかったためである。

   しかし、最近の超電導技術の進展によって、地磁気の20万倊という大きさの磁場が、比較的簡単に得られるようになり、専門家ではなくとも強磁場を利用できるようになってきている。この結果、数多くの分野で材料プロセスや化学反応に及ぼす磁場の影響に関する研究や、磁場を積極的に新素材開発などに利用しようという研究が活発化している。最近では、強磁場を利用した磁気分離型水浄化システムという新しい製品も登場している。

   本書は、磁気活用技術にいちはやく着目し、科学技術振興機構から支援をうけて、磁場を利用して地場産業ならぬ磁場産業創製を目指して活発な研究開発を行った岩手県の地域結集型共同研究プロジェクトに参加した研究者がまとめたものである。プロジェクトリーダーの能登先生をはじめ、第一線で活躍している研究者が執筆陣に吊を連ねており、この分野の最先端を知ることができる。ただし、単なる研究報告とは異なり、基礎的な解説からはじめて、素人にも分かりやすい文章で書かれているので、専門家だけでなく、一般の人にも、この分野の現状が理解できる内容となっている。

   磁場活用に関しては、強磁場だけでなく、超電導を利用して、地磁気の100万分の1という非常に弱い磁場を検出できるようになっており、その利用研究も進んでいるが、本書は、もちろん磁場計測技術に関しても解説している。今後、医療や非破壊検査の分野などで、ますます重要性が大きくなる分野である。  本書は、磁気活用に興味をお持ちの産業界や大学などの研究者には必須と思われるが、それだけでなく、大学の学生や大学院生にとっても、この分野を知るよい参考書となろう。また、専門外の方でも、分かりやすい内容となっているので、今後の研究のヒントやアイデアを得るという意味でも、幅広い分野の人に、一読することをお勧めしたい。                                   

                     

(田町MM)