SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.4, August. 2005

1. 無冷媒高温超伝導マグネットの世界最高磁場 (18.1T) を達成    _東北大学金研、東芝_


 東北大学金属材料研究所の渡辺和雄教授の研究グループと(株)東芝は、無冷媒高温超伝導マグネット(図1)の開発により、世界で初めて52 mmの実用的室温実験空間に18.1 Tの強磁場を発生することに成功したと発表した。 東北大学の研究グループは、1992年に世界で初めての4 T無冷媒超伝導マグネットの実用化に成功して以来、これまでに15 Tまでの磁場発生を実現させてきた。今回、Bi2223高温超伝導体を内挿コイルとして用いることにより、この記録を大きく更新させることに成功した。

 高温超伝導体が発見されてから19年を数える現在においても、高温超伝導体の実用化は,無冷媒超伝導マグネットの構成要素の1つである高温超伝導電流リードだけで,これまで高温超伝導体のマグネット応用はほとんど行われてなく、超伝導パワー応用本来の高温超伝導線材を用いた強磁場超伝導マグネットの開発研究はやっと始まったところである。

今回開発した高温超伝導マグネットで、今後20 T級の強磁場応用が手軽に拓かれていくものと期待される。 無冷媒超伝導マグネットの運転の特長は、1) 超伝導マグネットの初期冷却や液体ヘリウムの貯液そしてその補液などの労力が一切上要であり使いやすい、2) 液体ヘリウムの補給のために超伝導マグネットの運転を中断することがなくなり、強磁場を発生したまま極めて長期の実験が可能となる、3) 非常にコンパクトな強磁場超伝導マグネットが実現できるために、これまでに組み合せが困難であった装置と容易に一体化ができる、4) 超伝導マグネットは真空状態で運転されるために、コイルのクエンチに対して非常に安全である、5) 真空状態のクライオスタットの内部には光などの進行を妨げるものがないことや、液体がないためにクライオスタットの置かれる向きに制限がないことなど、液体ヘリウムを用いるクライオスタットとは異なるユニークな装置の開発ができるなどが挙げられる。

図2に本マグネットの構成を示す。高磁界を効率的に発生するために,超伝導コイルは,同心円状に配置された6個のコイルから構成されている。

一番内側は,通常は20 K前後の温度で使用されるBi2223高温超伝導材を用いた高温超伝導コイル(H1)を4~6 Kの低温で使用することにより,高磁界でより高い超伝導特性をもった超伝導コイルとして利用している。また,高温超伝導コイルの外側には,低温超伝導材の中で高磁界特性の高いNb3Sn導体を用いたNb3Snコイル4個(L1-L4)を配置,一番外側に低磁界で高い超伝導特性を示すNbTiコイル(L5)を配置することによって,効率的に磁場を発生している。

高磁界を発生するためには,高磁界で高い電流密度で電気が流せ,しかも大きな電磁力に耐えうる超伝導導体が求められるが,今回,Nb3Snコイル4個(L1-L4)のうち,応力の厳しい3個のコイル(L2-L4)には,強磁場超伝導材料研究センターで開発した高強度のNb3Sn導体が使用されている。

一方,超伝導コイルを極低温に保持するため,超電導コイルは真空容器の中に格紊され,さらにGM冷凍機にて,50 Kレベルの温度に冷却された輻射シールドに囲まれている。また,超伝導コイルそのものは,GM-JT冷凍機と呼ばれる小型冷凍機を用い,伝導冷却されている。GM-JT冷凍機は,通常の無冷媒超伝導マグネットに使用されるGM冷凍機にJT膨張の回路を組み合わせることによって,4 Kレベルでの冷却効率を高くしたものであるが,この冷凍機の採用により,長時間通電時の使用電力量を全体で35 %程度削減した。

また,超伝導コイルへの熱侵入を低減するため,電流導入部には極低温で,熱伝導の低い高温超伝導材を電流リードとして採用されている。この他,真空容器内部には,超伝導コイルがクエンチした場合に,コイルを保護するための保護回路が設けられている。

今回の開発を行った東北大学の渡辺和雄教授は,「これまで18 Tクラスの磁場を出すためには,水冷マグネット,液体ヘリウムに浸漬冷却した超伝導コイルあるいはハイブリッドマグネット(超伝導マグネットと水冷マグネットを組み合わせたもの)を利用するしかなかったが,これらのマグネットでは,電力や液体ヘリウム使用に起因する時間的制約を受けていた。今回のマグネットは超伝導マグネットだけで,しかも超伝導マグネットの運転に一切液体ヘリウムを使用しないことなどから,時間的な制約にとらわれることもなく,材料創製,たんぱく質の構造解析など強磁場を用いた研究に大いに貢献するものと期待される」と述べている。

                               


図1 18T無冷媒高温超伝導マグネット


図2 18T無冷媒高温超伝導マグネットの構造

(萩の月)