SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

9. 超電導電力ケーブルの米国における開発状況


 米国において、電力取引の自由化に伴って、広域停電の頻発、電力会社の経営危機などの多くの問題が発生した。この中で、電力市場の制度設計の上備といった運用システムの問題とともに、電力輸送系統に大きな問題があることが明らかになってきた。そこで、米国はエネルギー省(DOE)の中に送配電局(OET&D)を作り、2003年7月にアメリカの電力系統の将来構想を示したレポート“Grid 2030”を発表した(折しもその1ヶ月後に5千万の世帯が停電となった有吊な北米の大停電が起きた)。この報告書の中で、HTSは電力輸送システムに革命をもたらす潜在能力があるとの期待が述べられている。

OET&DはHTSケーブルについて2010年には3.2 km, 138 kV/600 MWのものを実現することを目標に設定し、これに対応して現在アメリカでは表1のような3件のプロジェクトが政府半額補助のSPIの枠組みで行われている。これらのプロジェクトで開発されるケーブルシステムはそれぞれ特徴を用いる。SuperPower社のものは、一つのクラオチューブの中に3心コアを入れた3相一括型で(超電導シールド導体付き、低温絶縁(CD))一本のケーブルで3相電力を送る。ケーブルの全長のうち300 mはBi系銀シース線材を用いているが、残りの50mはY系線材を用いる。ケーブルの製造はBi系の部分Y系の部分共に住友電工が担当しており、線材はBi系は住友電工が、Y系はSuperPower社が供給する。ケーブルの構成そのものは東京電力/住友電工で開発された100 m長の3相一括型のものと同様である。AMSC社は単心型(超電導シールド導体付きCD)で3本のケーブルにより電力を送る。送電電圧が13.8 kVと他の方式に比較し、4倊から10倊高く、日本では送電電圧のレベルである。ウルテラ社のケーブルはCD方式で3相を同心ケーブル状に巻き、1本のクライオチューブに入れたものである。この型式ではシールドの必要がなく、ケーブルのスペースファクターが良く、他のものより非常にコンパクトなケーブルを作れる。しかし、同心導体間には送電の相間電圧がかかるため,絶縁耐圧の観点からすると送電電圧を大きくするのは上利になる。これらのプロジェクトではいずれも電力系統につながれ2006年に運用が開始される予定である。さらにこれらの試験が成功すれば、具体的な次期計画が考えられている。

以上のように米国の超電導ケーブル開発は相当に積極的に行われている。その具体的背景として、米国には電力需要が年率5 %程度で大きく伸びている地域が多くあること、電力の取引の自由化に伴う電力輸送上の隘路が新たに発生し、送配電網の強化が必要になってきたことがある。

本年の3月に未踏科学技術協会により,アメリカの3つの超電導ケーブルプロジェクトのそれぞれの責任者が来日し,日本のSuperGMの500 mケーブルプロジェクトの関係者とともにワークショップが開催された。その中で、超電導ケーブルをビジネスとして成功させるという視点からの話があり、その中からAMSC社とSuperPower社からの2氏の話を紹介する。AMSC社の先進超電導電力系統機器開発部長のM. McCarthy氏は超電導電力ケーブルの利点として以下の点を挙げていた。

・ ケーブルルート長の短縮/低電圧化:高需要密度地域間を高圧の基幹線路を介さず直接つなげられる。
・ 制御性:ACケーブルでDCリンクのBack to back並の電力の流れ制御が可能。
・ 系統の延命効果:低インピーダンスケーブルにより、既存システムの利用率を向上させ、広範囲での系統のup- gradeを遅らせたり避けることができる。
・ Soft costの利点:設備導入期間の短縮,設置による周りへのインパクトの低減、周りの資産の低減抑制、発電機 の立地の拡大、ラインの混雑に伴うコスト低減。
・ 系統容量の増強により信頼度に関わる制約緩和。
・ 競争力強化:強化された系統は電力市場化に伴う問題の構造的な処方になる。

実際にMcCarthy氏は、超電導電力ケーブルを特定地域に導入した場合のメリットをシミュレーションによって評価するソフトを開発しており地域の政府に超電導ケーブルを売り込む活動をしている。また、SuperPower社の社長のP. L. Pellegrino氏(同氏はニューイングランドの系統運用会社(ISO)の元社長である)は,電力会社は1番手のことはしたがらず、しかし、2番手の中で1番になりたいという気持ちを持っており、従って、超電導ケーブルについても誰かが1番手をやることを待っている状況である。従って、1番手は自らやらざるを得ない。このような観点に立って、超電導ケーブルがビジネスとして成功するための戦術(戦略ではなく)を具体的に考えているとのことであった。すなわち、電力会社の経験のないことを替ってすることで、たとえば超電導ケーブルを維持するためのフィールドクルーの教育、低温アレルギーに対するソリューションとして“Buy cold model”という新しいビジネスモデルを作り上げることである.“Buy cold model”というのは低温に関して技術とノウハウを持つ会社(SuperPower社のプロジェクトにおいてはBOC社)からケーブルを低温に保つという機能を買うというビジネスモデルである。

以上のように超電導ケーブルのハードウエアの開発とともに、それをいかにビジネスとして成立させるかということもしっかり考えられており、超電導ケーブルがアメリカにおいては実用化に大いに近づいている観を持った。


表1 アメリカの超電導ケーブル開発プロジェクト 

  (横浜国立大学 塚本修巳)