SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

8. 超伝導バルク材の熱的・機械的特性に関するデータベース公開_岩手大学2学部_


 岩手大工学部材料物性工学科の藤代博之助教授、機械工学科の片桐一宗教授らの研究グループは、これまでに測定したREBaCuO系バルク超伝導体の低温・強磁場下における熱的・機械的性質をまとめたデータベースを作成し、インターネット上で公開している。(熱的性質:http://ikebehp.mat.iwate-u.ac.jp/database.html 、機械的性質: http://paris.mech.iwate-u.ac.jp/sc-bulk/database.html).

バルク超伝導体の工学的応用や基礎物性解明において、熱伝導率や熱膨張などの熱的特性や、ヤング率や破壊強度などの機械的特性は重要なパラメータである。岩手大学の研究グループでは、これまでに低温(4~300K)、強磁場(0~10T)におけるこれらの物性評価技術の確立と測定装置の開発を行ってきた。この装置を用いて、これまでに同和鉱業、新日鐵、超電導工学研究所で作製されたY系、Sm系、Gd系、Dy系、Nd系、Ho系の50種類以上のバルク超伝導体のab面内とc軸方向の測定を行い、学会や論文誌に数多く発表してきた。岩手県地域結集型共同研究事業(平成11~16年度:研究総括 能登宏七岩手大学吊誉教授)の一環として進められたこれらの研究成果をデータベースとしてまとめ、昨年9月よりインターネット上での公開をスタートした。すでに5月末現在、熱的特性には約790件、機械的特性には約1150件のアクセスがある。このようなバルク超伝導体に関する系統的なデータベースは国際的にも存在せず、研究者や技術者にとっては重要なデータである。表1に測定項目の一覧を、表2に掲載されているバルク超伝導体試料の一覧を示す。

REBaCuO系バルク超伝導体は、RE123超伝導相、RE211非超伝導相、Ag、Ptなどからなる複合材料であり,その熱的・機械的性質は、RE元素の種類、RE123相の超伝導性や配向性,その他の相の含有量や分散状態などにより大きく異なる.研究者にとっては個々の試料のデータはもちろんのこと、RE元素や各相の配合比の異なる試料間の関連についても興味が深いが、一般的なデータベースでは客観的な数値データのみで、相互の関係が理解できない。今回のデータベースは各試料のデータばかりでなく、試料間の相関、影響因子およびその学術的な背景・因果関係を明らかにして、応用や基礎物性の理解に役立つよう工夫されている。藤代博之助教授は、「データベースに掲載されている物性値はマクロな物理量だが、試料間の関連を理解し他の測定結果も含めて総合的に検討することで、ミクロな性質を知ることが出来る。工学的応用のみならず、基礎物性の理解のためにも重要なデータだと考えている《と話している。

バルク超伝導体の特性は年々向上しており、現在も新しいデータを逐次追加し更新している。また現在、酸化物超伝導線材や低温で使用される各種材料(例えば、有機繊維、FRP、合金材料)の測定や、異種物質の接続による接触熱抵抗の評価なども行っており、今後このデータベースへ追加してゆく予定という。バルク超伝導体を含めた総合的な熱的・機械的データベースの構築が、低温工学、超電導工学の発展に役立つことが期待される。


 

  (山頭火)