SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

7. Y系線材開発の進展_フジクラ_


 近年IBAD法を用いた100 m級の長尺Y系線材の試作が日米で相次いで報告されている。IBAD法は基板の2軸配向化処理を必要としないため機械的に充分強く取り扱い易い合金テープを使用出来るほか、さらに鋭く配向した平滑な中間層表面が簡単に得られることから、他の方法に先行して特性の更新が進む傾向がある。㈱フジクラでは一貫してIBAD法によるY系線材の開発を続けてきており、昨年の段階で250 mを超える高配向Gd2Zr2O7中間層の成膜に成功していたが、今回PLD法によって217 m長にわたってYBCO層の連続成膜を実施し、初めて200 mを超えるY系線材の開発に成功した。217 m全長で臨界電流値88 Aを得、Icと長さの積は19096 Amに達した。

フジクラでは1999年度から経産省の超電導応用基盤技術開発プロジェクトにおいてIBAD法中間層の長尺化技術開発に取り組み、第一期の2002年度までに100 m級の技術を開発した後、2003年度より開始された第二期においては500 m級線材プロセスの開発を行っている。昨年までに第一期で開発した100 m級プロセスを用いて300時間以上の連続無停止成膜を達成し、255 m長の高配向IBAD-Gd2Zr2O7中間層の作製に成功した。100 m級の技術については開発プロジェクト内でISTEC-SRLに供与され、プロジェクト内で他の研究機関に同中間層が供給されている。500 m級プロセスにおいては大面積化によって5 m/h以上の生産速度を達成する大型装置の開発を実施しており、これまでに110 cm×15 cmの大型アシストイオンソースにおけるビーム均一性の確保に成功し、110 cm×25 cmの大面積ホルダー上で = 10*20°の配向Gd2Zr2O7中間層を一様に成膜することに成功した。IBAD中間層の生産速度は、充分な配向性を得るまでに必要な膜厚に依存するが、最近になってテープ基板表面を充分平滑に研磨することによってこれを低減できる可能性が出てきた。図1は表面粗さが10*20 nm程度の圧延仕上がりの基板と、表面粗さを1*2 nmにまで電解研磨した基板を用いて、同一条件でIBADによって成膜したGd2Zr2O7中間層の断面TEM写真であるが、柱状組織のコントラストに明瞭な違いが観察され、研磨した基板上においては基板との界面付近から配向する傾向が見られることがわかった。研究担当者の金子直貴氏は、今後平滑基板上における中間層の成長状態をより明確にし、実プロセスの線速向上を図って行きたいと述べている。

Y-123超電導層及び界面キャップ層の成膜については、フジクラにおいては一貫してレーザ蒸着法を採用している。キャップ層については昨年度より自己配向CeO2層を用いており、IBAD-Gd2Zr2O7中間層上にこれを挿入することによって超電導層のは3*4°程度となっている。昨年までに105 m長においてIc = 126 Aの特性を得ていたが、今回200 m長以上の連続成膜を実施した結果217 m長でIc = 88 Aを得ることに成功した。部分的に成膜条件が充分でない箇所があるために全長でのIcが低くなっているが、ほぼ全領域で90 A以上であり、部分的に150 A程度のIcが確認された。図2に本線材の超電導特性測定の準備状況を示す。短尺の線材については、世界的に1 cm幅あたり300 Aから400 Aの特性が各種の方法で報告されてきており、フジクラにおいても10 cm長で340 AのIcを達成している。研究担当者の須藤泰範氏は、100 m級長尺線材について100 Aを超える程度のIc特性を得る技術は確立されている。膜厚を厚くするにつれて最適成長条件が狭くなり歩留まりが低下する傾向があるが、現在短尺線材において厚膜の歩留まりが急速に向上してきており長尺線材についても充分特性向上が可能であると述べている。現在は当面の目標として200 m以上で200 AのIcを達成するべくプロセス改善の努力を継続している。プロジェクトの最終目標としては500 m以上でIc > 300Aという目標を掲げているが、これを達成するために新しい装置の導入を進めている。ここでは複数の大型エキシマレーザを用いたレーザビームスキャンによる蒸発プルームの大面積化などによりプロセス線速の向上を図るとともに、外部加熱を併用した基板温度制御等によってより安定した成膜環境を探るなど、新しい試みを併せて検討しており、その効果が間も無く報告されることを期待したい。


図1 表面仕上がりの異なる基板上におけるIBAD-Gd2Zr2O7中間層膜の断面TEM写真
(左)圧延仕上がりの金属基板
(右)電解研磨を行った金属基板


図2 217 m長に亘って成膜されたY123線材の外観

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