SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

5. CERNのLHCにCMSソレノイドが完成!_ヨーロッパ共同利用研究所_


 ヨーロッパ共同利用研究所(CERN)のLarge Hadron Collider(LHC)に設置されるCompact Muon Solenoid(CMS)の心臓部である巨大な超伝導ソレノイドがこのたび完成した。今までに建設されたもののうち、最大である当ソレノイドは、5個の大きなマグネットを直列に接続して形成されている。最初の5個のモジュールは、2004年2月に検収された。残りのCMSソレノイド部品の組み合わせ整備は、この夏に完了し、試験は今年末までに行われる。この建設プロジェクトは、約10年の歳月を要したという。(Superconductor Week誌3月28日号 Vol.19 ,No.6 )

約5億スイスフラン(4億2400万ドル)の全プロジェクトコストの内、ソレノイドのコストは1億2000万スイスフラン(4億200万ドル)である。マグネット及びマグネットシステム製作は、産業界によるCMSプロジェクトへの最大の貢献を成している。CMSプロジェクトへ参加している多くの国々の企業に契約が与えられている。本ソレノイドを構成する5個のマグネットモジュールは、イタリーのAnsaldo Superconductors社によって製作された。各モジュールは、孔径6.3 m、外径6.9 m、長さ2.5 m、重さ45トンである。

組み上がったソレノイドは、長さが12.5 mで重さは225トンである。マグネットコイルは、2000の巻線と20,000 Aの公称電流を持っており、42.5 Mアンペアターンの起磁力を発生する。これは、2.6 GJの蓄積エネルギー(278 kWまたは 947.8 BTU即ち25 lの油に含まれているエネルギーに相当)に対応する。CMS実験は、3 T以上の磁界が必要であり、当ソレノイドは4 Tの磁界を発生するように設計されている。

マグネットは、中に置かれたサブ検出器システムの機械的支持構造として役立っている。マグネットを取り囲む5個の車輪と2個の終端キャップから成り立つ12500トンの鉄構造は、それが無ければ動揺を引き起こす磁束線の動きを押さえ込む働きをする。完全なCMSシステムは、直径が15 mで長さが22 mである。

全体のマグネット集合体は、高純アルミニュウムから成る巨大な熱シールドの内部に置かれる真空槽に収紊されている。この熱シールドは、CEAサックレーの指示に従って、イタリーのクライオテックが製作したもの。冷凍機システムは、CERN及びCEAの監督の下Air Liquideが製作した。このシステムには、高純のHeコンプレッサー、Heコールドボックス、液体He貯蔵を含む中間領域クライオスタット、互いを連結する高・低圧パイピング、4.5 K及び70 K He輸送チューブ、液体窒素供給システム等が含まれている。

冷凍システムは、4.45 Kに於ける800 Wの等温冷却とHeガスを用いて60 K / 80 K間の4.5 kW非等温冷却を行うよう指定されている。液体へリウムを用いて、4.5 K / 300 K間の電流リードを冷却する事になろう。

CMSコイルは、CERN、CEA、INFN及びETHチューリッヒを含めた協同作業チームで設計された。Ansaldo Superconductors社は、CEAが作成した予備的図面を取り込んで設計した最終図面を含む一連の製作技術を提供した。Genova市にあるイタリー原子力物理研究所(INFN)が建設技術と冷熱物製作に責任を負っている。INFNは構造に関する有限要素法解析(機械的、熱的、磁気的)などの技能工学的検討を実行した。

INFN研究者で且つプロジェクトスポークスマンであるP. Fabbricatore氏は、「高品質のマグネット巻線はCMSマグネットプロジェクトの最大の成果の1つだと思う。INFNとAnsaldo Superconductors社は、超伝導ケーブル巻線の微妙なフエイズを創造する製造プロセスについて検討する為共同した。この協同作業により、コイルモジュールをエポキシ中に固定した。それは、熱発生に繋がる振動を防ぐため、強固な母材で最小の隙間を埋める事が可能な真空法を援用して行われた。《と語った。Fabbricatore氏は続けて、「超伝導ケーブル中の欠陥を避ける為に、新しい溶接技術が開発された。数kmの超伝導ケーブルをエポキシ樹脂中に固めると共に、完全な巻線を保証する為に特別な装置が発明された。数mの大きさに対して1 mm未満の機械的精度が要求された。《とコメントした。

Fabbricatore氏は、CERNとポリテクニック・チューリッヒが開発したCMSマグネット用超伝導ケーブルの複雑性について述べた。当ケーブルは、多数の成分から成り立っている。第一のNbTi素線(フィンランドのオートクンプ社が製造した)はスイスのブラッグ社により32ストランドケーブルに巻き込まれた。それから当ケーブルは、スイスのNexans社で99.998%高純アルミニウムとともに共有押し出し加工に附された。次いで押し出し加工を経た当ケーブルは、マグネットの強大な電磁力に対抗する為に、2つのアルミ合金の帯で補強された。これらアルミニウム構成物は、フランスのテクメータ社により当応用のため特別に開発された70 m長の専用製造ラインで、連続電子ビーム(EB)溶接法によって組み合せ集合が行われた。EB溶接は、線材の製造に於いて最も重要なプロセスであり、挑戦的課題を提起した。

テクメータ社営業部長のJ. Carroz氏は、「主な挑戦課題は、各2.5 km長の超伝導線に対して20時間続くEB溶接作業を保証する事であった。超伝導線の素線が局部的過熱により搊傷するのを避ける為には、加工中の予期せぬ停止は許されない。我々は、テクメータ社CT 4電子銃(極めて安定な放射陰極と長寿命を持つ)を使用する事によりこの課題を解決した。ついで、電子銃の高電圧制御システムの改良を行い、プロセスの間中アルミニウム蒸気の連続生成による電子銃中の放電を防ぐ反閃光システムの導入を行った。最後の課題は、完全な空気*真空*空気プロセスの間中、真空室内部を約0.0001 mbarの真空度に維持する事であった。これは、我々が40年以上の経験を持つ領域ではあるが。《と語った。

溶接加工後、当導体は要求される寸法と表面仕上がりを得る為に、4側面と各コーナーに連続的に切削加工が施された。斯くして、2.5 km長のケーブル20条が当コイルのため製造完了した。

  (こゆるぎ)