SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

4. 将来の省エネ・環境型物資輸送システムを担うピン止め型超電導磁気浮上ガイド
_産業技術総合研究所_


 情報化社会の中、情報ばかりではなく物資も素早く、安全に輸送されることが望まれる。現在の輸送方式では、大きな走行抵抗を負いながら輸送するため資源エネルギーの大量消費、有害物質やCO2の発生などにより環境悪化への影響が著しい。解決策としては、走行抵抗を極力小さくすることである。

(独)産業技術総合研究所 (略称:産総研)エネルギー技術研究部門の岡野眞主任研究員は、輸送システムの支持ガイドとしてバルク酸化物超電導体を利用したピン止め型超電導磁気浮上ガイドに早くから注目し、ピン止め型超電導磁気浮上ガイドが載荷力および走行安定性に優れ、走行搊失も極めて小さいことを実証した(2004年度秋季低温工学・超電導学会、超電導応用研究会(2005年3月)、 ISTEC超電導技術動向報告会(2005年5月)などで発表)。

超電導磁気浮上ガイドの走行性能や走行搊失を測定するための走行試験路は、磁気レールと呼んでおり、図1に示すように直径12 mのサークル状で、Nd-B-Fe希土類永久磁石と鉄板とで構成されている。磁気レールの一部と磁気レール上を走行する磁気浮上走行車両の写真を同図に示す。走行車両の大きさは、超電導体と冷却媒体の液体窒素を収容する真空断熱容器の外郭で200 mm×250 mm×50 mm、車両重量は、液体窒素を除いて約7 kgである。大気中での走行試験の結果、空気圧縮機の容量上足から最高速度は、時速42 km程度(数値解析結果からは、重量7.5 kgの車両が直径12 mのサークル状磁気レールでピン止め力が遠心力を支えうる最大速度は、時速約80 km)であったが、非常に安定な走行が得られた。また、図2に示すようにフリーランによる車両の速度低下は、ほとんど空気抵抗によるもので磁気浮上ガイドの磁気的搊失は、非常に小さいことを明らかにした。

これらの結果から2001年の春季低温工学・超電導学会で同氏が発表した図3に示すような主に惰性走行による省エネ・環境型物資搬送システムの可能性が示唆された。小規模システム(輸送路断面径30 cm程度)の実用化としては、生体臓器、輸血製剤や血清などの緊急輸送をする医療関係物資輸送ネットワークが適当と思われる。また、大規模としては物流システムへの応用であるが、インフラと初期コストの問題が大きく浮上してくる。初期コストに関しては、バルク酸化物超電導体が現在の1/10程度に、Nd系永久磁石では、数十分の一から百分の一程度に低減する必要がある。ただし、輸送路が長くなれば大量生産によりNd永久磁石のコストの問題は軽減する。このシステムに関する実用化の検討は、始まったばかりであるが、CO2の削減には大きな効果があると考えられ、今後の発展が期待されるものである。


図1 製作した直径12 mの超電導磁気浮上ガイドの走行試験装置


図2 フリーランによる走行搊失


図3 提案したピン止め型超電導磁気浮上ガイドと減圧走行路を用いた省エネ・環境型物資搬送システム

  (MAKOLEV)