SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

11. 〈 第71回 2005年度春季低温工学・超電導学会報告 〉


 1. RE123線材

本セッションでは、IBAD法を用いた長尺線材の開発に関してフジクラとSRLから合計5件、RABiTS法を用いた開発に関して住友電工から1件の発表があった。

フジクラからはIBAD+PLD法による研究開発状況について3件の講演があり,飯島からは配向度(ΔφやΔω)と磁場中のJcの関連性についての報告があった。第2中間層をCeO2とY2O3にすることで配向度の異なる試料を作製して、磁場中のJc、及び磁場とc軸の相対角度とJcの関係を検討した結果、配向度が高くJcの高いYBCO膜の方が、配向度が低くJcが低い膜より、Jcの角度依存性が大きく、Jc (H ⊥ c軸) : Jc (H // c軸)の比が大きかった。また,c軸に対して45°方向から磁場を印加したときのJcの磁場依存性は、配向度の異なる試料間で差が無いのに対して、c軸に平行に印加した場合には配向度の高い試料の方が磁場によるJc低下が少ない。これを解釈するために,ランダムポイントピンニングとc軸方向に向いた線状のピンニングセンター、膜面に平行な磁束を横切る弱結合ネットワークなどを考慮して考察を行う必要があると提案した。金子はハステロイテープ表面の凹凸が小さいほど中間層の配向度が向上することを報告し、ハステロイテープを電解研磨することでRa = 0.5-3.5 nmと非常に平滑な表面を実現した。また,110×15 cmの大型イオンソースを用いることによって、中間層の形成速度を従来の1 m/hから10 m/hと大幅に向上させることに成功した。須藤からは、YBCO層の加熱温度を膜厚に応じて変化させることで1.8μm厚のYBCO層でも2 MA/cm2Jcを得ることに成功したこと、217 m長の長尺線材を作製し、Ic = 88 Aを達成したことが報告された。

SRL-NCCCの宮田らは、IBAD法による2軸配向メカニズムについて報告した。<100>軸、<111>が基板面に垂直に揃ったGd2Zr2O7膜を作製し、55°の方向からイオンビームを照射し、それぞれの膜のエッチング速度と結晶性を評価したところ、<100>配向膜の方がエッチングされやすく、イオンビーム照射後の<111>配向膜では結晶性が低下するが<100>配向膜ではほとんど変化しないことを見出した。これらの結果から、IBAD法での2軸配向メカニズムは、アシストイオンビームによる再スパッタによるものではないと結論づけ、イオンビームによる結晶へのダメージの差が、2軸配向をもたらしているという可能性を提案した。また衣斐らは、IBAD基板上にマルチターン・マルチプルームPLD法において、基板の巻きまわし数を従来の3ターンから4ターンに増加させることによって成膜速度の25 %向上に成功したことを報告した。3 ~ 4 m/hの低速で作製した短尺線材においては2.5μm厚で340 A(幅10mm)、高速度で成膜した90.6 m長の長尺線材においても210 Aと非常に高いIcを達成している。

住友電工の長谷川らはHoBa2Cu3O7/CeO2/YSZ/CeO2/Ni合金と超電導層にHoBCOを用いたスタンダードなRABiTS法による長尺線材の開発状況について報告した。Ni合金テープのΔφは6°で、最終的なHoBCO層のΔφも6°程度である。117 mの長尺線材を作製し、Ic =110 A、平均Jc =1 MA/cm2と高い特性を得ることに成功している。

本セッションで報告された長尺線材は何れも100~200 m級、Icも100~200A級と非常に高い性能を有しており、フジクラ、SRL、住友電工は実用化に向けて着々と開発を進めつつあることが伺われた。

  (鹿児島大学 土井俊哉)

2. RE系バルク

ここではY123およびRE123系バルク体、Bi系バルクに関して、口頭発表を中心に報告する。

 東京大学の内田・下山らのグループは、Bi(Pb)2212単結晶の臨界電流密度改善のため、CaサイトをYおよびLuで0.5%以下の微量置換する効果について調査した。その結果、3d元素置換ではTc低下をもたらすのに対し、希土類元素置換の場合には各試料のTcの差異はなく、希土類元素を0.2 %以下置換することで低磁場領域のTcの改善があることを報告し、この理由としてイオン半径の差による希土類元素周辺の局所的な格子ひずみの可能性を指摘した。東北大学の高橋らは、Bi2212系のように結晶粒のアスペクト比の大きな材料のE-J特性と局所的なJc分布の関係を対応づけるため、パーコレーションモデルにおけるJc分布関数として面内方向とc軸方向に別々の分布関数を与えて解析を行い、実際の測定とよく一致すると報告した。質疑応答では、Jc分布関数として2つの分布の和をとることの物理的な意味・妥当性などについて活発な議論が行われた。

RE123系バルクの成長プロセスと特性について、東京大学の中島・下山らのグループはHo123溶融体の作製に関して、a軸成長領域とc軸成長領域の結晶性を比較し、徐冷過程でa軸成長領域では過冷度が増大していくのに対し、c軸方向に温度勾配をつけることでc軸成長領域では界面過冷度を一定に保ちやすいため結晶配向の乱れが少ないことを示し、その良好な結晶性とJc特性からc軸成長領域を多くとることが有効であると報告した。

RE123バルク体の捕捉磁場特性に関して、京都大学・明星大学の中村らのグループはGd123バルク体の捕捉磁場特性に対して、上可逆磁場とパーコレーション遷移の観点から検討し、遷移温度近傍では温度の揺らぎが捕捉磁場の減衰に大きく影響すると報告した。岩手大学とイムラ材料開発研究所の立岩らのグループは、パルス着磁によるバルク体の捕捉磁場の向上を目的として、パルス磁場印加時の温度上昇の抑制の観点からパルス磁場印加時の温度と印加磁場の大きさを変化させ、45 Kで1 T程度の磁場を捕捉させた後に29 Kで6.6 Tのパルス磁場を印加することで直径45 mmのGd123バルク体に4.47 Tの磁場を捕捉させることにはじめて成功した。

 東北大学と超電導工学研究所の淡路らのグループは、Y123およびNEG123バルクの磁場中輸送特性から上可逆磁場に及ぼすc軸相関ピンの効果について検討し、電気抵抗の印加磁場角度依存性測定結果からc軸方向に強い相関のあるピンの存在を示唆するとともに、Y123では双晶界面、NEG123ではnanolamellaをc軸相関ピンの候補として指摘した。

ポスター発表では、岩手大と弘前大を中心とするグループから、各種RE123バルク体の液体窒素中での3点曲げ試験による曲げ特性とヤング率の評価結果について3件の報告があり、設計上重要な機械強度に関する地道なデータの蓄積が進められていることを感じさせた。超電導工学研究所の成木らは、BaCeO3を添加したGd123の特性と組織について調査し、BaCeO3粒子はGd211よりわずかに粗大化しているものの123相内に分散可能であり、Gd211と同等のピン特性を示すと報告した。豊橋技科大の中村らは、方向凝固法によりSm123およびGd123を作製し、Y123よりも実用上1桁近く速い引き上げ速度で連続成長組織が得られ、10 mm/hで引き上げた試料で約150 Aまでの通電が可能であることを確認したと報告した。

  (豊橋技術科学大学 中村雄一)

3. 金属系線材(A15化合物)

金属系線材(A15化合物)ではNb3Sn 9件,Nb3Al 5件, Nb3(Al,Ge) 1件で,計15件の発表があった。Nb3Al およびTa添加Nb3Snはいずれも1 GHz級NMRの応用を目指したもので,20 T近傍の高Jc化、長尺化がキーワードとなっている。

Nb3Sn では,Ta-Snを用いた(Nb,Ta)3Sn線が2件,内部拡散法の低搊失化が2件,事前曲げ歪によるJc向上が2件,その他最小クエンチエネルギーの評価式,熱膨張,Ag-Snによる拡散反応に関する発表があった。東海大・NIMSは,Sn-Ta-Cu-TiシートとNbシートをNb-Ta芯に巻きつけたジェリーロール複合体を線引き加工,熱処理をして微細組織観察と超電導特性を評価し,Tiは微細組織に影響は与えないが,反応促進に寄与し,A15相を厚くすることによりnon-Cu Jcが向上すると結び付けた。神鋼・東海大は,Ta-Sn粉末を用いたpowder-in-tube法で54 kg重量の線材を開発し,Jc, n値,RRRの電気特性,耐力の機械特性およびそれらの均一性を評価し,実用可能なレベルに達したことを報じた。

三菱電機・NIMSは,内部拡散法において高いJcを保ち,かつ,ヒステリシス搊失Q/nを低減する方法として,フィラメント群の径方向を意図的にbridgingさせ,円周方向のbridgingをなくす新しい概念を導入して,Qnを300 mJ/cm3レベルまでに減らした。この値は冷凍機冷却マグネット,核融合などへの応用可能なレベルである。

岡山大・東北大は,今まで測定した補強型,内部安定化,外部安定化など5種類のNb3Sn線の冷凍機冷却下における最小クエンチエネルギー(MQE)測定結果をBc2などで規格化することによりスケーリング化して,外部安定化銅に依存したMQEの実験的な安定化評価式を提案した。

東北大・古河電工は,従来短尺で得られていた事前曲げ歪によるJc向上を,リアクト・アンド・ワインド法Nb3Snコイルを製作してその効果を実証した。さらに,東北大・岩手大・古河電工は,事前繰り返し曲げ歪効果のメカニズム解明を行い,残留歪の中性子回折などから軸方向の残留歪の緩和を確認すると共に,Jcmの向上には軸に垂直な方向の歪状態の変化が関与していると推論した。

KEKは,NbTi,Nb3Sn複合線の熱膨張の温度変化を測定し,昇温とともに内部応力の緩和,反応生成などの材料の温度に伴う状態の変化によって熱膨張率が変化することを実験的に示した。徳島大学・NIMSは,Ag-Snの加工限界Sn濃度がCu-Sn合金より高いことを利用して多芯線を作製した。熱処理後薄いNb3Sn層の生成を確認するとともに超電導特性を測定した。AgはCuのようなNb3Sn拡散生成促進効果はないが,Sn濃度の増加によって超電導特性の向上が見られた。

Nb3Alでは,NIMSを中心として急熱急冷・変態(RHQT)法の高Jc化,長尺化,安定化材の付与,歪効果などに関する発表があった。

NIMS・日立電線は,RHQT法によるNb3Al線に関して3件発表した。1) Jcに及ぼす因子を見直し,ジェリーロールの前駆体のアルミ厚さを薄くすることにより,組成の均一化が促進されてJc向上を導いた。2) RHQT法Nb3Al線に, 500 mに亘ってイオンプレーティング+電気メッキする, 外部Cu安定化材の付与技術を開発した。3) NMRコイルに必要な2.6 km長尺の前駆体を試作し,従来の試作長さ400 mを大幅に上回った。外周ビレットに従来のNb管からNbシートに変えることにより線材表面の平滑性が増し,丸形状に近い線材に加工できたとしている。

NIMS・KEK・JAERI・NIFSは,将来16T以上で使用される核融合炉用線材として中性子照射による半減期を短くできるTaに注目し,TaマトリックスRHQT法Nb3Al線を試作した。NIMSは,RHQT法Nb3Al線の高磁場下での臨界電流の歪依存性を測定し,スケーリングパラメータでフィッティングした結果を示した。Nb3Snより歪に対して敏感でないことを数値で示した。

NIMSは,Rod-in-Tube法で作製したNb3(Al,Ge)線の前駆体を急熱急冷するための高圧下パルス通電加熱において,パルス通電加熱時間を130 msから50 msに短縮した急冷処理により最高19.4 KまでJcが向上したと報告した。

20 T近傍で使われる超高磁場NMR用線材は,Nb3Al, Bi-2212, (Nb,Ta)3Snのどれになるのか、今後の研究開発動向に目が離せない。

  (岡山大学 村瀬 暁)

4. Bi系線材

ビスマスの吊が入ったセッションは、今回の低温工学・超電導学会50余りのセッションの内で4セッション。Bi系関連の発表については以前よりも減少気味である。その中で、Bi系の単結晶や相対密度100 %の線材の評価、コイルの交流搊失特性や実規模級試作品での製品規格に則った試験結果等、材料の質や、試作品の規模、試験内容が以前と比べると相当進歩したことが伺える報告があり興味深かった。

単結晶の基礎物性の報告は、原口(九工大)、内田(東京大)、河野(九工大)などからあった。原口らは超電導体の次元性が3次元的であるほど凝縮エネルギーが大きくなることを、Pbと酸素のドープ量調整で異方性を変化させたBi(Pb)2212単結晶を用いて示した。内田らはBi(Pb)2212単結晶の臨界電流特性がCaサイトの希土類微量置換によって改善されることを明らかにした。また、河野らはBi(Pb) 2223単結晶を使って凝縮エネルギー密度の温度依存性を求め、Bi(Pb)2212やY123単結晶との比較結果を報告した。相対密度100%のBi(Pb)2223銀シース線材に関する報告は、藤上(住友電工)等からあった。藤上らは加圧焼成法によって製作した線材で、短尺ではIc = 151 A(77K, 自己磁場下)のものが得られるようになり、さらに加圧焼成によってn値も改善されることを報告した。他に、船木(九州大)らは酸化物超電導テープ線の全交流搊失測定法の標準化を目指して、共通仕様の試料を複数の機関で測定した結果を紹介した。藤井(物材機構)らはディップコート法Bi2212線材について、徐冷終了時に残存する液相の量が酸素分圧によって異なり、この残存する液相の量が少ないほどJcが高いことを報告した。

Bi系超電導体を用いた実規模級の機器関連では、秦(鉄道総研)他の鉄道車両用超電導主変圧器、市川(電中研)他の500 m超電導ケーブルの報告等があった。これらはいずれもBi2223線を使用していた。またコイル関連では、小柳(東芝)他からの高温超電導SMES用Bi2212コイル、岡崎(住友電工)他からの超電導モータ用Bi2223コイルの報告があり、またBi2223コイルの交流搊失に注目した報告が、岡本(九州電力)、福井(新潟大)等からあった。今後、これらの基礎的な材料研究と実用線材開発、そしてコイルやケーブルの基礎的な検討と機器開発がうまく融合して、大きな超電導市場が拓けることを期待したい。

  (住友電工 藤上純)

5. 酸化物超電導応用

NEDOからの委託事業「交流超電導電力機器基盤技術の研究《で開発されたBi2223テープ線による500 m超電導ケーブルのフィールド試験が実施されている。今回は、古河電工、電中研、Super-GMより、過酷・限界性能試験およびフィールド試験後の残存Ic試験について報告があった。過酷・限界性能試験では、冷凍機故障(1000 A通電時2時間15分停止)、過負荷電流(定格電流以上)、限界電圧試験(150 kV課電)などの実施により十分安定なシステム運用ができるとしている。さらに、一連のフィールド試験の後に実施された導体層とシールド層のIc測定でほとんど劣化が認められないことも示された。また、中部大学などの研究グループからは、最近のインバータ電源系の低コスト化を前提にした直流送電システムの検討結果についても報告があった。

鉄道総研、九州大学、富士電機グループ、太陽日酸より4 MVA級鉄道車両用変圧器の開発研究について一連の報告があった(一部、国土交通省の補助)。ターゲットは新幹線の主変圧器であり、現状のBi2223線材を用いて架線電圧25 kVに対応する変圧器モデル(W 1.2 m, D 0.7 m, H 1.9 m)を試作し、JISで規定された鉄道車両用主変圧器の試験方法に準拠した特性試験を実施して設計性能を検証している。また、Bi2223テープ線材の交流搊失が現状レベルの1/5程度に下がると、システム総重量の大半を占める鉄心と冷凍機の最適組合せにより大幅な軽量化と効率向上が見込めることも示している。

東芝、中部電力からは、SMES用HTS/LTSハイブリッドコイル構成の検討と、Bi2212ラザフォード導体によるモデルコイルの開発、通電試験の結果の報告があった(NEDO委託事業「超電導電力ネットワーク制御技術開発《の一環)。設計では、液体ヘリウム浸漬冷却のハイブリッドコイルは、外側のNbTiコイルと内層のBi2212コイルで構成され、中心磁界8 T, 蓄積エネルギー6.1 MJである。内層コイルの装着により、蓄積エネルギーをNbTiコイル単体時の約2倊に向上する設計である。また、内層コイルの構成単位となるダブルパンケーキモデルコイル(内径363 mm, 外径635 mm, 厚さ31 mm)の製作概要や液体ヘリウム伝導冷却運転での3000 A連続通電、三角波通電(振幅700 A)時の交流搊失などの通電特性が示された。

上述のように、最近の酸化物超伝導体・線材の特性向上に呼応して、実用化に向けて一歩踏み込んだ開発研究が進められている印象を持つ。この他にも、66 kV級限流器用超電導マグネット(東芝、東京電力、Super-GM)、プラズマ封じ込め装置用磁気浮上超電導マグネット(東芝、東京大学)、Gd系バルクを界磁子とする同期回転機(東京海洋大学などのグループ)、QMGコイルマグネット(新日鐵)などの多様な開発研究についても報告があった。また、導体電磁特性、伝導冷却など各種コイルの熱特性・交流通電特性などの基礎的研究についても裾野が広がってきていることを付記しておきたい。

  (九州大学 船木和夫)

6. 磁気分離応用

昨年の春季学会と同様、多くの磁気分離関連の発表があり、今回は6つものセッションが設けられ、30件の発表があった。

プレナリー講演で西嶋茂宏教授(阪大院)が2000トン級の製紙廃水処理システムの開発(NEDO の基盤技術研究促進事業)について発表した。製紙廃水を再利用する目的で、200~300 ppmの濃度で原水に含まれる浄化対象物質をマグネタイトで担磁し、常温ボア直径が400 mm 、発生磁界3 Tの超電導磁石により分離して、廃水を浄化する。非分離物質で飽和したフィルターは、超電導磁石を励磁したまま数十秒で「だるま落とし《方式で交換する。処理後の水を再利用可能なレベルまで(あるいは40 ppm レベルまで)浄化することに成功した。このときの処理能力は2000トン/日、必要としたスペースは6 m × 6 m × 7 m で、沈殿池で浄化する従来方式に必要なスペース200 m2 や運転のためのコストを大幅に減らすことができた。

西嶋グループからはこの他に、磁気分離の新応用分野として、次世代ドラッグ・デリバリー・システムや磁気遺伝子導入法の開発等に関する一連の発表があった。

酒井保蔵助教授(宇都宮大)のグループは、昨年に引き続き、磁化活性汚泥法に関連する11件の発表を行った。この方法では有機物を分解する微生物の棲む活性汚泥に磁性粉を混ぜて担磁させ、養豚排水等の有機物で汚染された水を磁気分離により浄化する。磁化活性汚泥法では活性汚泥を高濃度にできるので、余剰汚泥をゼロエミッション化できるという利点がある。しかし、従来の沈降分離に比べて処理水中の懸濁成分が多く残るという問題のあることが明らかになっている。この懸濁成分の挙動の研究や、内分泌撹乱物質、窒素、リン、染料(バングラデシュのダッカ大サハ教授が発表)、IT工業排水中の溶剤の除去等に関する発表があった。いずれも、磁気分離には永久磁石を使用しており、超電導化の前段階という位置づけである。

この外には、硫酸還元菌が生成する磁性硫化鉄粉末を吸着剤として利用する、ウランやラジウムが溶解した水の浄化(首都大 : 旧都立大)や、気相中の鉄のナノ粒子の分離(物材機構)、重油の海水汚染対策用MHD分離装置についての発表(神戸大のグループ)などがあった。

また、新潟大のグループは四重極磁場中の磁性粒子の振る舞いについて発表した。  磁気分離用磁性フィルターの関連では、鉄電解で担磁させたフロックの破過特性や、ステンレス・メッシュの代わりにステンレス球を用いた場合の分離特性の発表があった(首都大)。

担磁については、上記ドラッグ・デリバリー・システム等関連の外に、磁性メソポーラス活性炭(群馬大院および神奈川工科大のグループ)や、磁性粉の活性汚泥への吸着特性(宇都宮大)、エマルジョン廃液処理法(阪大院)などの発表があった。

  (首都大 伊藤大佐)

7. MgB2

MgB2はその発見以来、金属系、銅酸化物超伝導体に次ぐ第3の超伝導線材候補物質として注目されており、研究開発も活発である。本学会においては11件の報告があったが、会場は常に満員であり、本物質の材料開発に対する強い関心がうかがえた。

熊本大の春日らは電子ビーム蒸着法で作製したMgB2薄膜について、酸素導入が確かにJc-B特性の改善に有効であることを示した。また、磁場中Jcの角度依存性評価においてH // cのときにJcが極大となること、Fpの解析よりピンパラメターがNb3Snに近いことから、粒界が有効なピンニングサイトであることを指摘した。東大の桂らもMgB2バルクにおいて粒径(粒界密度)とHirrFpに強い相関が認められたことを報告し、さらに日大の前田らも、BにMgを高温(1100°C)で拡散させ低温(550°C)で長時間アニールする方法によって粒径が小さくかつ緻密なバルクを作製し、粒径の減少に期待した高い臨界電流特性が実現することを示した。東大の山本らは、B4Cや SiC添加がMgB2バルクのJc-B特性に及ぼす効果を系統的に調べ、B4C添加でもJc-B特性が大きく改善し、これがMgB2相へのC置換がその主因であることを主張した。

線材関係では、まず首都大の三浦らは酸素混入が少なく安価なMgフレークを原料に用いたin-situ法での線材作製を行い、ex-situ法よりも優れたJc特性が発現することを報告した。日大の谷口らはCuシース線材の開発を試みており、内部に繊維状のMgB2生成を目指しているが、今回は大きな特性の改善は示されなかった。同じくCuシース線材について超電導工学研究所の志村らは原料にZrH2を用いることおよび黒鉛の微量添加がJc特性改善に有効であることを示した。これに対して物材機構の椊松らはCu-Niシース線材の高Jc化を試みた結果を報告したが、Feシース線材を上回る成果は得られていなかった。JR東海の山田らはFeシース線材にSiC添加を行い900°C, 1時間焼成によって20 KでのHirrが約10 Tに達し、5 TにおけるJcが1.2 x 104 A cm-2に達したことを報告した。日立からはFe内張りCuシース線材に関する報告が2件あり、まず田中らはSiC添加によって15 K, 5 TでのJeが4 x 104 A cm-2と大幅に向上したこと、およびこの線材約100m長を用いた小型ソレノイドコイルが短尺線材のJc特性を搊なわないことを示した。高橋らはこのコイルのNb-Ti製PCSスイッチと組み合わせた永久電流運転試験の結果について報告したが、Icに近い通電電流では減衰が意外に速く、改善が必要とのことであった。

このほか、学会初日夜には、低温工学会に新しく設けられた「MgB2における臨界電流特性に関する調査委員会《の第1回が開催され、物材機構の熊倉浩明講師よりMgB2線材開発の現状と課題に関する講演および7研究機関17人の参加者を含めての熱心な議論が行われた。次回は新潟での低温工学・超電導学会に併せて開催の予定であり、鹿児島大学の土井俊哉先生を講師に招き、粒界組織とピンニングについての考察を深めることを目指すが、この研究会はオープンのものであり興味ある方の多数の参加を呼びかけている。

  (東京大学 山本明保、下山淳一)