SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

10. SFQデジタル技術の現状と将来


 SFQを使ったデジタル技術がこのところ世の中をにぎわしている。SFQとは単一磁束量子のことだ。単一磁束量子を回路の中を動かして演算をするということを想像しても楽しい。しかし、楽しいから研究をやるということでは済まされない。何か有意義なことがあるか研究を行うのである。

現在のCMOS、これは今のコンピュータを形成している主要な技術であるが、このCMOSも微細化が進められ、行き着くところへ来たという感じである。まず、消費電力が大きくなってしまい、これ以上集積できなくなってきた。また、配線のディレイは微細化によってスケールしないので、微細化が進んでも一向に小さくならずむしろ大きくなっている。このように、消費電力の問題、あるいは配線のディレイは、CMOSのアキレス腱ともいえるものだ。

ところで、SFQ技術はこのCMOSの問題を解決しそうなのである。まず、消費電力はCMOSに比べて3桁程度小さい。SFQは止まっていれば、超伝導なので電力は消費しない。動いていても、電力は非常に小さい。また、SFQ論理はCMOS論理と違って、パルス論理であるがために、線路の中にいくつものSFQを入れることが出来、そのためにスループットが非常に高く出来、また超伝導回路であるのでCR時定数では支配されずに、回路を伝播する速度は、光速(回路の)である。

このように、SFQ技術はCMOSの今直面している問題を解決できそうな技術であり、世界的にも研究が進められている。しかし、SFQ技術は超伝導を使うために動作環境は極低温になってしまい、あれにもこれにも応用できるわけではない。応用分野は、極低温を使うということで、ある程度システム的に大きなものにならざるを得ない。我国では、ルータのスイッチを目指して研究を進めている。また、将来のコンピュータとして応用が可能なマイクロプロセッサーの研究も行っている。このほか、SFQの特長を生かしたA/Dコンバータの研究もある。

ルータ用のスイッチの研究は非常に進んでいる。現在、回路の研究としてどうしても通らなければならない回路設計技術の開発では、セルベースの手法をとり、トップダウンで回路を設計できるようになっており、また、自動配置配線のツールも開発済みだ。

また、新しい集積プロセスも開発を終了している。配線層の数を増やすには、どうしても平坦化をしなければならない。各層に平坦化技術を導入したプロセス技術は開発済みで、現在までに9層のNbレイヤーを持つものが完成している。

ところで、ここで重大な問題が出てきた。それは、これまで動作できる回路がジョセフソン接合の数にして、順調に伸びてきたのが、ここへ来て伸びがなかなか上昇しなくなったことだ。現在最も大きな回路は、マイクロプロセッサーで、7200接合を含んでいる。回路としては、さらに大きなものも作れなくては話にならない。研究を進めてゆくと、どうもこれは、電源電流が大きくなり、その作る磁場が回路の動作に影響を与えているらしい。現在、電源電流の部分をシールドしたり、回路を工夫して電流が集中しないようにするなどの対策を行おうとしている。さらに抜本的に電源電流の問題を解決する方策を考えているところだ。

さて、このような回路の問題ばかりではなく、システムとして動くかという問題がある。すなわち、室温から信号を入れ、低温環境から室温の信号を出すということだ。この問題は、最も重要な問題であるにもかかわらず、今まで手がつけられていなかった。最も重要なところは、ジョセフソンの出力が小さく(0.4 mV)、室温の半導体装置には直接つなぐことが出来無くて、増幅をしてやらなければならない。しかも、高速につなぐことはそれほど簡単なことではない。そこで現在、SFQの信号をジョセフソン接合で増幅し、さらに化合物半導体の増幅器で増幅しようとしている。この結果はそのうちに出てくると思われるが、この成否がプロジェクトの成否を左右するといっても過言ではない。

このように、SFQ技術は、成功すれば面白い技術になるが、その成否は現在取り組んでいる問題の成否にかかっているといっても良い。

  (吊古屋大学 早川尚夫)