SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.3, June. 2005

1. 無冷媒ハイブリッドマグネットで世界最高磁場を達成_東北大、住友重工_


 東北大学金属材料研究所の渡辺和雄教授の研究グループは、住友重機械工業との共同研究において、液体ヘリウムを使用しない無冷媒型ハイブリッドマグネットでは世界最高となる27.5 Tの強磁場の発生を達成した。今回の記録達成により、これまで本装置では磁気浮上させることができなかった半導体素材の浮上が可能となり、新しい材料開発などへの貢献が期待される。

今回開発した無冷媒型大口径超伝導マグネットの外観写真を図1に示す。マグネットは、外径1300 mm、高さ1610 mm、重量3200 kgで、直径360 mmの貫通室温空間を有し、コイル中心で10 T発生する設計としている。超伝導コイルは4つに分割されており、内側2つのコイルはNb3Sn線材、外側2つのコイルはNbTi線材を使用している。線材への電磁応力は、線材自体の電流密度より算出し、最大でNb3Sn線材に204 MPaがかかっている。通常のブロンズ法-Nb3Sn線材では、この応力に耐えられないため、強化Nb3Sn線材を採用している。室温からの初期冷却は約207時間で、冷却重量1800 kgを4 K以下まで冷却する。1.5 W / 4 Kの能力を有するGM冷凍機4台を用いて、コイルの最低到達温度は約3 Kとなる。

  今回の達成は、開発した無冷媒型大口径超伝導マグネットの室温空間に、大電力型水冷銅マグネットを配置したハイブリッドマグネットによるものである。無冷媒超伝導マグネットとして、単体でコイル中心に9.5 Tの定常磁場発生を確認した後、安全性のため8.5 Tまで磁場を下げて、水冷銅マグネットと組み合わせたハイブリッドマグネットモードでの試験を実施した。水冷銅マグネットを定格磁場の19.0 Tまで励磁し、無冷媒超伝導マグネットの8.5 Tとの合計で27.5 Tが32 mmの室温実験ボア中心に得られた。磁場発生は、ホール素子により実験ボアの縦方向に測定され、得られた磁場分布より磁気力場を計算した結果、4500 T2/mが得られることが分かった。無冷媒型大口径超伝導マグネットの磁場を高め、更なる強磁場を目指す予定である。

  強磁場を用いると、ガラスやプラスチックなどのように通常は磁場に応答しない非常に小さな磁化率を持つ反磁性体などの物質を、重力に逆らって浮上させる磁気浮上が可能となる。今回開発した無冷媒型ハイブリッドマグネットで、これまで実現できなかったInSb半導体の浮上実験に成功した。物体を浮上させると、重力の影響を排除することができ、アニーリング処理で粒子の向きを統一するなど、重力下では困難な処理も容易にできる。また、物質の溶融にるつぼが上要となり、上純物の混入を防ぐことができる利点もある。今後、半導体などの磁気浮上溶解実験へと研究を進め、液体ヘリウムを一切必要としない磁気浮上による材料開発などへの適用が期待できる。

開発リーダーである東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターの渡辺和雄教授によれば「これまでの通常の超伝導マグネットは、超伝導を発生させるのに膨大な量の液体ヘリウムが必要であった。液体ヘリウムは高価なこと、蒸発しやすいために扱いが難しいということがあり、一定磁場を長時間保持するにはそれらがネックになっていた。これに対して、無冷媒型ハイブリッドマグネットは、超伝導の発生に液体ヘリウムを一切使用しないため、時間的な制約にとらわれず、強磁場を活用する材料開発に非常に有効である。また、液体ヘリウムの供給設備も上要となり、装置もコンパクトにでき、今回の成功は強磁場を用いる産業応用に画期的な新展開が期待できる。《としている。また、設計および製作を担当した住友重機械工業技術開発センターの石塚正之技師および伊藤智幸研究員らによれば、「当社がこれまでに無冷媒型超伝導マグネットで培ってきたトータル技術を駆使することで、今回の成功に結びついた。特に、超伝導コイルにかかる電磁応力が、これまでに比べて大きくなるため、高強度のNb3Sn線材が必要となり、250 MPaの0.2 %耐力を有するCuNi/NbTi強化のNb3Sn線を東北大金研と古河電工との産学連携研究により開発してもらいクリアできたことが大きく寄与している。今回開発したマグネットは、特殊ユーザーに限定されるが、得られたノウハウを活用して、今後、既に一般ユーザー向けに販売している無冷媒型超伝導マグネットの商品力を高めていきたい《とコメントしている。


図1 無冷媒型大口径超伝導マグネット外観写真

  (なつしま)