SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.2, April. 2005

8. MOCVD法2G線材で10,050 Amを達成!
  _米国IGC社_


 懸命な年末の努力が最高潮に達するころ、IGC社子会社SuperPower社の技術陣は、2G線材に関する同社の2004年目標を達成し、97 m長で103.7 Aの臨界電流(Ic)を持つ即ち10,050 Amの線材の製造に成功した。この結果は、SuperPower社が2004年7月に達成した7000 Amの記録を上回るものである。SuperPower社はまた短尺、1 m及び8 m長のサンプルでそれぞれ400 A、 265 A及び 200 AのIcを達成したことを発表した。これら全ての結果は、同社の専有特許−金属有機化学的蒸着プロセス(MOCVD)で作製したものである。SuperPower社の97 m—103.7 Aの線は、同社の2G線材開発の着実な前進と同時に、どんな長さであれ当線材を製造することの困難性を示すものである。SuperPower社は、他の積層プロセスの探索は続けているが、自社専有のMOCVDプロセスに賭けている。 (SuperconductorWeek誌2005年2月2日号 Vol. 19 , No. 2 )

SuperPower社社長のP. J. Pellegrino氏は、「MOCVD技術は半導体ウェーファの作製のため20~30年間採用されてきた技術で、新しいものではない。しかしながら、YBCOを蒸着するためのreel to reelの連続プロセスにこれほどまで本技術を適合させたのは我々が最初だと思う。当社のMOCVDプロセスは競合技術より極めて高速に線材を製造できると思う。我々の特許を適用したMOCVD技術は、設備費が安価であり、モジュール的構成が可能で、拡張しやすい特徴を有する。これにより競合上有利になると予想している《と語った。

SuperPower社によれば、ASC社が採用しているMODプロセスの積層速度は1~10 Å / 秒であるが、MOCVDプロセスでは150 Å / 秒である。SuperPower社の製造速度目標は、20 m/hrである。Pellegrino氏は、この目標を達成出来ると確信している。

SuperPower社は、同社がMOCVD向けに開発したテープ取り扱いシステムはMODには開かれていない他の有利性を提供する。同社のreel to reel連続プロセスは、積層のためテープをヘリカル形状に成形して、多本数のテープ条が同時にプロセスを通過出来るようにしている。これは各層間の一貫性と積層の効率を改善する。Pellegrino氏は、「MOCVDはin situ法であり、テープ上の全面積を均一な蒸着に曝すプロセスに於いてより多くの制御性を与えよう。MODは、ex situ法であるので、この種のテクニックには本当は適していない《と語った。

電子銃と加熱炉中の蒸発を利用するTHEVA社の2G線材積層プロセスは、MOCVDと同様な方法を用いる利点を持ち、テープを何回も巻き付けて20×20cm2の蒸着面積をより有効に利用している。このような配置は、蒸着の総合的複雑性を減少させ、本プロセスの信頼性を増加させる。

自社の積層プロセスの安定性を改良しようとするSuperPower社の努力により、同社の専有技術ポートフォリオに追加される新しい技術開発に導いた。Pellegrino氏は、SuperPower社が自社自身の研究に投資することにより、他社がMOCVDにアプローチする道を閉じたと信じている。

パルス・レーザー蒸着法(PLD)は、世界的に採用されている共通アプローチであり、とりわけフジクラの例が有吊であるが、比較的に公開された非専有技術といえる。(フジクラは又MOCVD技術も研究はしているが、開発はPLDに集中している。) PLDのような比較的公開された技術を開発する資金的裏付けも良い国際的努力が、特許性のより基本的特徴を持つMOCVD及びMODのようなプロセスに最終的に打ち勝てるかどうかが今や注視されている。

昨秋、フジクラは記録的な13,230 Amの2G線材を製造した。当線材は、105 m長で126 AのIcを実証した。その時同社は、200 A以上のIcを持つ200m以上(40,000 Am)の線材を2005年3月までに製造すると発表した。フジクラは、2007年度にR&D応用向けに2G線材の導入を期待している。その時点では500 m以上の線長で300A以上のIcを提供出来るという。

フジクラが量産に向けてスケールアップする過程で困難に直面する事を示唆しながら、Pellegrino氏はテープの幅方向に亘って高い均一度の蒸着を達成する事は、PLDにとって大きな挑戦であると語った。これは、3 m / hrの製造レートではPLD蒸着はむしろ遅いからである。しかしながら、十分な蒸着均一性を持つ幅広のテープは製造可能である。そしてスリットする事で生産レートを数倊に増加できよう。因みにSuperPower社は、MOCVDプロセスの安定性と積層均一性において顕著な前進を成し遂げたと云う。SuperPower社は、最近12 mm幅のテープを作製し、それをスリットして3本の4 mm幅テープ線材を作製している。

Pellegrino氏は、MOCVDプロセスに使われる設備の低コストがPLDに対するもう一つの有利性と考えている。同氏は、「PLD製造設備の高コストがフジクラの課題であると考える。エキシマレーザー装置のコストが大幅に低減しないなら、PLDによる商用生産のため適当な資本支出に抑さえる事は困難である。《と云った。高い運転コストは、PLDを採用する開発者が直面するもう一つの困難性である。これには、種々のガス及び排出物、HTSターゲット、真空システム、その他設備の維持費等が含まれる。

IGC社社長のG. H. Epstein氏は、今年末までに当線材を売り出すと云う初期の声明を繰り返した。Pellegrino氏も、「我々は既に実証デバイスの製作を熱望する特定の人々に2G線材を売り出している《とつけ加えた。

同社は、2006年にはもっと大量の製造段階に入ることを期待している。その時点の年産容量は、年当たり1000 kmになると予想されている。しかしながら、SuperconductorWeek誌が過去に指摘したように今回単一企業がそのような大量の線材を販売する方法は無いだろう。近年に於ける1G線材向け全体世界市場は、年当たり800 kmであり、主としてR&D目的に販売されたものである。

SuperPower社の2G線材開発努力は、2000年以来系統的に米国エネルギー省(DOE)から資金的支援を受けている。同社はまた、国立研究所の幾つかとCRADAs(協同的研究開発協定)を結んでいる。それには、2G HTS技術を量産技術にスケールアップする為のロスアラモス国立研究所(LANL)との2年間、340万$ のCRADAなどが含まれている。

  (こゆるぎ)