SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.1, February. 2005

4. 心磁計を用いた心筋電気活動の3次元画像化技術を開発―心臓の裏側を同時検査可能に_日立製作所中央研究所_


 心磁計(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて心臓の電気活動に伴って流れる電流分布の3次元画像化技術を開発した。開発技術は、心臓の前面と背面から測定した心磁図をもとに、心臓の立体形状モデル上に電流分布像を再構成するものである(図1)。心臓全体の電気活動情報と解剖学情報を一度に観察できるため、心臓内の電気生理学的現象を視覚的に捉えることが可能となる。そのため、心臓疾患の詳細なメカニズムの解明や新たな診断法の確立などへの臨床応用が期待されている。

心磁計とは、心臓の電気活動に伴って体表面に表れる微弱な磁場を、SQUIDセンサーで測定する装置であり、患者さんは朊を着たまま、非接触・無侵襲かつ短時間で心臓細部の電気活動を計測できる。また、心臓の正面だけでなく背面からの測定も可能であり、今まで評価されていなかった心臓背面の電気活動を捉えることができる。心磁計を用いた心疾患診断は、主に磁場信号から得られる2次元の電流分布像を用いて行われる。電流の伝播方向や活動部位を評価することで、上整脈や狭心症などの心疾患の早期段階を検出できることが明らかになり、心磁計への期待が高まっている。

 近年では、心磁計から心臓の3次元電流分布像を得ることができると、より多角的に心臓疾患のメカニズムを解明でき、心臓電流分布の3次元画像化技術の開発が強く望まれている。そこで、心臓の立体形状モデルの位置合わせ技術と3次元電流分布表示技術を開発し、電流分布の3次元画像化を実現している。

開発技術は、心臓の立体形状モデルの位置合わせ技術と3次元電流分布表示技術からなる。立体形状モデルの位置合わせは、平均的な心臓の形状を模擬した心臓立体モデルを作成し、心臓立体モデルと心磁図との位置合わせを、心臓の洞結節と呼ばれる位置を基準にして行われる。また、3次元電流分布は、正面および背面の2方向から計測された心磁図から再構成される。心磁図は心臓から計測面までの距離によって磁場強度が大きく異なるため、再構成された電流強度も異なる。そこで、正面と背面電流分布の強度のレベル合わせおよび補間方法を簡易に行なう計算手法を用いている。

 今回開発した心磁計の3次元電流分布画像化技術を用いて、健常者の心臓を観察したところ、心房の電気活動が正面側(右房)と背面側(左房)で異なる時間で活動している様子を確認できる(図1)。また、心臓全体の電気活動を3次元画像として一度に観察できるため、電気信号と心臓の部位との関連を、詳細に知ることが可能となる。日立製作所中央研究所、ライフサイエンス研究センターの緒方邦臣氏は「心磁計の有効性を更に高めるため、本画像化技術を用いて、心臓疾患のメカニズム解明への応用を目指します。《と語っている。 

                       

                               


(a) p波前半における電流分布像


(b) p波後半における電流分布像

図1 健常者における3次元心臓電流分布像の測定例

p波:心房の電気的興奮(脱分極)に伴って生じる波形

(くにちゃん)