SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.1, February. 2005

2. 超電導フライホイールで世界最大5 kWhのエネルギー貯蔵に成功_四国総合研究所_


 高温超電導磁気軸受支持による超電導フライホイールで、四国総合研究所は、昨年10月に世界最大となる5.0 kWhのエネルギー貯蔵運転に成功した。同社は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進めている国のプロジェクト「フライホイール電力貯蔵用超電導軸受技術研究開発《(平成12~16年度)において製作された設計容量10 kWh級のシステムを用いて、平成16年度に運転試験を行っていた。大容量システムのミニモデルとして製作された本機の運転成功は、超電導フライホイールの大容量化に道を開くものとして注目される。本研究は、NEDOプロジェクトで試作された10 kWh級システムを用いた運転試験を四国総合研究所が、四国電力から受託し実施したものであり、運転試験は、プロジェクトの運転試験サイト(愛媛県松山市、本誌Vol. 9, No. 1, 2000. 2 既報) において昨年12月まで実施された。

 本機の最大の特徴は、将来のシステムの大型化を見越して基本的な構造をラジアル型超電導軸受を用いたアウターローター型にしていることであり、普通のインナーローター型に比べて容量の割には複雑になっている(図1)。YBCOバルク超電導体の冷却とネオジム永久磁石の耐遠心力対策のために、超電導体を内側の固定軸側に、そして永久磁石を外側の回転軸側に配置し、その回転軸にフライホイール本体を締結している。回転軸内部にアウターローター型発電電動機を収紊し、回転軸の外側にラジアル磁気軸受を配する2重構造とすることにより、軸長を短くして回転の安定化を図っている。

直径1.0 mのCFRP製フライホイールや回転軸などの回転部の総重量は433 kgあり、これを軸中央部のラジアル型超電導軸受のみで支持する。軸の上下にはラジアル磁気軸受があって、ラジアル方向の回転振動を抑制する。これら2種の軸受により完全非接触高速回転を実現する。ラジアル型超電導軸受の軸方向長さは約30 cm、超電導体と永久磁石の対向面積は1,160 cm2であり、回転体を支持した時の超電導軸受の載荷力密度は0.37 kg/cm2となる。他に軸受としては、調整時に一時的に使用するだけのスラスト磁気軸受と超電導軸受のクエンチ時などに回転体を支える保護軸受があるが、これらは何れも通常の運転時には使用せず、非接触である。エネルギーの出し入れは発電電動機により行う。

システムの製作に当たっては、重要部品である超電導軸受の超電導体部を国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)が、永久磁石部をNEOMAX(前住友特殊金属)が、そしてフライホイール本体を含む残りの大部分を石川島播磨重工業(IHI)がそれぞれ担当した。また、四国総合研究所は、超電導軸受の性能評価や軸降下抑制技術の確立などの超電導軸受の運用面を担当してきた。

運転試験の成果について、試験責任者で研究開発に初期から携わってきた前田主席研究員は、ラジアル型超電導軸受の実用性を検証できたことを第一に挙げる。ラジアル型超電導軸受は大容量機に適しているとの期待があったとはいえ、軸受自体の試作実積も少なく、ましてやこれを用いた本格的な回転機の試作は皆無であったため、高速回転体の軸受として本当に機能するのか、磁束クリープによる超電導軸受の軸降下がどの程度あり、その対策をどうするか、回転制御にどう影響するのかなど、未知の疑問・難問があったという。

超電導軸受について言えば、まず、実機では全長30 cmにもなる筒状の超電導体の冷却方法に工夫が必要であった。超電導体の背面だけから液体窒素で冷却する従来の方法では、永久磁石対向面側を十分冷却できない恐れが予見されたため、超電導体を段重ねする間に液体窒素を流入させるためのスペーサーを挟んだ。その結果、本機の超電導軸受の最大載荷力は約900 kgと推定され、期待どおりの性能を発揮している。

超電導軸受の軸降下問題に対しては、予荷重法と呼ばれる方法で対処した。予荷重法とは、初期冷却後に一度、実際の回転体の重量以上の荷重を掛ける方法であり、これにより最初に必要以上の磁束を超電導体にトラップさせることとなり、その後の軸降下を抑制できる。結果として、実際の半日程度の運転においては、軸の上下変動が100 m程度あるが、そのほとんどが回転軸の温度上昇に伴う軸長の伸びであり、磁束クリープに起因する軸変動は無視できる程度であった。

このように超電導軸受の調整は比較的順調に進んだが、安定な回転のためには制振という超電導とは別の技術が必要であり、これにはIHIの協力が上可欠であった。超電導軸受のラジアル方向のギャツプは800 m であるため、いかなる時にもこれ以下の振動に抑えなければならない。超電導軸受にはラジアル方向の剛性はあるものの、振動を抑える減衰定数が小さいため、この減衰定数を増加させる別の手段が必要であり、それがラジアル磁気軸受である。危険速度としては回転数の低い方から剛体パラレルモード、剛体コニカルモード、一次曲げモードなどと続き、それぞれ制御すべき周波数成分が異なる。全回転域に亘って良好な制御を行うには、繰り返して制御パラメータを追い込む必要があった。こうした作業の積み重ねにより、10月末に遂に11,250 rpm (エネルギー貯蔵量5.0 kWh)に達した。このとき、900 rpm付近の剛体パラレルモードで軸振動が約200 mp-pで最大であり、それ以外では50 mp-p以下と安定した回転を実現できた。しかし、この回転域付近から回転の安定性を表す減衰比が小さくなり始めたため、現状のラジアル磁気軸受のままでは、これ以上の高速回転は難しいとの判断になった。なお、スラスト方向の制振は行っていないが、特に振動が大きくなる現象は観測されていない。また、超電導軸受の磁気的中心と回転中心の偏差に起因する振動を心配していたが、その影響が僅かに観察された程度で、ラジアル磁気軸受で十分抑制できる範囲内であった。

ともあれ、前例のないラジアル型超電導軸受を用いた超電導フライホイールで11,250 rpmの高速回転を実現できたことは事実であり、これにより、大型化への光明が見えたといっても過言ではないだろう。

                   

                               


図1 10kWh級超電導フライホイールシステム



(FWwatcher Jr.)