SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.14, No.1, February. 2005

17. 新規磁気応用研究会 報告


  第2回新規磁場応用に関する調査研究会(低温工学協会)が先日開かれ、帯広畜産大学畜産学部COE研究員の井原一高氏が「磁気力と電気化学反応を利用した小規模分散型廃水処理《と題して講演した。井原氏は東京都立大学工学部の渡辺恒雄教授らとともに磁気分離を用いた新規廃水処理システムの開発を行っており、今回の講演は廃水処理システムの原理から研究の現状、そして今後の展望まで含めたものであった。以下にその概要を紹介する。

 現在の廃水処理は下水道及び終末処理場を用いた大規模集中型が中心となっているが、全ての汚染源への敷設は経済性や環境負荷の点で難しく、その限界が見えるようになってきている。また、処理場内での処理方法として採用されている生物的手法においても「窒素やリンの処理が困難《「難分解性物質に上向き《「低速《などの問題点があり、これらの解決のため、物理化学的手法を用いた小規模分散型システムを研究しているという。現在研究している小規模分散型システムは2つのプロセスで構成されており、高勾配磁気分離を用いた分離と、電解酸化法を用いた分解である。

 前者の高勾配磁気分離とは、超伝導マグネット(最大10 T)の作る高い磁場勾配によって磁性をもつ粒子を捕捉・分離する方法である。分散媒中の粒子が磁性線の近くを通過すると、粒子は磁性線近傍の磁場勾配から力を受けて磁性線に捕捉される。このときの磁気力は磁場勾配、粒子と分散媒の磁性差、粒子の体積の三要素によって決定されるが、磁気分離応用における最も重要な要素は粒子と分散媒の磁性差であるとし、汚染物質であるリンや有機化合物への磁性付与手法として、鉄電極を用いて廃水の電気分解を行う鉄電解法を採用していた。鉄電解法によってリンから常磁性を示すリン酸鉄が生成し、磁性付与が可能である。さらに、同時に生成する水酸化鉄コロイドへの有機化合物の吸着により、有機化合物に対する磁性付与も可能であり、超伝導マグネットを用いた高勾配磁気分離によって実用的な流量での高速分離が実現可能であるという。超伝導マグネットのボアを通過する流水管にシームレスメッシュを詰め、10 Tの磁場中で100 L/hの廃水処理を行った実験において、粒子がメッシュに付着する様子が観察でき、懸濁物質の低減が見られ、この方法の可能性を示すものであった。

 後者の電解酸化法とは、強力な酸化剤によって酸化分解を行う促進酸化法の一種で、電極表面付近での反応である直接酸化と電極間のバルク中での反応である間接酸化の2つに大別することができる。直接酸化においては主にOHラジカルが酸化剤として働き、有機化合物をCO2に分解することが可能で、間接酸化においては次亜塩素酸が酸化剤として働き、有機化合物及びアンモニア性窒素の分解が可能であるという。処理実験においても、有機化合物とアンモニア性窒素それぞれの分解が可能であることを示す結果が出ていた。

 すなわち、井原氏らの小規模分散型廃水処理システムの基本コンセプトは「鉄電解法による磁性付与が可能な物質は高勾配磁気分離で汚泥として分離し、その後、分離水に電解酸化法を適用して磁性付与が困難な物質を分解する《である。ここまでの各手法の説明の後、ベンチスケールの廃水処理装置による現地試験の結果が紹介された。

1つ目は埋立地浸出水の処理試験である。100 L/hの高勾配磁気分離によって全リンが0.80 mg/Lから0.13 mg/Lと大きく低減され、また有機化合物においても630 mg/Lから520 mg/Lと一定の低減効果が見られた。一方、水酸化鉄コロイドへの吸着が困難とされるアンモニア性窒素には効果が見られなかった。この磁気分離水に回分式の電解酸化を9時間行ったところ、有機化合物が520mg/Lから200 mg/Lとさらに低減され、アンモニア性窒素においても335 mg/Lから31.8 mg/Lと磁気分離の後処理として有効であることを示し、このシステムの有用性が実証されていた。

 2つ目は屎尿の処理試験である。この試験においては、エネルギー効率を高めるために鉄電解、電解酸化のそれぞれにおいて隔膜付きの電解セルを導入していた。この試験においても懸濁物質や有機化合物、窒素、リンの低減が見られ、また廃水の脱色効果も確認できたことから、屎尿処理システムとしても有用であるとしていた。

 以上の結果から、鉄電解と高勾配磁気分離、そして電解酸化法を組み合わせた廃水処理システムは小型かつ高効率であり、今後、汚染源への設置による分散型システムへの展開が期待できるという。実用化への課題としてはエネルギー効率の向上を始め、高勾配磁気分離におけるフィルタの効率とメンテナンス性の向上、電解酸化法における副生成物の抑制と生物毒性の確認を挙げていた。

 講演終了後には活発な議論が交わされ、磁気応用を織り込んだ新規廃水処理システムへの高い関心がうかがわれた。環境問題は依然として我々の抱える大きな課題であり、このシステムが今後どのような寄与をしていくか注目したい。 

                                                   

                               

(東京大学:本郷 弘毅)